第8魔:ざまああああああああああああああああああああ
「覚悟はいいか、三下ぁ!」
「ええ、いつでもどうぞ」
発情期の野良犬みたいに目を血走らせている三下リーダーと、訓練された猟犬の如く冷静なギル。
こんなに結果が目に見えてる勝負も、なかなかないわね。
「うおりゃああああああああ!!!」
相手が攻撃してこないのをいいことに、大振りに剣で攻撃してくる三下リーダー。
この男には、戦士のプライドってものがないのかしら?
まあ、あるわけないか。
コイツにあるのは、臆病な自尊心と尊大な羞恥心くらいだものね。
「フンッ」
「なにィ!?」
が、三下リーダーの剣を左手の盾で受けたギルは、当然の如くビクともしない。
その表情は、「今、何かしたか?」とでも言いたげだ。
うわあ、三下リーダー、これは恥ずかしい……!!
あんなにドヤ顔でフルスイングしたのに、毛ほどのダメージも与えられてないなんて!
ねえねえ三下リーダー、今どんな気持ち?
いい機会だから、是非教えてよ三下リーダー!
その気持ちを私が詩集にして、アンタの金で自費出版してあげるからさ!
「ク、クソがあああああああああ!!!」
ヤケクソになって剣を何度も何度も振り回す三下リーダーだが、その全てをことごとくギルの盾で受け流されてしまう。
あーあ、何かもう、早くも飽きてきたわね。
やっぱ勝敗がわかりきってる勝負ほど、退屈なものはないわ――。
こんなことなら、何故猫ちゃんはあんなに可愛いのかという考察に時間を使ったほうが、100億倍有意義ってものよ。
「ゼハァ……! ゼェ……! ゼェ……!」
私の手元の懐中時計で、時間はちょうど4分を回ったところだけど、満身創痍の三下リーダーに対して、ギルは未だ息一つ乱れていない。
さもありなん。
ギルはキングオークの猛攻を一人で5分受けた時でさえ、庶民があくせく働く様を、紅茶片手に眺める有閑マダムみたいに涼しい顔をしていたのだ。
こんな三下リーダーのショボい攻撃だったら、丸1日受け続けたとしても屁でもないだろう。
「ヘイヘイ、三下リーダー! 残り時間はあと1分よ! もうどうせここからの逆転は不可能なんだから、残りの1分はアンタのママへの感謝の気持ちを綴った手紙を朗読する時間にしましょうよ!」
「う、うるせええええええええ!!!!! お前は黙ってろ煽りカス女がッ!!!! ――オイ、三下! 卑怯だぞッ!」
「……!?」
…………は?
何言ってんだコイツ??
「両手に盾なんか持ってたら、誰だってある程度は防げるに決まってんだよ! 男だったら正々堂々、盾なんか使うんじゃねえ!」
「――!」
ハアアアアアアアアアア????
「盲目なる傲慢
果てのない強欲
海より深い嫉妬
慟哭する憤怒」
「ウオオオオオオイ、セレナ!?!? 何お前、【断罪の火球】撃とうとしてんだ!?!?」
「だって三下リーダーの頭ったら、もう取り返しのつかないところまできちゃってるみたいだから……、一思いに送ってあげようと思って」
「あの世にか!?!? 余計なお世話だ!!」
「セレナ、落ち着いてくれ。――俺なら大丈夫だから」
「――!」
ギルはあろうことか、三下リーダーの挑発に乗って、両手の盾を手放してしまったのだ。
……ギル、あなた。
「ハ! ハハハハハ!! そうそう! それでイイんだよ! これで俺の勝ちだああああああ!!!」
三下リーダーがここぞとばかりに剣を上段に構え、それをギル目掛けて思い切り振り下ろした。
――が、
「――フンッ」
「な、なにィイイイイイ!?!?!?」
ギルはその剣を、真剣白刃取りしたのだ――!
オオ!?
スッゲ……、こんなの、リアルでは初めて見たわ。
「クッ!? あ、有り得ねぇ!? ビクともしねえぞ!?!?」
いい加減認めなさいよ、アンタとギルの、ミジンコとドラゴン並みの力の差をさ。
「レックスさん、これで5分経ちましたよね? 勝負は俺の勝ちってことでいいですね?」
「グッ……!?」
ギルは剣から手を放し、ニッコリと微笑んだ。
決着ゥゥーーーッ!!
「ク、クソがあああああああああああああああああ」
負け犬リーダーは剣をその場に叩きつけて、さっさと帰ってしまった。
オイオイ、その剣は、テッドから借りたやつでしょ?
つくづく人として終わってるわね、アイツ。
「ま、待てよ、レックス! あ、ギル、セレナ、悪かったな、うちのリーダーが……」
テッドがいそいそと剣を拾いながら、私たちに頭を下げる。
「いえ、俺は気にしてませんから」
「私は気にしてるけど、テッドが悪いわけじゃないから、あなたは謝る必要ないわよ」
「はは……、じゃあ、またな。――行こうぜ」
ドロシーとぽやぽや魔法使いちゃんに声を掛けるテッド。
「うん。またね、ギル、セレナ」
「またお会いできることを楽しみにしてますね、セレナさん!」
哀愁を漂わせているテッドとドロシーに対して、依然テンションマックスのぽやぽや魔法使いちゃん。
うん、ある意味この子なら、どのパーティーでもやってけるでしょうね。
「ええ、バイバイ」
去り行くかつての仲間に手を振る私。
これで今度こそ正式に、テッドたちとも袂を分かったわね――。
「……本当に戻らなくてよかったのかい、セレナ?」
「……!」
雨に濡れた捨て犬みたいな目で、私を見つめてくるギル。
……フフ。
「ええ、今の私の仲間は、あなたなんだから。――いいのよ」
「セ、セレナ……!!」
ギルが透明な尻尾をブンブン振りながら、全身で喜びを露わにしている。
……クッ!?
ちょ、ちょっとだけ可愛いと思っちゃったじゃない……!
私は猫派なのに……!
「あーもう、私たちもさっさと帰るわよ! 透明ブンブン丸!」
「あ、うん!」
今度こそキングオークの魔石を拾う私。
「あ、そうだ、大事なこと忘れてた」
「ん? 何だい、セレナ?」
去り行く負け犬リーダーの背中に、真っ直ぐ視線を向ける。
――私は小説のざまぁシーンで、主人公が悪役に哀れんだ視線を向けて、「私は人の不幸を喜ぶような、はしたない人間ではありませんよ」とイイ子ちゃんムーブするのが大嫌いだ。
誰だって、嫌いな人間がざまぁされたら嬉しいに決まってるじゃない――!
だから私は、全力でこう言ってやるんだ――。
「ざまああああああああああああああああああああ」




