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飢えた王国 ~麦を奪って生き延びた俺は、誰も麦を奪わなくていい国を作る~  作者: レモンティー


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第十七話 種麦を守るため、農民が軍隊を作った

ベルンに届く報告は、日ごとに短くなっていた。

『南部の麦畑焼失』『村落三つ放棄』『種麦を敗残兵が接収』

最後には、報告を持ってくる者さえいなくなった。

鍬を槍に持ち替えた男の手には、まだ土が詰まっていた。

エリクは訓練を始める前に言った。

「畑を守るための隊だ。畑を奪う隊になったら、その日に解散する」

「春に播く種がなくなれば、戦争が終わっても飢えは続きます」

エリクの言葉に、カールは地図を広げた。

「畑を守る軍が必要だ。だが俺の手勢は百二十人。南部には数万の兵が散っている」

「ベルンの倉庫に麦が三千袋あります」

「それは街の冬の食料だ。兵に渡せば住民が死ぬ」

誰かに食べさせれば、別の誰かの分が減る。

エリクはその計算に慣れたくなかった。

そこへガルムが入ってきた。

「農民を集めよう。畑を守るのは、畑を知る連中だ」

「農民を戦場へ送るのか」

カールが問うと、ガルムの顔から笑みが消えた。

「俺だって嫌だ。斧を振るより、麦を刈るほうがいい。でも畑を焼かれるのを見てるだけじゃ、来年は誰も食えない」

三人は広場で説明会を開いた。

志願者募集の札を掲げる前に、まず反対の声が上がった。

「領主の戦争に駆り出されて、息子が帰ってこなかった!」

「今度は農民の軍隊だって? 名前を変えただけだろ!」

「一日二食と聞いた。食べ物で釣るのか!」

エリクは否定しなかった。

「食事は出します。でも、十分な備蓄はありません。戦えば死ぬ人も出ます。皆さんに危険を隠して募集するつもりはありません」

石が一つ、足元へ転がってきた。

「じゃあ誰が畑を耕す!」

「全員を兵士にはしません」

エリクは地面に三本の線を引いた。

「防衛、耕作、補給。三つとも必要です。槍を持つ人だけを隊員とは呼びません」

片腕を吊った男が前へ出た。

「俺は戦えない。だが腐った種を見分けられる」

「種麦の管理をお願いします」

「俺は鍛冶屋だ。刃を打てる」

「農具の修理を」

すると、若い男が怒鳴った。

「農具なんか作ってる間に、敵が来たらどうする!」

カールが答えた。

「戦える者には訓練をする。ただし農民を敵と取り違えた者、食料を奪った者は隊から追放する」

「追放だけか? 盗まれた家はどうなる」

ガルムが一歩前へ出た。

農具を持つ者が槍を持つと、畑には働く手がなくなる。

エリクは守るために戦うことが、守るものを減らす恐ろしさを知った。

「奪った分は返させる。返せなければ、俺たちが働いて埋める。守ると言って奪う軍隊にはしない」

農民が初めて槍を握った朝、畑の手入れをする者が足りなくなった。

「守るために集まったのに、作る人がいなくなる」

エリクは防衛の当番を短く区切り、必ず半数は畑へ戻すよう決めた。

その場で決められたのは、華々しい軍旗ではなかった。

食料の計量、村人の避難路、徴発の禁止、違反を訴える窓口。

カールは古参兵に命じ、木の棒を使った盾の訓練を翌朝から始めることにした。

初日の訓練では、十人のうち三人が走れずに倒れた。

カールは剣を握らせる前に、水を飲ませ、歩ける距離を測った。

「これでは戦えない」

古参兵が言うと、カールは答えた。

「だから今、戦わせない。畑を守る前に、こいつらを生かす」

夕方、エリクは募集札を書き直した。

『農地防衛隊 志願者募集』

『任務は農民・畑・種麦の保護』

『略奪禁止。

農作業と補給も任務とする』

『食事は一日二食を目標とする。

ただし備蓄には限りがある』

「正直に書いたら、誰も来ないぞ」

ガルムが言った。

「嘘をついて集めたら、飢えたときに同じことを繰り返します」

翌朝、広場には三千人が並んだ。

募集の列に、槍を持てない老人が並んだ。

「見張りならできる」と言う。

エリクは彼を追い返さず、夜番の名簿に加えた。

戦う者だけが村を守るのではない。

水を運ぶ者、鍋を洗う者、種を数える者が欠ければ、三千人は一週間も持たない。

カールはその名簿を見て、初めて軍ではなく村を作っているのだと気づいた。

槍を持つ者より、鍬を握る者のほうが多かった。

エリクはその列を見て、勝てるとは思わなかった。

最初の訓練で、若い農夫が槍を落とした。

手が震えていた。

「怖いなら帰れ」と誰かが言う。

「帰る畑がなくなるのが怖いんだ」と若者は答えた。

ガルムは槍を拾って渡さず、先に畑へ続く退路を地図に引いた。

「逃げ道を覚えろ。死ぬまで立つ隊じゃない。種を来年へ残す隊だ」

若者は槍を握り直した。

隊の名簿ができると、ガルムは武器の数より先に荷車の数を数えた。

「戦う前に逃がす人数を決める」

槍を持った若者が顔を上げる。

「逃げたら負けでしょう」

「畑を守れなくても、種を持った人間が生き残れば来年は蒔ける。全員死んで畑だけ残っても、誰が刈る」

若者はしばらく黙り、母親と妹の名前を避難名簿に書いた。

ただ、守らなければならない暮らしが三千人分あると分かった。

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