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飢えた王国 ~麦を奪って生き延びた俺は、誰も麦を奪わなくていい国を作る~  作者: レモンティー


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第二十二話 農民が畑に戻った日、王国は再び戦争を始めた

アルト村の解放から十日。

農民たちは槍を畑の端に置き、鍬を握り直していた。

それでも配給は半椀だった。

戦闘で失った荷車が、まだ戻っていない。

「昨日まで俺たちを殺そうとした兵には粥をやって、耕す俺たちにはこれだけか」

農夫の怒鳴り声に、周囲の手が止まった。

エリクは広場へ帳簿を運び、捕虜に渡した乾麦の量を読み上げた。

「俺が決めました。間違いだったと思うなら、ここで言ってください」

「言えば麦が増えるのか」

「増えません。けれど隠せば、次は誰も配給を信じなくなる」

農夫は椀を置き、帳簿の端を指した。

「ここの『輸送待ち』ってのは何だ」

「南の村から来る予定の荷です」

「予定で腹は膨れねえ」

エリクはその行を消さず、赤い印をつけた。

まだ届いていない麦を、届いた麦として数えないためだ。

畑の端ではクリスが種麦を選別していた。

「これ、食べたら駄目なんだよね」

「ああ。春のために残す」

「じゃあ、春まで生きなきゃ」

午後、南の見張り台から角笛が鳴った。

「ローデン伯爵の軍、五千! 食料を求めて北上しています! 先遣隊が橋を測っています!」

カールが地図を開いた。

「このまま来れば、収穫だけじゃない。畑ごと押さえられる」

ガルムは斧に手を伸ばしたが、農夫が先に立ち上がった。

「兵が守ると言っても、前は兵が奪った。今度は誰を信じりゃいい」

カールは反論しなかった。

「倉庫の鍵は村の代表と俺たちで一つずつ持つ。見張りの交代時刻も公開する。俺たちの兵が勝手に麦を取ったら、俺が裁く」

「それで五千人を止められるのか」

「分からない。だから橋を調べる。退避する家族を先に決める」

エリクは農夫の前に立った。

「伯爵にも使者を出します。食料を与える約束ではありません。畑を焼かずに済む条件を探すためです」

「また敵に粥をやるのか」

「今度は、あなたたちの同意なしに一袋も約束しません」

使者には、村の穀倉を開かないこと、負傷者の治療は拒まないこと、そして畑へ兵を入れれば交渉を打ち切ることを伝えた。

伯爵が受け入れる保証はない。

だが、要求を曖昧にしたまま戦えば、前の戦と何も変わらない。

農夫は長く黙り、自分の畝の端に小さな旗を立てた。

「ここは俺の親父が耕した畑だ。守るなら、畑の中で戦うな」

「分かりました」

五千の軍勢が近づく中、農民たちはもう一度鍬を土に入れた。

そのとき、見張りの少年が土手を駆け下りてきた。

「橋の向こうに、先遣隊がいます。村へ入る道を測ってる!」

農夫は鍬を持ち直した。

戦うためではない。

土を踏み荒らされたくなかったのだ。

「俺たちがここに残ったら、兵士の邪魔になるか」

カールは畑と川の間の狭い道を見た。

「残れば、こちらの弓兵が撃てなくなる。だが、逃げろと言っても畑が心配だろう」

「心配なんてもんじゃない。親父の墓もある」

エリクは農夫の前にしゃがみ、畝に手を当てた。

「この畑を守るために、あなたがここで死んだら、春に誰が種を蒔くんですか」

農夫は答えず、畝の土を一握り布に包んだ。

「畑を捨てるんじゃない。戻ってくるために離れるんだな」

「はい。戻る場所を残すためです」

農夫は家族を呼びに走った。

カールは兵士を二手に分け、避難する人々が渡り終えるまで橋のこちら側を守らせた。

最初に橋へ来たのは、足の悪い老人を背負った少年だった。

少年は畑の方を見て立ち止まった。

「鍬を忘れた」

「鍬はまた作れる」と農夫が言った。

「お前の背中にいる爺さんは、作り直せねえ」

少年は老人を背負い直した。

昨日まで兵を疑っていた農夫が、今は橋を守る兵士に深く頭を下げた。

橋の向こうで、敵の先遣隊が杭を打つ音がした。

最後に渡った老女は、杖を止めて対岸を見つめた。

「種を埋めたばかりなんだよ」エリクには戻れる日を約束できなかった。

代わりに、畑の場所と持ち主の名を帳面に記した。

「橋を落とせば追ってこられません」と若い兵士が言う。

カールは首を振った。

「まだ向こう岸に家族が残っている」

エリクは橋のたもとに立ち、最後の一人が渡るまで退かないと決めた。

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