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飢えた王国 ~麦を奪って生き延びた俺は、誰も麦を奪わなくていい国を作る~  作者: レモンティー


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第十九話 食料を作るために、最初の戦争を始めた

アルト村の畑には、まだ去年の畝が残っていた。

南東から戻った斥候は、村に農民が約百人、占拠する敗残兵が五百人いると報告した。

エリクたちの三千人のうち、戦えるのは訓練を受けた三百人ほどだった。

「正面からぶつかれば、勝っても畑は残らん」

カールは地図に指を置いた。

ガルムも頷く。

「村を取り戻しても、春に種を蒔けなきゃ意味がねえ」

そこでエリクは、白布を掲げて村へ向かった。

門に現れた指揮官ドランは、四十代の痩せた男だった。

部下たちも槍を杖代わりにしている。

「村人への徴発をやめてください。俺たちは畑を守りたい。あなたの兵にも、道を守る仕事を頼めます」

「仕事の報酬は?」

「食料を分けます。ただし種麦には手をつけません」

ドランは倉庫を振り返った。

「今夜、俺の兵は何を食う」

「倉庫に残っている量を、村人と一緒に数えさせてください」

「数えている間に死んだら、お前が責任を取るのか」

エリクは答えられなかった。

自分たちの備蓄も、街の住民が冬を越すためのものだった。

「お前の提案は春には正しい。今夜には遅い」

ドランは門を閉めさせた。

帰路、畑の端で少女が土を掘っていた。

泥の中から見つけた落ち穂を、食べずに布へ包む。

「お父さんが、これだけでも春に蒔こうって」

エリクはしゃがみ込んだ。

兵が倉庫を守る間、村の子供は土から一粒を探している。

夜の会議で、ガルムは斧を机に置いた。

「また戦争か。俺たちは奪う側に戻るのか」

「始めたくありません」

エリクは答えた。

「けれど、何もしなければ種麦が食べられる。来年の命まで失われます」

「ならもう一度交渉しろ」とカール。

「今夜、俺たちの備蓄から乾麦を三十袋出せる。負傷者と子供を先に食わせる条件で、一日だけ停戦を提案する」

「その三十袋で、こちらの何人が一食を失う?」ガルムが尋ねた。

クリスは帳簿をめくり、乾いた唇を噛んだ。

「明日の配給を全員一握りずつ減らすことになる」

エリクは村の代表を呼んだ。

自分だけの善意で、誰かの明日の食事を奪わないためだった。

「三十袋を出したら、こちらの配給が減ります」

クリスが帳簿を示した。

「減る量も村の人に知らせよう。勝手に約束しないで」

エリクは頷き、村の代表にも同席を求める文面を書いた。

だが、夜明け前に使者が戻った。

差し出した書面は泥で汚れ、封は切られていなかった。

「門番が受け取りを拒みました。倉庫から兵が種麦を運び出しています」

カールは短く息を吐いた。

「退路を南へ残す。降伏した兵は殺さない。畑へ火を入れる者だけを止める。戦闘に出るのは三百人、農民は避難と負傷者の搬送だ」

エリクはもう一枚、降伏条件を書いた。

「最初の矢を放つ前に、これを読み上げてください」

「お前は戦わないのか」

「戦いを止める条件を、最後まで考えます」

畑の境界杭に朝露がついていた。

エリクはその木に手を置いた。

麦を奪うために兵士を殺した日の手の震えが、戻ってきた。

守るための戦争という言葉が、奪うための言い訳にならないように。

村の門の向こうで、角笛が鳴った。

カールは兵を動かしかけたが、エリクが腕をつかんだ。

「一度だけ、条件を読ませてください」

使者が白布を掲げて門前に進んだ。

矢は飛んでこなかった。

門の上からドランの声がした。

「その紙で腹が膨れるのか!」

「膨れません。だから、明日の配給まで決めてあります。村の種麦には手をつけない。負傷者は双方で運ぶ。武器を置いた者には道を開ける」

「お前はそれを守れるのか」

エリクは振り返った。

自分の後ろには、飢えた農民がいる。

全員を納得させる自信はなかった。

「俺だけでは守れません。村の代表にも署名してもらいます」

長い沈黙のあと、門の上に弓兵が並んだ。

ドランは返事をしなかった。

一本目の矢が、白布を支える棒に刺さった。

使者は倒れず、ゆっくり退いた。

カールが低く命じた。

「予定どおり、畑には入るな。道だけを押さえろ」

エリクは交渉の条件を書いた紙を握りしめた。

矢が飛んできても、敵兵と村人の両方が明日食べられる道まで捨てるつもりはなかった。

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