第9魔:もう絶対組んでやらねーからな!
「ふわぁぁ……」
とある朝。
目が覚めた私は、まだ眠い目を擦りながら、近所にある河原にやって来た。
「さて、やるか」
その辺に落ちている拳大の岩を、右手で握る。
そして――。
「フンッ」
その岩に、全力で魔力を込めた。
「……!」
すると私の魔力に耐え切れず、岩は粉々になった。
――これは私が毎朝やっている、魔力トレーニングだ。
ちなみに筋肉に置き換えるなら、右手の握力だけで岩を砕くようなものなので、常人ではまず不可能だろう。
私も最初に砕けるようになるまで、5年掛かったし。
「さて、次」
2個目の岩を握り――。
「フンッ」
また砕く。
これを1日100個やるのが日課なのだ。
「よし、と」
1時間弱で、ノルマの100個を達成した。
毎日やってるから、この河原の岩も大分少なくなってきちゃったわね。
「あー、疲れた」
1時間全力疾走していたようなものなので、流石に汗だくだ。
家に帰ってシャワーを浴び、トーストとベーコンエッグと牛乳で腹を満たしてから、今日もギルドに向かった――。
「オイ、これ以上痛い目を見たくなかったら、さっさと有り金置いてけよ」
「う、うぅ……」
「……!」
が、ギルドの手前にある木の陰になっているところで、12歳くらいのメガネをかけたガキが、15歳くらいのデブのガキにカツアゲされていた。
メガキ(メガネをかけたガキの略)の顔の左半分は、殴られた跡でボッコリ腫れ上がっている。
あーあ、どこにでもいるのね、ああいうのって。
「そこのデブガキ、カツアゲなんてクソダサい真似はやめときなさいよ。ただでさえ醜い容姿が、より悪く見えるわよ」
「アァッ!? 何だテメェ、このクソババァがッ!! ブッ殺されてぇのか!?」
クソババァ……ですって……!!
――私はまだ18よッ!!
「悪魔は神と呼ばれていた
時の流れが神を堕とし
名前はいつしか呪いとなった
悪魔の涙が天から零れる
――雷撃魔法【悪魔の涙】」
「あばばばばばばば!?!?」
私の杖から放たれた雷撃が、デブガキに直撃した。
「な……何しやがんだ……このクソババァ……」
デブガキはこんがり焼かれ、アフロになった。
――コイツ、またクソババァって言ったわね。
「悪魔は神と呼ばれていた
時の流れが神を堕とし」
「なっ!? ちょっと待て!!」
「名前はいつしか呪いとなった
悪魔の涙が天から零れる
――雷撃魔法【悪魔の涙】」
「ぎょばばばばばばば!?!?!?」
オシオキとして、再度【悪魔の涙】をお見舞いしてやった。
「ヒ、ヒイイイイイイ……!?!? ゴメンなさいゴメンなさい……!! お願いですから、命だけは勘弁してくださいいいいい……!!」
流石に懲りたのか、デブガキは泣きじゃくりながら土下座してきた。
「わかればいいのよ。言っとくけど今のはドチャクソ手加減してあげたんだからね? 私が本気で【悪魔の涙】を撃ってたら――今頃アンタ骨も残ってないわよ?」
「ヒィッ!? お、お心遣い感謝しますうううううう!!!!」
何度も頭を下げながら、デブガキは内股で逃げて行った。
よし、一人の調子に乗っていた若者に、人生の厳しさを教えてあげたわ。
良いことをすると気分がいいわね。
「……あ、ありがとうございました」
カツアゲされていたメガキが、私におずおずと頭を下げた。
「アンタねえ、男だったら、あんな雑魚にいいようにされてんじゃないわよ」
「え……、で、でも僕、喧嘩凄く弱いし……。殴られるのも……怖いから……」
「だったら魔力を鍛えればいいのよ」
「……! 魔力を?」
「そうよ。――何を隠そう、私も子どもの頃は、イジメられてたの」
「――! お、おねえさんが!?」
「ええ」
思い出したくもない、苦い記憶だけどね。
