第6魔:私の見間違いなのかなぁ?
「紹介するよ、彼女が今日からこのパーティーに加わる、魔法使いのエイダだ」
新人のエイダを、テッドとドロシーに紹介する俺。
「はじめまして、エイダです! 一日でも早くみなさんのお役に立てるよう頑張りますので、どうぞよろしくお願いします!」
ペコリと頭を下げるエイダ。
エイダの頭には、三日月の髪飾りがキラリと光っている。
うんうん、やっぱ俺の見立て通り、傲慢女のセレナより、余程素直でイイ子だな。
「あ、うん……アーチャーのテッドだ」
「……僧侶のドロシーよ」
「オイオイ、どうしたんだよ二人とも、そんな暗い顔して!? こんな空気じゃ、エイダが可哀想だろ!?」
リーダーである、俺の身にもなれよ!
「いや、でもよレックス、エイダが悪いって言いたいわけじゃねーんだけど、やっぱセレナの代わりは、誰だろうと荷が重いよ」
「っ!?」
な、何だと……!
「そうよ。セレナは確かにちょっと……いや、大分口が悪くて我が強いところがあったけど、紛れもない天才だったわ。セレナがいたから、一昨日のキングオークだって討伐できたんじゃない」
「……!」
ドロシーまで……!!
「ねえレックス、悪いことは言わないから、セレナに謝って、もう一度このパーティーに戻ってきてもらいましょうよ」
「ハ、ハァアアア!?!?」
何言ってんだコイツッ!?
「い、今更そんなことできるわけねーだろッ!? セレナはクビにしたんだッ! もう二度と、アイツとパーティーを組むことはないッ!」
「でも……」
「あ……そうですよね。私なんかじゃ……あの天才魔法使いの、セレナさんの代わりには……なれませんよね……」
「「「……!」」」
エイダが大粒の涙をボロボロ零しながら、俯いてしまった。
嗚呼――!!
「あっ、ゴメンなさいエイダ! そういうつもりで言ったわけじゃないのよ!」
「そうそう! ゴメン! 俺も軽率だったよ……」
「エイダ、二人もこの通り反省してるみたいだし、今回はリーダーである俺の顔に免じて、二人を許してあげてくれないかな?」
「あ、はい! わかりました!」
「「「っ!?」」」
途端、一瞬で笑顔になったエイダ。
あれ???
もしかして今の、噓泣き???
……まさか、な。
「よ、よし、じゃあ早速、この四人での、初クエストいってみよーぜ」
「はーい!」
「あ、ええ……」
「おう……」
浮かない顔のドロシーとテッドとは目を合わせないようにしながら、俺はクエスト依頼の掲示板に向かった。
「あれ!? またキングオークの討伐依頼出てるぞ!?」
一昨日俺たちが討伐したばかりなのに、もう新しい依頼が出ていて、思わず目を見張った。
「凄いですよねー。これでもう、三日連続ですよ」
「……え?」
エイダ……?
「三日連続って……。昨日もキングオークの討伐依頼が出てたのか?」
昨日俺は新メンバー探しに躍起になってたから、掲示板は見てなかったからな……。
「はい、出てました。何でも、ニャッポリート大森林に出没してたみたいです。でも、もうここに依頼書が貼られてないってことは、早速誰かが討伐したみたいですね」
「ふ、ふぅん」
このギルドの冒険者で、俺たち以外にそんなことできるパーティーなんて、他にいたかな……?
よもやセレナが……!?
い、いやいやいや!
あんな傲慢煽りカス女を、そんなすぐ受け入れてくれるパーティーがあるとはとても思えない(俺が『仲間殺し』の悪評も広めておいたし!)。
多分どっかの古参パーティーが、たまたまラッキーパンチでキングオークを倒したに違いない。
まあいい。
「よし、ちょうどいいじゃねーか。腕慣らしに、このキングオークの討伐依頼受けようぜ」
「ハアアアッ!?!? レックス、お前、正気かよ!?」
「え?」
「そうよ! 一昨日キングオークを倒せたのは、セレナがいたからって言ったばかりじゃない!? 私たちだけじゃ、返り討ちに遭うのがオチよ!」
「う、うるせえうるせえッ! リーダーは俺だぞ!? 一昨日だって、あの煽りカス女が邪魔しなきゃ、俺がキングオークの首を刎ねてたんだ! この四人なら、キングオークが何体いようが楽勝だよ!」
「え、えぇ……」
「レックス……」
「流石リーダーッ!」
「「「――!」」」
エイダがキラキラした瞳で、そう叫んだ。
リ、リーダー……!!
「カッコイイです、リーダー! 私、リーダーに一生ついていきます!」
「おお……! そうかそうか! ハハハハハ!! 任せとけ! エイダのことは、リーダーである俺が、一生面倒見てやるからよ!」
「はい!」
やっぱエイダをこのパーティーに入れて正解だったな!
今までのメンバーは、どうにもリーダーである俺への敬意が足りてなかったからな!
