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飢えた王国 ~麦を奪って生き延びた俺は、誰も麦を奪わなくていい国を作る~  作者: レモンティー


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第四十七話 王国中の隠し倉庫から、三万袋の麦が見つかった

アコギ商会の帳簿には、穀物の出荷先ではなく、古い井戸や廃礼拝堂の名前が並んでいた。

「倉庫の場所を隠すための符丁だ」

ヘルマンは帳簿を裏返し、運賃の欄を指した。

「井戸へ三百台もの荷車は要らん。これは西方の旧税関倉庫だ」

エリクたちは護衛を連れて向かった。

倉庫の扉は内側から固く閉ざされていた。

「開けろ。王命による調査だ!」

返事の代わりに、屋根の上で弓が鳴った。

矢が護衛の盾に突き刺さる。

カールが叫んだ。

「押し入るな! 中で火をつけられたら終わりだ!」

夕方までに倉庫の周囲を囲み、水桶を並べた。

エリクは扉の隙間から声をかけた。

「麦を燃やしても、あなたの家族は救われません。帳簿を残して出てきてください」

扉が開くまで、エリクは検査係と帳簿の準備を進めた。

「見つかった袋を、そのまま食べられる袋として数えないでください。傷みも調べます」

倉庫の外では、人々がまだ開かない扉を見つめていた。

長い沈黙のあと、扉が開いた。

商人は鍵を差し出す前に言った。

「家族を守ってくれ。アコギの手下は、裏切り者を許さない」

エリクはカールに目を向けた。

護衛を二人、商人の家へ送る。

「約束します。ただし、隠した麦のことは証言してもらいます」

最初に開いた倉庫には三千袋。

だが一割ほどは湿り、袋の下には鼠に食われた麦が散っていた。

「三千袋全部を配れるわけじゃない」

隠し倉庫を開けても、すぐには食卓に麦は届かない。

鍵を壊すより難しいのは、道を確保し、分け方を信じてもらうことだった。

ヘルマンの言葉に、エリクは頷いた。

「使える量を数えましょう。袋数だけ報告したら、待つ人が余計に死にます」

南部の商業都市では五千袋、北部の砦では二千袋。

ほかの倉庫も見つかり、十日後には計三万袋の存在が確認された。

王宮で報告を聞いたアルベルト三世は言った。

「すべて没収せよ」

「陛下、それでは次から誰も麦を運ばなくなります」

エリクが口を挟むと、宰相も頷いた。

「合法的な備蓄と、買い占めや横領を分けて裁く必要があります」

「では、飢えた民に商人の利益を守れと言うのか!」

国王の怒りはもっともだった。

エリクは床に置いた傷んだ麦袋を示した。

「この袋を見てください。倉庫に閉じ込めれば、麦は腐ります。奪うだけでも、運ぶ人がいなくなります。必要なのは、誰が何袋持ち、何袋食べられ、どこへ運ぶかを公開することです」

会議の末、合法的な麦は公定価格で買い上げ、不正な備蓄は審理のうえ差し押さえることになった。

運搬記録は村ごとに掲示し、護衛には農地防衛隊を充てる。

翌朝、最初の荷車が王都を出た。

エリクは荷台を見送った。

三万袋を見つけたことは勝利ではない。

その麦が飢えた誰かの鍋に入るまで、仕事は終わらないのだった。

ドランは隠し倉庫の扉に封をした。

「押収した麦を、また役人だけで管理するのか」

「村の代表にも鍵を預けよう。二人が立ち会わなければ開けられないように」

代表の農婦は鍵を受け取ると、錆びた扉の前で足を止めた。

「夫はこの倉庫の麦が買えずに死んだ。今度は私が数えてもいいのか」

「お願いします。数え間違いがあれば、俺たちにも知らせてください」

農婦は三千袋の記録に署名した。

「これで明日も、同じ数だと言えるのかい」

「減ったら、減った理由も書きます」

鍵を渡された農婦は、最初の立ち会いで袋の口を一つ開いた。

上の麦は乾いていたが、底には黒ずんだ粒が混じっていた。

「数だけ合っても、これでは子供に食べさせられない」

エリクは検査済みの袋と未検査の袋を分けさせた。

農婦は鍵を握ったまま言った。

「次は役人が来なくても、私たちで異変を知らせていいんだね」

「そのための鍵です」

検査が終わると、農婦は不良の袋に赤い布を結んだ。

「この印をつけた麦は、配給に回さないでください」

役人は不満そうにしたが、エリクは彼女の前で検査記録に署名した。

「役人が見落としたとき、誰が止めるんです」

「鍵を持つあなたたちです。止めた理由も残してください」

農婦は鍵を握り直した。

倉庫を開けられることより、間違った配給を止められることのほうが、ずっと恐ろしい責任だった。

農婦はもう一度だけ袋を数えた。

今度は、数えることを誰にも止められなかった。

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