「私もアンタ同様、力が弱かったから。でもだからこそ私は、ひたすら地道に魔力を鍛え続けたわ。そうしていつしか誰よりも強くなり、私のことをイジメてた奴らを魔法でフルボッコにしてやったってわけ。それ以来、私をイジメる人間は一人もいなくなったわ」
「そ、そうだったんですか……」
「……見てなさい」
私はその辺に落ちていた拳大の岩を、右手で握った。
「フンッ」
「――あっ!」
そしてその岩に魔力を込め、粉砕した。
「こうやって毎日岩を魔力で割るトレーニングをするのよ。多分アンタも、5年もすれば割れるようになるわ」
「ご、5年……ですか。――わかりました! 僕、やってみます!」
メガキの瞳に、キラリと希望の光が宿った。
フフ。
「精々頑張んなさい」
「はい! 本当にありがとうございました、おねえさん!」
メガキは何度も頭を下げながら、去って行った。
まあ、本当に5年で割れるようになるかは、あのメガキ次第だけどね。
「流石セレナだね。彼はきっと、今日のこと一生忘れないと思うよ」
「っ!? ギ、ギルッ!?」
いつの間にか、後ろにギルが立っていた。
「いつからいたのよアナタ!?」
「ん? そうだなぁ、セレナが『ただでさえ醜い容姿が、より悪く見えるわよ』って言った辺りからかな?」
「ほぼ最初じゃない!?」
「ははは。改めて君とパートナーになれてることを、俺は誇りに思うよ、セレナ」
「っ!?」
頬をほんのりと染めながら、翠の瞳でじっと見つめてくるギル。
クッ……!?
ギルとパーティーを組んで早数ヶ月が経ったけど、未だにギルのこういう恥ずかしい台詞を堂々と言っちゃうところには慣れないわ……。
こ、これはさっさと話題を変えなきゃ……!
……あ。
「ギル、あなたのその盾、どうしたの?」
見れば、ギルの盾が一つ、新しい白い盾に変わっていた。
「ああ! これかい!」
ギルが翠の瞳をキラキラさせながら、大きな白い盾を掲げる。
「これはね、かの有名な名工、アーチボルドの最新作でね! 【白波】って名前の盾なんだけど、羽みたいに軽いのに、世界最高峰の硬度を誇ってるんだ!」
「へえ」
そりゃ確かに凄いわね。
「アーチボルドは神の手を持つと言われている、稀代の盾職人でさ! 彼の何より秀逸なところは、『軽さ』と『硬度』という、本来なら相反する要素を見事に両立させてるところなんだよ!」
「……」
これは、また始まったわね。
「普通は軽さを追及したら、当然その分盾の硬度は落ちちゃうわけだけど、彼はそれを、奇跡の素材配合率と神の手によって、どちらも一切妥協せずに、最高水準まで引き上げることに成功したんだ! 何よりカッコイイのは、彼はその製作工程を一般公開してることッ! でも、アーチボルド以外、ただの一人も彼と同じレベルの盾を作れた人間はいない――。つまり彼は暗にこう言っているのさ。『俺の真似を、できるものならしてみろ』ってさ! FOOOOOOOO!!!! 痺れるうううううう!!!!」
「…………」
「……あっ!? ゴ、ゴメン、セレナ! また俺、一人で喋っちゃって……」
「フフ、別に構わないわよ。本当にギルは、盾が好きなのね」
それが元来のものなのか、それともお兄さんを失ってしまったことによるものなのかは、何とも言えないけど……。
「うん! でも、こんな高価な盾が買えるようになったのも、セレナが俺のパートナーになってくれたお陰だよ。――本当に、ありがとな、セレナ」
「――!」
ギルが翠の瞳を潤ませながら、真っ直ぐ私を見つめる。
ぬおっ!?
またしても、私の心臓がドクドクと早鐘を打っている――。
……ああもう、ギルとパートナーになってからの私は、本当にどこかおかしい。
――もしかして私、ギルのこと……?
「……セレナ?」
「……っ!」
ギルが不思議そうな顔で、私を見てくる。
――クッ!
そ、そんなわけない!
そんなわけないわッ!
私とギルは、ただのビジネスパートナーなんだから!
