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飢えた王国 ~麦を奪って生き延びた俺は、誰も麦を奪わなくていい国を作る~  作者: レモンティー


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第十五話 勝った軍隊が、飢え死にし始めた

ヴァルド伯爵軍が麦畑を踏み潰してから三日。

勝利の旗はまだ野営地に翻っていた。

だが、その下で兵士が次々と倒れていた。

「水を……」

勝った兵士が、倒した敵の水筒を探っていた。

中は空だった。

水袋は空だった。

川は戦場の泥と汚物で濁り、飲んだ者の中から腹を壊す者が出ていた。

将軍は補給係を呼びつけた。

「麦はどうした」

「戦場に残った穂を拾わせています。使えるものは百袋ほどです」

「一万を超える兵に、百袋だと?」

百袋を五十キロ袋で数えても五トン。

兵一万人に一日一キロを配れば、半日分にしかならない。

しかも飲み水も薪も、負傷者を運ぶ馬も足りない。

将軍はようやく、戦場で敵を倒す計画はあっても、翌朝の飯を届ける計画がなかったと理解した。

補給係は目を伏せた。

「出陣時の馬車は空です。運んできた麦も、行軍中に食べ尽くしました」

将軍は地図に拳を落とした。

勝てば敵の倉庫を奪えると聞かされていた。

しかし村の倉庫は焼け、畑は自軍の馬蹄に潰されていた。

軍医が天幕に入った。

「今朝だけで病人が四十七人増えました。衰弱した者に汚れた水を飲ませれば、さらに死にます」

「ならば飲ませるな」

「水を断っても死にます」

将軍は答えられなかった。

その夜、兵士たちは倒れた軍馬を解体した。

馬肉の鍋を囲みながら、騎兵の一人が泣いていた。

「こいつは、俺を三度も戦場から連れ帰ってくれたんだ」

誰も慰めなかった。

慰める言葉より、鍋の中身が必要だった。

五日目、犬が姿を消した。

六日目、革帯を煮る兵士が現れた。

食べられるものを探して歩く者は、次第に武器を持つ力さえ失った。

七日目の朝、歩哨が報告した。

「昨夜、二百人以上が陣を離れました」

「捕らえろ。脱走は死罪だ」

将軍の命令に、近衛兵は動かなかった。

「我々も昨日から何も食べていません」

「命令に逆らうのか」

「捕まえた者を、何で養うのですか」

天幕に沈黙が落ちた。

将軍は軍医と補給係を呼び、最後の百袋を前に置いた。

「動ける兵を優先すべきです」と補給係が言う。

勝った者の鍋も空だった。

歓声のない野営地で、エリクは兵士の数より、食事を作れる回数を数え始めた。

「病人を見捨てれば、明朝までに何十人も死にます」と軍医が反論した。

「全員に薄い粥を配れ」

「最後尾までは届きません」

将軍は勝利の軍旗を見た。

勝った兵士たちは敵の旗を踏んだが、炊事場には何もなかった。

戦果を報告する書記が「捕獲した麦、ゼロ」と読み上げる。

誰も笑わない。

勝利の数と、食べられる日数は一致しなかった。

「旗を降ろせ。布を裂いて、配給の列を分ける目印にしろ。病人を先に運べ」

「伯爵家の旗です!」

「旗は腹を満たさない」

列の最後尾まで粥は届かなかった。

八日目、兵たちは小隊ごとに散り始めた。

将軍はもはや止めなかった。

一万二千で進軍した軍勢は、戦死と病死、脱走によって三千人にも満たなくなっていた。

夕暮れ、補給係が尋ねた。

「将軍。生き残った者はどこへ向かいますか」

遠くには、まだ焼かれていない村が見えた。

将軍は唇を噛んだ。

「……食べ物のある方角だ」

補給係が最後の麦粉を水で伸ばすと、椀の底が透けた。

将軍は自分の分を負傷者へ渡したが、兵士たちは喜ばなかった。

「将軍一人が食わなくても、全員の腹は満たせません」

若い兵士の声に将軍は顔を上げた。

必要なのは美談ではなく、撤退する道と食料を確保する命令だった。

その答えが次の略奪を生むと、誰もが分かっていた。

勝った軍隊は、敵に敗れたのではない。

自分たちが踏み潰した麦畑に敗れたのだった。

カールは配給表の前で立ち尽くした。

兵三千人に一人一日半キロの穀物を配れば、一日で千五百キロ。

三十日なら四十五トン。

勝利の知らせより先に、この数字を王都へ届けねばならない。

「勝ったのに食えないとはな」と副官が言う。

カールは首を振った。

「勝ったから食えると信じた。それが間違いだった」

カールは残った兵糧を数えさせた。

勝者の陣営にも、負傷者の分を差し引けば三日分しかない。

「敵の荷を奪えば済む」と副官が言った。

「敵も空だ。奪いに行けば、運ぶ者と馬が減るだけだ」

カールは負傷兵と農夫を同じ炊き出しの列に並べた。

兵の一人が抗議したが、彼は答えた。

「畑を焼いた俺たちが、畑を作る者より先に食う理由を言ってみろ」

炊事係は空の鍋をひっくり返した。

底に張り付いた麦を削る音が、兵舎に響いた。

「勝ったと村に伝えていいですか」と伝令が尋ねた。

将軍は口を開きかけ、倒れた兵士を見た。

「勝ったことは伝えろ。食わせる手立てがないことも、隠すな」

伝令は二枚の報告書を持って走った。

凱旋の知らせより先に、補給を求める知らせが村へ着くように。

夕刻、補給係が二枚の紙を持ってきた。

一枚は戦勝報告、もう一枚は明日の配給予定だった。

「明日も同じ量を配れますか」

将軍が尋ねると、補給係は首を横に振った。

「負傷者に粥を回せば、歩ける兵の分は半分になります。逆にすれば、今夜を越せない者が出ます」

将軍は戦勝報告を机の端に押しやった。

旗を立てた場所の名前は記録に残る。

だが、その夜に粥を飲めなかった兵士の名前も残さねばならなかった。

返事はなかった。

翌朝、カールは兵の半数を警備から水路の修復へ回した。

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