第7魔:……やめといたほうがいいと思うけどなぁ
「な、なんでお前がここにいんだよ!?」
「なんでって、そりゃ私も依頼を受注したからに決まってるでしょ? マザコンリーダーさん」
「マ、マザコ、ン……!?」
途端、マザコンリーダーさんは、耳まで真っ赤になった。
ププププー!
いやぁ、さっきのレックスの「お母さあああん」はマジ傑作だったなぁ。
私も『仲間殺し』の二つ名をギルド内で広めてもらったお礼に、『マザコンリーダー』の二つ名を広めてあげなくちゃ(使命感)。
「テッド!」
ぐったりしているテッドのところに、ドロシーが駆け寄る。
「う、うぅ……」
「テッド……! 今助けるわ!」
ドロシーがテッドに杖を向けた。
「女神は大樹に水を注ぐ
数多の蛇が根を齧り
四頭の牡鹿が若芽を齧る
それでも女神は水を注ぐ
――回復魔法【女神の泉】」
ドロシーの杖から放たれた光がテッドを包むと、テッドの顔色がよくなった。
「ド、ドロシー……、サンキューな。もう大丈夫だ」
「嗚呼、テッド……! よかったわ……!」
ドロシーが目元に浮かんだ涙を拭う。
前から思ってたけど、あの二人、なぁんか怪しいのよねぇ?
やれやれ、お安くないわ。
「あの、あなたは怪我はありませんか?」
「え?」
ギルがマザコンリーダーに声を掛ける。
あらあら、こんなカス男にも優しくしてあげるなんて、ホントギルはお人好しなのね。
……まあ、多分ギルはお兄さんのこともあって、目の前で死にそうになってる人がいたら、助けずにはいられないんでしょうけど。
「あ、うん、俺はこの通り何ともないけど。アンタこそ大丈夫なのか? あの女の【断罪の火球】を、あんな至近距離で浴びて……」
「ああ、それなら――」
「オーホッホッホ! それなら心配ご無用でしてよ! 私のパートナーであるこのギルは、どっかのもやしっ子リーダーと違って、ちゃんと鍛えてるから頑丈ですの!」
「ははは、いやあ、照れるなぁ」
「パートナー……だと……!? マ、マジかよアンタ……。この女と、パートナーになったのか……?」
「あ、はい。ギルバートっていいます。ギルって呼んでください。あなたはセレナの元パーティーメンバーの、レックスさんですよね?」
「あ、うん。そうだけど……」
もやしっ子リーダーはギルを、信じられないものでも見るみたいな目で窺っている。
まあ、確かにもやしっ子リーダーからしたらギルは、いろんな意味で規格外な男でしょうからね。
「わあい、セレナさん、本物だぁ!」
「っ!?」
その時だった。
やたらぽやぽやした雰囲気の女の子が、私の手をギュッと握ってきた。
女の子の頭には、三日月の髪飾りがキラリと光っている。
この子は、さっきキングオークにショボい魔法を撃ってた子……!
「な、何よ急に!?」
「私は今日からレックスさんのパーティーに入った、魔法使いのエイダっていいます! 私ぃ、天才魔法使いのセレナさんにずっと憧れてたんですぅ! お会いできて光栄ですぅ!」
「……!」
ふ、ふぅん?
つまり私のファンってこと……?
へ、へえ?
なるほどねぇ……?
ファンなのかぁ。
そうかぁ。
「ま、まあ、あなたも魔法の腕はまだまだみたいだけど、筋は悪くないと思うわよ。一生掛かっても私の足元にも及ばないとは思うけど、精々頑張ったら?」
「はい、頑張りますぅ!」
……クッ!?
嫌味が通じない……!?