「な、何でもないわ! さあ! 今日も一稼ぎするわよ、コソ連ダイナマイト!」
「あ、うん」
二人でギルドの中に入った。
すると――。
「オオ! キタキタ! ギルセレだ!」
「くぅ~! 今日もオーラ出てんなぁ! 流石【盾翠】と【傲壊】だぜ!」
「今日も活躍見せてくれよな、ギルセレ!」
「ギル×セレ、推せる……」
「「……!」」
大勢の連中が、私とギルをワイワイ持て囃してきた。
今や私とギルは、このギルドでブッチギリ1位の稼ぎ頭なので、ちょっとしたヒーロー扱いをされているのだ。
少し前までは、私のことは『仲間殺し』と呼んで疎んでたクセに。
ホント調子がいいわよね、凡人って。
……それにしても、ギルの【盾翠】という二つ名はまだしも、私の【傲壊】は、半分悪口じゃない?
あと、私たちのことをギル×セレとカップリング認定してる奴がいるけど、私とギルはただのビジネスパートナーだって言ってるでしょッ!!?
男と女がコンビ組んでたら、すーぐ恋愛に結びつけようとするの、凡人の悪い癖よホントッ!!
「……チッ」
と、そんな私たちの持ち上げられっぷりを、苦虫を嚙み潰したような顔で睨んでいる負け犬リーダー。
あのギルとの勝負で惨敗して以来、すっかり身の程をわからせられてしまった負け犬リーダーは、私たちとの接触を避け、ああして遠くから「ぐぬぬ」してるのが日常になっている。
あぁ~、負け犬リーダーの「ぐぬぬ」で、今日もメシが美味い!!!
「ギル、セレナ、ちょっと話があるんだが、いいか?」
「「……!」」
そんな中私たちに声を掛けてきたのは、以前ギルのことを『木偶の坊』と言ってクビにした、三人組だった。
「何よ話って? 私たちはアンタたちなんかに、用はないけど?」
「っ!? ま、まあ、そう言うなって。いくらお前たちでも、二人だけだと、どうしてもこなしづらいクエストもあるだろ? いい機会だから、ここらで二人とも、俺たちのパーティーに入らないか?」
「歓迎するぜ!」
「なあ、戻って来いよ、ギル!」
ハァ~、出た出た。
自分たちでギルのことをクビにしといて、有用性に気付いた途端、私と一緒に仲間に引き入れようとするなんて。
――ホント性根が腐ってるわね、コイツら。
「だそうだけど、どうする、ギル?」
私はギルを、横目で窺う。
「うん、そうだね……。――申し訳ないけど、丁重にお断りさせてもらうよ」
「っ!?」
「そ、そんな!」
「もう一度考え直してくれよ、ギルッ!」
ハハ!
よくぞ言ったわ、ギル!
これでもし戻るなんてフザけたことヌカすようだったら、ギルとのパートナーは解消するところだったわ。
「俺とセレナは、二人だけで十分だ。だから今は、他の誰ともパーティーを組むつもりはないんだ。セレナはどうかな?」
「フフ、もちろん私も同感よ。そもそもねぇ、仮にパーティーを組むとしても、アンタらみたいなクソ雑魚を選ぶわけないじゃないッ! アンタらと組むくらいなら、まだその辺の石ころと組んだほうがマシよ! 少なくとも石ころは、アンタらみたいにフザけたことは言わないからねぇ!」
「な、何だとぉ!?」
「言わせておけばぁ!」
「オ、オイ、やめろって、お前ら……。俺らじゃ、逆立ちしたってこの二人にゃ敵わねえよ……」
「クッ……!!」
フフン、命拾いしたわね。
あのままだったら、私も【断罪の火球】ブチ込んでるところだったわ。
「クソが! やっぱり組んでほしいって言っても、もう絶対組んでやらねーからな!」
アホ三人組は、すごすごと去って行った。
何だよその地獄みてーな捨て台詞は。
有り得ないことを仮定しても、意味ねーだろ。
――やっぱ送っとくか、コイツらの相応しい地獄に?
「セレナさぁん! おはようございますぅ!」
「ゲッ」
明らかに気まずい空気の中、ぽやぽや魔法使いちゃんだけは、空気を読まず突撃して来た。
この子のメンタル、アーチボルドの作った盾より硬そう……。




