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飢えた王国 ~麦を奪って生き延びた俺は、誰も麦を奪わなくていい国を作る~  作者: レモンティー


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第三十七話 十万袋の麦は、十万人を救えなかった

王都アルディアの王宮で、国王アルベルト三世は穀物管理官に尋ねた。

「備蓄は十万袋あると聞いている。なぜ城門の外で人が死ぬ」

管理官は帳簿を開いた。

「その十万袋は、去年の報告です。今朝の帳簿では九万八千袋。しかも、すべてが食べられる麦ではありません」

「何を言っている」

「王都の大袋と地方の小袋が、同じ一袋として記録されています。重さを揃えていないのです」

国王は帳簿を引き寄せた。

袋数だけが整然と並んでいた。

重さの欄はない。

「ならば、実際の量を出せ」

「すぐには出せません。湿気で傷んだ袋も、春に播く種麦も、軍が確保した分も混ざっています」

「十万人に一袋ずつ渡せばよいではないか」

管理官は静かに首を振った。

「一袋を一人に渡しても、一年は生きられません。十万人が毎日食べるなら、同じ麦を毎日減らします」

管理官は机に石を十個並べた。

「仮に、重さを揃えた食用麦が十万袋あったとします。一袋から二十人分の一日配給を取れるなら、二百万食分です」

「二百万なら十分ではないか」

「王都の住民が十万人なら、二十日分にしかなりません。一日一食で計算して、です」

国王は石を見つめた。

「二食なら十日か」

「はい。しかも実際には十万袋すべてが食用ではなく、城外に五万人以上の難民がいます。王国全土の村にも食料が必要です」

計算は説明のための仮定だった。

実際の袋の重さも配給量もばらばらで、二十日という数字すら保証できない。

「では、今夜の配給を減らせ」

「すでに減らしています。これ以上減らせば、下層民の子供から倒れます」

「軍の分を回せ」

「城壁の警備が崩れれば、倉庫が襲われます」

「種麦を回せ」

「春に播けなくなれば、来年も同じ飢えが続きます」

国王は机を叩いた。

「どれも駄目だと言うのか!」

管理官は震えながら答えた。

「いいえ。どこを減らし、誰に渡すか、陛下に決めていただくための報告です」

備蓄の量だけでは、救える人数は決まらない。

運ぶ道、配る人、待てる日数。

その一つが欠けても麦は倉庫の中で眠ったままだ。

沈黙が落ちた。

管理官はさらに、王都の特別入城許可の記録を差し出した。

ここ一か月で商人や貴族の関係者が約五千人入っている。

一方、城門の外の難民は入れないままだった。

「王都の人口は増えているのに、配給の対象を正しく数えていません。城外の人数も、病人の数も」

「……数字だけは揃っていると思っていた」

「袋の数だけです」

そのとき、宰相が入ってきた。

「陛下。南門に使者が来ています。南部で農地防衛隊を組織し、数千人を保護している者だそうです」

「名は」

「エリクと」

国王は一瞬、目を上げた。

「面会を認める。だがその前に、倉庫を調べろ。袋を量り、腐敗を除き、食用と種用を分ける。明日の朝までに、何人が何日食べられるか報告させよ」

翌朝、王都の大袋と地方の小袋が混在していたことが確かめられた。

湿気で黒ずんだ麦も見つかった。

再計算した報告書の数字は、昨日よりずっと小さくなった。

「報告の見栄えが悪くなりました」

管理官が言うと、国王は答えた。

「見栄えのいい数字で、腹は膨れぬ」

国王は報告書の余白に、城外の難民名簿を置いた。

先頭には六歳の子供の名があり、配給欄は空白だった。

「この空欄を、次の報告にも載せよ」

「よろしいのですか。陛下の失政を示すことになります」

「消したところで、この子にパンが届くわけではない」

十万袋という言葉は、誰も救わなかった。

救うためには、まず、どれだけ足りないかを知る必要があった。

「十万袋で十万人を救えると思ったのか」

ユリウスの問いに、エリクは首を振った。

「思いたかったんです」

倉庫の前には配給を待つ人々が並んでいた。

荷車が一日に運べる袋数には限りがあり、遠い村では一往復に何日もかかる。

道中の警備を増やせば運べる量が減り、減らせば略奪の危険が増す。

カールは輸送隊を小分けにする案を出した。

ドランは街道沿いの空き納屋を中継倉庫にする案を示した。

「どちらも人手が要る」とユリウスが言う。

クリスが静かに答えた。

「配る人を増やすなら、配られる人にも仕事を頼めます。運べる人には運んでもらって、動けない人には届ける」

エリクは彼女を見た。

妹はもう、守られるだけの少女ではなかった。

王都の役人が計算した。

十万袋のうち、一袋を五十キロとすれば五千トン。

十万人が一日に半キロずつ消費すれば、百日分にすぎない。

しかも種麦と損耗分を除けばさらに短い。

数字を聞いた貴族たちは黙った。

エリクは言った。

「百日を延ばすために、百日後の畑を潰してはいけない」

ドランは王都の備蓄簿を三枚の紙に書き分けた。

『倉庫にある量』『食べられる量』『届けられる量』。

「同じ数字だと思うから、命令だけが先に進む」

腐敗した袋、種として残す袋、荷車がなくて動かせない袋を除くと、三枚の合計は一致しなかった。

「十万袋ある、と報告した者は嘘をついていない」とドランは言った。

「だが、十万袋を明日食べられると思わせたなら、嘘と同じだ」

クリスは最初の配給所に三枚の表を貼り出した。

怒る者もいた。

翌朝、荷車を貸せる商人が二人、袋を選別できる農民が四人、掲示板の前で申し出た。

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