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飢えた王国 ~麦を奪って生き延びた俺は、誰も麦を奪わなくていい国を作る~  作者: レモンティー


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第八十八話 パン一切れを盗んだ少年が、死刑になるところだった

王都アルディアの市場に、十三歳ほどの少年が縛られていた。

「パン屋から盗みを働いた者だ!」

警備兵の声に、人々が集まった。

少年は痩せ、袖の端は擦り切れていた。

通りかかったエリクは、少年の顔を見て足を止めた。

「……君は」

以前、王都の城門前で会った少年だった。

妹のためにパンを盗み、助けを求めていた。

だが妹は、その後亡くなったと聞いている。

「どうして、また盗んだの?」

少年は俯いた。

「腹が減って……仕事もなくて。妹が死んでから、何をしてもいいと思った」

エリクは息を呑んだ。

あの日の助けが、その後の暮らしに届いていなかった。

警備兵が言う。

「繰り返し窃盗を行っています。重罪として死刑が求められています」

「パン一切れで?」

「繰り返したのです」

パン屋の主人が前へ出た。

「俺だって麦を買うのに借金をした。盗みを見逃せば、店が潰れる。うちにも子供がいるんだ」

エリクは主人に向き直った。

「被害を軽く扱うつもりはありません。盗んだ分は返すべきです」

「なら、どうする」

「まず、この子が配給から外れた理由を調べます」

役人が名簿を持ってきた。

少年は以前の住まいを失い、施設へ登録する前に転々としていた。

配給を受けるための住所も保証人もなかった。

「名前はあるのに、受け取る場所がないのか」

エリクは帳面を閉じた。

「これでは、同じ子供が何人も出ます」

少年が小さく言った。

「罰は受ける。だけど、殺されるのは怖い」

エリクは膝をつき、少年と目を合わせた。

盗まれたパンにも、それを売って暮らす人の明日があった。

エリクは少年だけを救うのでも、店主だけを守るのでも足りないと知った。

「盗んだことは、なかったことにはできない。でも、命で償わせる必要はない」

エリクは役人に、死刑の執行を止めて審理をやり直すよう求めた。

被害の弁償と保護施設への入所、仕事の訓練を条件にした処遇を提案した。

「俺が身元引受人になります」

パン屋の主人は腕を組んだ。

「うちの損は誰が払う?」

「少年が働けるようになったら、少しずつ返します。それまでは救済の予算から立て替えられないか、役所に確認します」

「また盗んだら?」

「責任は取らせます。でも、まず食べて、働けるようにしなければ」

少年が顔を上げた。

「掃除なら、できます」

主人は長い間黙っていた。

やがて、店の裏口を指した。

「訓練が終わったら、日の出前に来い。最初は床掃除からだ」

少年の目から涙がこぼれた。

「……ありがとう」

エリクは首を振った。

「礼を言うのは、ちゃんと食べて働けるようになってからでいい」

少年が施設へ向かうのを見届け、エリクは配給名簿を開き直した。

パンを盗む子を罰するだけでは、次の子が現れる。

一切れのパンを盗まなくても生きられる仕組みを作らなければ、飢えた王国は終わらない。

パンを盗んだ少年を前に、エリクは十年前の自分を見た。

「盗んだことは悪い」と役人が言った。

「そうです」とエリクは答えた。

「でも、なぜ盗むしかなかったかを調べずに罰しても、明日は別の子が盗む」

少年の母親は病に倒れ、配給札の更新に行けなかった。

窓口は決まり通りに札を失効させていた。

クリスが役人に尋ねた。

「歩けない人が更新できない制度なら、誰のための制度なの?」

翌日から、病人や孤児のための巡回登録が始まった。

少年には罰ではなく、失ったパンの弁償を手伝える仕事と食事が与えられた。

エリクはそれで罪が消えたとは思わなかった。

ただ、罪を繰り返さずに済む道を一つ増やせたと思った。

パンを盗んだ少年を前に、エリクは自分の手を見た。

十七歳の冬、自分も麦を奪い、人を殺した。

その記憶は法を曲げる理由にはならない。

しかし飢えを裁くなら、飢えを生んだ仕組みも裁かねばならない。

「盗みは許されない」と彼は言った。

「だが空腹の子を処刑して、次の盗みがなくなると思うのか」

クリスは配給所の入口に、数字を読めない人のための木札を吊した。

麦一杯は丸印、水一杯は波印。

受け取った人は自分で札を裏返す。

「役人が帳簿を書き間違えたら、どうするの」と子供が尋ねた。

「あなたが教えて」とクリスは答えた。

翌日、少女が一枚の札の数え間違いを見つけた。

役人はその場で訂正し、謝った。

少女は訂正された札を確かめ、初めて笑った。

役人は翌日から、数え直しを子供にも頼むことにした。

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