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飢えた王国 ~麦を奪って生き延びた俺は、誰も麦を奪わなくていい国を作る~  作者: レモンティー


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第七十七話 最後の戦争で、農民たちは領主の軍隊を破った

戦闘二日目。

グレイン侯爵軍は、浅瀬で足止めされた騎兵を引き戻し、再び正面の土塁へ兵を集めていた。

「今日は柵を破るつもりだ」

カールが地図を指した。

守備側の二千人は、前日の負傷者を引けばさらに少ない。

真正面から押し返せば、村人を守るための兵まで失う。

ドランが一つの提案をした。

「侯爵軍の後方にある補給車列を押さえる。焼かずに奪えば、敵兵を殺さずに進軍を止められる」

「捕らえた麦はどうする」

エリクが尋ねる。

「台帳に載せる。敵兵の分も含めてな。空腹の兵士は、命令だけでは引き返さない」

夜明け前、ドランの部隊が林道から補給車列へ回り込んだ。

荷車の御者たちは武器を持たず、戦闘が始まると地面に伏せた。

ドランは火をつけるなと命じ、麦袋と馬を確保した。

侯爵軍の前線へ知らせが届いたのは、攻撃開始の直前だった。

「補給が奪われた?」

兵士たちが顔を見合わせる。

二日間まともに食べていない部隊もあった。

侯爵は進撃を命じたが、隊列は動かなかった。

カールは白旗を持った使者を送った。

「武器を置けば食事と治療を与える。村の畑を焼かずに帰れ」

敵の将校は笑った。

「降伏した兵を養えるほど、そちらに麦があるのか」

「十分にはない」

エリクは使者にそう伝えさせた。

「だから捕虜の人数を記録し、村の配給と分けて管理する。隠して奪うことだけはしない」

午前、侯爵軍の一隊が武器を置いた。

別の隊は命令に従い、土塁へ突撃した。

カールの兵が盾を合わせ、ガルムが崩れた柵を支えた。

矢が飛び、農民が倒れた。

「追いかけるな!」

退き始めた敵兵を追おうとした若者に、カールが怒鳴った。

「畑を空にしたら、何を守ったことになる!」

やがて補給を失った侯爵軍の攻撃は途切れた。

降伏する部隊が増え、侯爵自身も逃走の途中で捕らえられた。

四千人の軍勢は敗れた。

だが村の広場には、勝利を祝う声がなかった。

負傷者を運ぶ荷車が足りず、刈り残した麦の間には倒れた者の血が残っていた。

「……何人死にましたか」

エリクが尋ねる。

「まだ確かめている」

カールは答えた。

「敵も味方も、名前を調べる」

救護所では、捕らえられた若い兵士が水を求めていた。

農地防衛隊の男が桶を蹴り倒す。

「こいつらが俺たちの麦を焼こうとしたんだ!」

エリクは桶を起こした。

「だから武器を取り上げました。水を奪っても、焼けた麦は戻りません」

「お前はこいつらを許すのか!」

「許すかどうかは、まだ決められません。でも、ここで死なせる理由にはならない」

若い兵士は震える手で水を飲み、呟いた。

「俺も、農家の息子です」

ガルムは折れた鎌を拾った。

「なら、生きて帰れ。帰れたら麦を作れ。二度と他人の畑を奪いに来るな」

エリクは収穫袋の数と死者の名前を別の帳面に書かせた。

麦は数えられる。

けれど、戻らない人の重さは袋の数に置き換えられない。

夕方、村の者たちは刈り残した畑へ戻った。

昨日まで敵だった兵士の中にも、武器を預けて麦束を運ぶ者がいた。

誰もすぐには信用しなかった。

それでも鎌は、人に向けられず、麦へ向けられた。

エリクはその光景を見つめた。

最後の戦争と呼べるのかは、まだ分からない。

ただ、明日も畑を耕せるようにすることだけは、ここから始められる。

戦いの翌日、カールは戦死者と行方不明者の名簿を村の広場に貼り出した。

守備側の名も、降伏した敵兵の名も、同じ大きさの字で書かれていた。

「敵の名前まで書くのか」若い兵が抗議した。

「家族が探しに来る」とカールは答えた。

「名を消せば、戦が終わっても帰れない者が増える」

クリスは救護所を回り、返事のできる者の故郷を書き取った。

セドは父の名を探したが、そこにはなかった。

父はこの戦いより前に飢えで死んでいた。

「戦死者なら記録が残るんだな」と彼は呟いた。

「飢え死にした父さんは、どこにも載らない」

エリクは空白の帳面を開いた。

「なら、そこから始めよう」

戦場の死者だけでなく、配給の遅れで亡くなった人の名も残す。

その決定に歓声はなかった。

最初に名を告げたのは、戦場ではなく村で母を亡くした少年だった。

エリクは筆を取った。

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