「「……」」
ドロシーとテッドが何か言いたそうな顔で俺を見ていたが、俺はそれを無視し、さっさとキングオークの討伐依頼を受注した。
「この辺だな」
そして俺たちは、キングオークの目撃情報があった、エクーフラ湿原に着いた。
薄ら霧が出ているので、見晴らしが悪い。
クソ、こりゃ、慎重に進んだほうがよさそうだな。
「オ、オイ、みんな! ここに、キングオークの足跡があるぞ!」
「「「――!」」」
後方から、テッドの叫び声が聞こえた。
何だと――!
「本当か、テッド!」
慌てて振り返ると、そこには――。
「…………あっ」
「ああ、本当だ! みんなも見てくれ!」
「テ、テッド……! ――後ろッ!」
「え?」
――テッドの真後ろに、テッドの身長の倍はあろうかという、キングオークが佇んでいた。
「ブモオオオオオオオオオ」
「ぐえっ!!?」
「「「――!!」」」
キングオークの張り手がモロに直撃し、テッドはゴミクズみたいに吹き飛ばされた。
「テ、テッドオオオオオオ!!!」
クソッ!!
ああもう使えねぇ奴だなッ!
「リーダー! 時間稼ぎをお願いします! その隙に、私が魔法で攻撃しますので!」
「エイダ!?」
おお……!
可愛い顔して、意外と肝が据わってるじゃんこの子!
やっぱ煽りカス女より、100倍有能だわ!
「任せてくれよ! ドロシー! 援護してくれ!」
「ああもう! あまり期待はしないでよね!」
そうは言いつつも、真っ直ぐキングオークに杖を向けるドロシー。
へへ、それでこそドロシーだぜ!
「咎人は鎖に繋がれ
その魂を握られる
鎖は決して逃さない
八つの印を刻むまでは
――拘束魔法【光の鎖】」
ドロシーの杖から放たれた光の鎖が、キングオークを拘束する。
――が。
「ブモオオオオオオオオオ」
「もうッ! だから言ったじゃないッ!」
キングオークはその鎖を、例によって引きちぎってしまった。
「いや、十分だドロシー! オラ、キングオーク! 次は俺が相手だ! かかってきやがれ!」
俺は右手の剣を振って、キングオークを挑発する。
「ブモオオオオオオオオオ」
「ぐうっ!?」
激高したキングオークの拳が、俺の左手の盾に直撃する。
全身がビリビリ痺れたが、何とか気合で耐えた。
よし、イケる!
「エイダ! 今だ!」
「はい!」
エイダが杖をキングオークに向けた。
「悪魔は神と呼ばれていた
時の流れが神を堕とし
名前はいつしか呪いとなった
悪魔の涙が天から零れる
――雷撃魔法【悪魔の涙】」
エイダの杖から放たれた雷撃が、キングオークに直撃した。
――やったか!?
「……ブモオオオオオオオオオ」
「なっ!? ああッ!?」
が、キングオークは表面が軽く焦げただけで、大したダメージは与えられていないようだった。
しかもあろうことか、キングオークは俺から盾を奪い取り、後方に捨ててしまったのだ。
し、しまった……!!
俺としたことが……!!
――こうなったら、やられる前にやってやるッ!
「うおりゃあああ!!!」
俺は剣で、キングオークの脛を斬り裂いた。
「――なっ!?」
が、キングオークの脛は、まるで鋼みたいに硬かった。
――俺の剣は、根本からポッキリ折れてしまったのだ。
そんな――!!
「……ブモオオオオオオオオオ」
「ヒッ……!?」
全身から殺意を溢れさせたキングオークが、丸太のように太い腕を、天高く掲げる。
――あ、死ぬ。
この瞬間、俺は生まれて初めて明確に死というものを実感した。
キングオークがこの拳を振り下ろしたら、俺の頭は高いところから落としたスイカみたいに木端微塵に吹き飛ぶ――。
「……い、嫌だ」
そんなの嫌だ!
死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない――!!
「ブモオオオオオオオオオ」
「お、お母さああああああああああん!!!!」
助けてえええええええええええええ!!!!
「フンッ!」
「っ!?!?」
その時だった。
俺の前に、両手に盾を持った男が立ち、キングオークの拳をその盾で受け止めた。
――なっ!?
「盲目なる傲慢
果てのない強欲
海より深い嫉妬
慟哭する憤怒」
こ、この声は――!?
「溶け出でる色欲
嗤う暴食
渇望する怠惰
七つの罪が頭蓋を焼く
――獄炎魔法【断罪の火球】」
声のしたほうから放たれた特大の火球が、キングオークに直撃した。
「ブモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」
火球は瞬く間にキングオークを焼き尽くし、後にはキングオークの魔石だけが残されていた。
「アラアラアラ、これはこれは、自称一流冒険者のレックスさんじゃありませんか。あれあれぇ? でもおかしいですねぇ? 今さっきレックスさん、あんなキングオークにビビッて、『お母さあああん』って泣き叫んでませんでした? 私の見間違いなのかなぁ?」
「テ、テメェ……!!」
霧の中から、俺の大嫌いな、傲慢煽りカス女が現れた――。