……正直苦手なタイプだわ、この子。
「オイ、エイダ! そんな自己中女に憧れたら、ろくな魔法使いにならないぞ! 考え直すんだ!」
「頭に特大ブーメラン刺さってるわよ自己中リーダー」
「んだとぉ!?」
「「セレナ」」
「……!」
続いてドロシーとテッドが、神妙な顔で声を掛けてきた。
「ありがとう、セレナ、お陰で助かったわ」
「恩に着るよ」
「……フン、まあ、元パーティーメンバーのよしみよ。ありがたく思いなさい」
「ふふ……ねえ、セレナ、もう一度だけ、私たちとパーティーを組んでもらえないかしら?」
「――!」
ドロシー……。
「俺からもお願いするよ。やっぱ俺たちには、セレナが必要だ。もし戻ってくれるなら、俺たちにできることなら何でもするからさ」
「テッド……私は……」
「フザけんなッ!!」
「「「……!」」」
自己中リーダーが顔を真っ赤にしながら激高した。
「何リーダーの俺を差し置いて勝手に話を進めようとしてんだよお前ら!?」
「でも、レックス……」
「でももクソもあるかッ! 俺は絶対に認めないからな!」
「フン、心配しなくても、私は二度とアンタのパーティーに戻るつもりはないわよ、レックス」
「……っ!?」
「そもそも今の私には、アンタの100億倍頼りになるパートナーがいるしね。ねえ、ギル?」
私はギルの肩に、手をポンと置く。
「セ、セレナ……! 君、俺のことそこまで想っててくれたんだね……!」
「……!」
ギルがご主人様に褒められた大型犬みたいなキラッキラした瞳で、私を見つめる。
し、しまった……!
私としたことが、勢い余って、つい恥ずかしい台詞を吐いてしまった……!
「い、いや、今のは言葉の綾だから!? 勘違いしないでよ、このおっとり入道雲が!」
「はは、今日もセレナは面白いなー」
「クッ……!」
ホントギルといると、調子狂うわね……。
「あーもう、そういうわけだから、私たちはもう行くわ。じゃあね」
「チッ! さっさと行けよ。シッシッ!」
なんだァ? てめェ……このマザコンリーダーが。
やっぱここで消し炭にしとこうかしら。
そんでアンタの肉でハンバーグを作って、それをアンタのママに匿名でプレゼントしてあげるわ。
「おっと、そのキングオークの魔石は置いてけよ」
「っ!?」
私が魔石を拾おうとしたら、マザコンリーダーがとんでもないことを言い出しやがった。
ハアアアアアッ!?!?
「アンタ、自分が何を言ってるかわかってるの!? あのキングオークは、私とギルが倒したのよ!? アンタなんて、ママへの愛を叫んでただけで、クソの役にも立ってないじゃない!?」
「う、うるせえうるせえッ!! 半分は俺たちがキングオークを弱らせてたお陰じゃねえか! だから俺たちも、半分は分け前を貰う権利があるはずだ!」
「……」
アンタらの攻撃なんて、蚊に刺されたくらいのダメージしか入ってなかったじゃない。
やっぱりコイツはもうダメだ。
世のため人のためにも、ここで地獄に送っておこう。
「オイ、レックス、お前いい加減にしろよ!」
「そうよ! これ以上恥を重ねないで!」
「アァン!?」
遂にテッドとドロシーからも呆れられたわ。
リーダーの姿か? これが……。
「レックスさん、じゃあ一つ、俺と勝負をしませんか?」
「……は?」
ギル……!?
「今から5分間、あなたは俺のことを、好きなだけ攻撃してきてください。それで俺を一歩でも動かせたら、この魔石はあなたに差し上げますよ」
「……ほお」
フフフ、なるほどね。
ギルったら、純朴そうな顔して、意外と策士じゃない。
「その代わり、俺が5分間耐えられたら、この魔石は俺たちが貰います。どうです?」
「ククク、乗った! 吐いた唾飲むんじゃねえぞ、三下が!」
「ええ、もちろんです。ではこれで勝負成立ですね」
「レックス、大丈夫かお前!?」
「私にはあなたが勝てるビジョンが、まったく見えないんだけど……」
「うるせえって言ってんだろうがッ!? いい加減リーダーである俺を信頼しろよ!?」
「私は信じてますよ、リーダー!」
「――! エイダ……」
「リーダーならきっと勝てます! 頑張ってくださいね!」
「あ、ああ! エイダのためにも絶対勝つから、見ててくれよな!」
「はい!」
あらあら、このぽやぽや魔法使いちゃんたら、男の趣味も随分ぽやぽやしてるのね。
あなたみたいな女の子がいるから、こういう男が調子に乗るのよ?
「テッド! お前の持ってる予備の剣、貸してくれ!」
「……やめといたほうがいいと思うけどなぁ」
そうは言いつつも、渋々剣をマザコンリーダーに貸してあげるテッド。
何だかんだ、テッドもお人好しよね。




