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飢えた王国 ~麦を奪って生き延びた俺は、誰も麦を奪わなくていい国を作る~  作者: レモンティー


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第五十九話 戦争が終わっても、飢えは終わらなかった

休戦から一か月。

王都では、戦勝を祝う旗がまだ街路に残っていた。

その旗の下で、配給所の列は昨日より長くなっていた。

「昨日は一杯もらえたのに、今日は半分なのか!」

戦争が終わったという知らせの翌朝も、配給所の列は短くならなかった。

誰もが和平を歓迎した。

しかし、空腹の子供に「平和になった」と言うだけでは、粥は一杯も増えない。

帰還兵の男が木椀を突き出した。

配給係の女は、底の見える鍋を傾けた。

「兵隊が帰ってきたんです。食べる人が増えたのに、麦は増えていません」

「俺たちは戦争を終わらせたんだぞ!」

「私の夫も戦争へ行きました。まだ帰ってきません」

男は口を閉じた。

後ろの子供が泣き出した。

エリクは王都の会議室で、報告書を読み返していた。

『今月の餓死者、一万人以上。

配給所、百か所以上。

帰還兵の登録数、増加中』

「畑を耕す者は戻りました」とカールが言った。

「だが、蒔いた種は明日の朝に食べられない」

「終戦の知らせを聞いた人たちは、もう飢えなくて済むと思っています」

エリクは帳簿の端に、次の収穫までの日数を書いた。

数字が長すぎて、筆が止まった。

夕方、彼は配給所を訪ねた。

一人の女が、空の椀を二つ洗っていた。

「ご家族の分ですか」

「一つは息子の。もう一つは夫のです。昨日、死にました」

女は椀の水を払った。

「戦争が終わったら帰れるって、言っていたんです。畑に戻って、春には種を蒔くって」

「お名前は」

「マティアス」

エリクは手帳に書いた。

「名前を書いても、パンは増えませんよ」

「……はい」

その言葉に言い返せなかった。

死者の名を残すことと、生者を食べさせることは、別の仕事だった。

「明日の配給が届いたか、僕が確かめます」

「明日まで生きていられたら、ですね」

女は椀を抱えて去った。

夜の緊急会議で、ユリウスが西部の港の報告を差し出した。

「海の向こうには、まだ麦を売れる土地がある。商船を呼べるかもしれない」

「国庫には?」とカール。

「船一隻分にも足りん」

沈黙が落ちた。

和平の知らせが届いても、鍋の中身は増えなかった。

人々が求めたのは勝利の演説ではなく、翌朝の食事だった。

終戦を告げる鐘が鳴っても、炊事場の鍋は満たされなかった。

帰還兵が列の最後尾に立つと、村人が顔をしかめた。

エリクは配給札を増やしながら、戦争の終わりと飢餓の終わりは別だと痛感した。

「陛下に相談します」とエリクは言った。

「輸入の交渉を始める。その間は、帰還兵も含めて配給人数を数え直す。病人と子供の分を先に確保して、残量と到着予定を掲示する」

「不足を公表すれば暴動になる」と役人が言った。

「隠しても、鍋が空になれば分かります」

翌朝、配給所の入口に新しい板が立った。

『本日の配給量』『次の搬入予定』『足りない分』

人々はその数字を見て怒った。

泣く者もいた。

だが、誰が麦を持ち去ったのかという噂だけは少し静まった。

エリクはマティアスの妻を探した。

女は列にいた。

息子の手を握り、昨日と同じ二つの椀を持っていた。

「今日は、届きました」と女が言った。

礼ではなかった。

ただの報告だった。

配給列にいた男が、昨日まで兵士だったと名乗った。

「戦争は終わった。なのに家に帰れば鍋が空だ」

係員は余分な粥を出せず、男は拳を握った。

エリクは男を責める代わりに、帰還兵の人数を記録に加えた。

終戦の知らせは配給表の人数を減らさない。

むしろ、戻ってきた者の分だけ増える。

その現実を王宮へ送った。

エリクは頷いた。

明日も届く保証はない。

だから、今日届いたことに安心して終わってはいけない。

戦争を終わらせた国が、今度は飢えと向き合う。

その戦いには、勝利を告げる鐘がなかった。

国境から戻った兵士の名簿には、帰る家のない者が多かった。

ユリウスは給食所の閉鎖案を破り捨てた。

「終戦の鐘が鳴った日に、鍋の火まで消すな」

「費用はどうします」

「王冠を売る話だけでは足りない。土地、仕事、翌月の配給を一枚の計画にする」

エリクは初めて、平和にも予算が要るのだと知った。

復員兵の列にいた男が、畑の前で立ち止まった。

「剣を握ることしか、覚えていない」

老農夫は鍬を差し出した。

「それなら、まず土を返せ。剣より重い日もあるぞ」

男が一列を耕す間、老農夫は何も褒めなかった。

日が傾いてようやく言った。

「明日も来い。明日来たら、種の蒔き方を教える」

男は頭を下げた。

男は明日の夜明けに戻ると約束した。

戦場では次の命令を待つしかなかったが、今は自分で行く場所を決められた。

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