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飢えた王国 ~麦を奪って生き延びた俺は、誰も麦を奪わなくていい国を作る~  作者: レモンティー


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第四十三話 王都の城門が開いた日、十万人が動き出した

王都アルディア。

夜明け。

城壁の外には、五万人を超える難民が集まっていた。

城壁の内側では、貴族の私兵と王宮軍が戦っていた。

市場は閉鎖され、街路には倒れた兵士が横たわっていた。

国王アルベルト三世は、王宮の塔から街を見下ろしていた。

「……王都が、戦場になったか」

宰相が頷いた。

「はい」

「城門は?」

「閉鎖しています」

「難民は?」

「増え続けています」

国王は目を閉じた。

そして、静かに言った。

「……もう限界だな」

宰相は何も言わなかった。

その頃。

エリクは南門の近くにいた。

カールとガルムが同行していた。

城壁の上には、王宮軍の兵士が並んでいた。

だが、その多くは疲れ果てていた。

エリクは兵士たちに尋ねた。

「……食料は?」

隊長が答えた。

「配給が減った」

「家族は?」

「……城内にいる」

エリクは頷いた。

「なら、守りたいですよね」

隊長は黙った。

エリクは続けた。

「城門の外にも、家族を守りたい人たちがいます」

隊長は城壁の外を見た。

そこには、痩せた人々が集まっていた。

子供を抱く母親。

老人を支える若者。

動けなくなった人々。

隊長は呟いた。

「……分かっている」

エリクは言った。

「城門を開けてください」

隊長は驚いた。

「……何?」

「全員を入れる必要はありません」

エリクは続けた。

「まず、病人と子供を」

隊長は首を振った。

「命令がない」

エリクは黙った。

そのとき、王宮から使者が到着した。

「国王陛下の命令だ!」

隊長が姿勢を正した。

「……何でしょうか!」

使者は巻物を広げた。

「南門を開放せよ!」

兵士たちがざわめいた。

「……開放?」

「ただし、無制限ではない!」

使者は続けた。

「病人、子供、老人を優先し、登録した者から順次入城させる!」

城門が開いたとき、最初に通ったのは担架だった。

群衆は急がず道を空けた。

開いた城門の向こうにいたのは軍隊ではなく、鍋を抱えた家族だった。

人の波を前に、エリクは門を開けることと、迎え入れた者を生かすことは別の仕事だと知った。

開いた城門から入ってきた人々は、歓声を上げなかった。

長く歩きすぎて声が出なかったのだ。

兵士は列を整えようとしたが、エリクは最初に水桶を並べさせた。

足元で子供が座り込む。

誰かがその子を抱き上げた。

王都が受け入れたのは人数ではなく、歩けなくなった一人ひとりだった。

エリクは息を呑んだ。

国王が、決断したのだ。

巨大な城門が、ゆっくりと開き始めた。

重い木の扉。

鉄の補強。

長年、王都を守ってきた城門。

その扉が、飢えた民衆の前で開かれた。

最初に入ってきたのは、小さな少女だった。

母親に抱かれ、弱々しく目を開けていた。

その次は、老人。

そして、病人。

次々と人々が入城した。

エリクはその光景を見つめていた。

ガルムが呟いた。

「……やっと、開いたな」

エリクは頷いた。

「はい」

だが、カールは険しい顔をしていた。

「……問題は、これからだ」

エリクは振り向いた。

「何がですか?」

「人が増えれば、食料が減る」

エリクは黙った。

カールは続けた。

「王都の備蓄は、無限じゃない」

そのとき、城内から悲鳴が聞こえた。

「火事だ!」

エリクたちは振り向いた。

王都の中央。

巨大な穀物倉庫から、黒い煙が上がっていた。

「……まさか」

カールが呟いた。

次の瞬間、鐘が鳴り響いた。

王宮の警鐘だった。

兵士が走ってきた。

「大変です!」

「何があった!」

「穀物倉庫が襲撃されました!」

エリクは息を呑んだ。

「……誰に?」

兵士は叫んだ。

「アコギ商会の傭兵です!」

カールが剣を抜いた。

「……くそっ!」

兵士は続けた。

「倉庫の一部が燃えています!」

エリクは城内へ走り出した。

十万袋の麦。

王都の命綱。

それが、今まさに燃えようとしていた。

エリクは叫んだ。

「火を消せ!」

ガルムが続いた。

「水を運べ!」

カールは兵士たちに命じた。

「倉庫を守れ!」

王都の街路を、人々が走った。

兵士。

農民。

職人。

難民。

身分も立場も関係なかった。

全員が、同じ場所へ向かっていた。

燃え始めた穀物倉庫。

そこには、王国の未来が詰まっていた。

エリクは炎を見つめた。

そして、初めて叫んだ。

「麦を守れ! 麦がなくなれば、俺たちは全員死ぬ!」

その声が、王都に響いた。

飢えた者たちの戦争は、ついに王国の中心へと到達した。

ガルムは、槍を下ろした若い私兵に荷車の綱を渡した。

「昨日まで敵だった人間に麦を運ばせるのか」

民兵の一人が食ってかかった。

「見張りはつける。だが、仕事を奪えば明日また槍を握るしかなくなる」

若者は綱を受け取る前に尋ねた。

「母にも配給札をくれるのか」

「名を教えろ。配給係と照合する」

ガルムは若者を配給係の机まで連れていき、母親の名が登録されたのを確かめた。

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