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飢えた王国 ~麦を奪って生き延びた俺は、誰も麦を奪わなくていい国を作る~  作者: レモンティー


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第七十四話 黄金色の麦畑を見て、農民たちは泣いた

夏の終わり。

アルト村の丘に、黄金色の麦が揺れていた。

三年前なら、誰も立ち止まらなかった景色だった。

今は、村長ハインツも、畑を耕した農民たちも、黙って穂を見つめていた。

黄金色の穂が風に揺れるたび、農民たちは空を見上げた。

喜ぶにはまだ早い。

刈り取りが終わるまで、雨も火も兵も、麦を奪う敵になり得た。

「……本当に、実ったんだな」

ハインツが粒を指で揉む。

掌に落ちた一粒を見て、老人の目から涙がこぼれた。

「この麦があれば、子供にパンを食わせられる」

だが、老技師バルトは空を見上げた。

「刈り取りを急ぎすぎるな。まだ水気が多い穂がある。雨が来れば倒れるし、濡れたまま倉に入れれば腐る」

「明日は晴れるんだろう?」

「誰が保証する」

農民たちは再び空を見た。

三年間、雨を待ち続けた人々が、今度は雨を恐れていた。

エリクは畑を三つに分けた。

刈り頃の場所、あと数日待つ場所、見張りを増やす場所。

「鎌が足りません」と若者が言った。

「鍛冶屋へ修理を頼もう。刈り取った麦を干す場所も先に作る。運ぶ人手は?」

「半分は畑の警備に出ています」

カールが答えた。

収穫を守る兵を減らせば、奪いに来る者に隙を見せる。

だが兵を増やしすぎれば、麦を刈る手がなくなる。

「見張りは交代制にしましょう。鎌を持てる人は、昼は畑へ。夜は見張りへ」

「眠る時間は?」とカール。

エリクは口を閉じた。

守るために人を倒れさせては意味がない。

「……三交代にします。休む人も必要です」

夕暮れ、クリスは鎌の刃を布で拭いていた。

「お兄ちゃん、これでちゃんと刈れるかな」

「ああ。でも、手を切るなよ」

「子供扱いしないで」

黄金色の穂が揺れても、袋に入るまでは食料ではなかった。

農民たちは空を見上げ、鎌を握り直した。

笑ったあと、クリスはふいに黙った。

「お母さんも、こうして鎌を研いでたね」

黄金色の穂を前に、ハインツは笑いかけて、すぐ空を見上げた。

「刈り終えるまで雨は待ってくれん」

エリクは喜びの声を抑え、荷車と乾燥小屋の空きを確認した。

母の手には、いつも細かな傷があった。

エリクはパンの味ばかり覚えていて、その傷を思い出したことがなかった。

「明日は、母さんの分まで刈ろう」

「うん。でも母さんなら、自分の分だけじゃなく、隣の家の分も忘れるなって言うよ」

エリクは頷いた。

その夜、風向きが変わった。

見張り台から鐘が一度鳴る。

カールが走ってきた。

「北の道に足跡がある。偵察かもしれん」

エリクは暗い畑を見つめた。

黄金色の畑を前に、収穫の順番で口論が起きた。

川沿いの畑から刈れば運びやすい。

だが北の畑は雨が来れば倒れる。

エリクは農夫たちの話を聞き、熟した順に刈ることを決めた。

見張りを増やすために刈り手を減らすわけにもいかない。

美しい麦畑は、まだ一粒も倉庫に入っていなかった。

麦は実った。

だが、まだ誰の口にも入っていない。

明日の朝、刈り取りを始める。

その一日を守るために、村じゅうが息を潜めた。

黄金色の穂を前に、ガルムは鎌を持つ手を止めた。

「昔なら、ここを見たら奪うことしか考えなかった」

隣の少年が不思議そうに尋ねる。

「今は?」

少年は最初の穂を刈ろうとして、鎌を握る手を止めた。

「これ、種にする分?」ガルムは袋の印を確かめてから頷いた。

収穫の喜びは、全部を食べていいという意味ではなかった。

「誰が刈って、誰が運んで、誰が冬に食べるかを考える」

少年は笑った。

「じゃあ、仕事がいっぱいだね」

ガルムは笑い、次の荷車が通るための道幅を測り始めた。

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