第4魔:あんま調子乗らないでよね!?
「ところでギル、あなた、一人でどうやってキングオークに勝つつもりだったの?」
「え?」
キングオークの討伐からの帰り道。
ずっと疑問に思っていたことを、この機会に訊いてみた。
「ああ、まあ、俺、耐久力だけには自信あるから、ああやってひたすらずっと守りを固めてれば、いつか相手が疲れるだろうと思って」
「……!?」
マジかコイツ。
キングオークは、何よりその無尽蔵の体力こそが厄介な相手なのに。
下手したら、一晩中だって攻撃され続けたかもしれないのよ?
当然ギルもそのことは念頭に置いてるだろうから、つまりギルは、一晩中でもキングオークの猛攻を受けきる自信がある……ってコト!?
……何気にギルって、とんでもない天才なんじゃ。
「ん? どうかしたかセレナ? 俺の顔に、何か付いてるか?」
「い、いえ!? 何でもないわ!」
「……そうか」
……まったく、こんな純朴な大型犬みたいな顔しといて、大分頭のネジ外れてるわね。
「……ねえギル、なんであなた、そんなに防御にだけ特化させてるの? それだけの実力があるなら、片手には剣を持てば、どんな相手も一人で倒せるんじゃない?」
「――!」
「?」
途端、ギルは今にも泣きそうな顔になった。
あ、あれ?
もしかして私、地雷踏んだ……?
「……実は俺、兄貴がいたんだ」
「……」
お兄さんがいた、と過去形ということは、今はもうこの世にはいないってことか……。
「兄貴は天才的な魔法使いでさ。俺が前衛で敵を引き付けて、後衛から兄貴が特大の魔法で敵をやっつける。そうやって俺たち兄弟は、冒険者として生計を立ててたんだ」
「……!」
まさか……。
「……でもある日、兄貴と二人で山道を歩いていたら――突然アブソリュートヘルフレイムドラゴンに襲われて」
「なっ!?」
アブソリュートヘルフレイムドラゴン……!
それって、世界で七体しか認定されていない、【最上級魔獣】のうちの一体じゃない……!
滅多に人間の前には姿を現さないって聞いたことがあるけど、そんな伝説の魔獣に運悪く遭遇してしまうなんて、最早災害に遭うようなものだわ……。
「アブソリュートヘルフレイムドラゴンは強大な存在だった……。当時の俺じゃ成す統べなく圧倒されて、瀕死の重傷を負った。……そして兄貴は、アブソリュートヘルフレイムドラゴンに殺されたんだ。この傷も、その時負ったものだよ」
「……」
ギルは右目の上の傷を撫でながら、遠い目をした。
こういう時、何と声を掛けていいのかわからない……。
煽り文句だったらいくらでも出てくるのに……。
「俺は悔やんだ。悔やんで悔やんで悔やんで悔やんで、悔やんで悔やんで悔やんで悔やんだ。俺がもっとアブソリュートヘルフレイムドラゴンの攻撃に耐えられていたら。きっとその隙に兄貴が魔法でアブソリュートヘルフレイムドラゴンを倒してくれて、兄貴は死なずに済んだんだ」
「それは……」
どうなのかしら……。
ギルのお兄さんの魔法の腕がどのくらいなのかにもよるけど、天才の私でさえ、【最上級魔獣】が相手だと、勝率は良くて一割といったところだろう。
どれだけギルがアブソリュートヘルフレイムドラゴン――ああもう! 長ったらしい名前ね!?
もうアブゴンと呼ぶことにするわ。
ギルがアブゴンの攻撃を耐えられていたとしても、お兄さんがアブゴンを倒せていたとは思えないけど。
「だから俺はそれ以来両手に盾を持って、徹底的に防御力だけを鍛えた。鍛えて鍛えて鍛えて鍛えて、鍛えて鍛えて鍛えて鍛えた。――もう二度と、大切な人を失わなくて済むように」
「ギル……」
なるほどね。
ギルの偏執的とも言える、防御に対するこだわりの理由がわかった気がするわ。
「じゃあ、私とギルが出会ったのは運命だったかもしれないわね。最強の盾であるギルと、最強の矛である私が組めば、まさに無敵だもの」
「ああ、そうだな。――セレナのことは、何があろうと俺が必ず守るから、安心してくれ」
「……!」
真っ直ぐな翠の瞳で見つめられながらそう言われ、またしても私の胸がトクンと一つ跳ねた。
なっ!?
きょ、今日の私、いったいどうしちゃったの……!?
……まあ、こんな台詞レックスには、一度も言われたことなかったしなぁ。
でもだからって、私はそんなチョロい女じゃないんだからね――!!
「あんま調子乗らないでよね!? この無自覚トロンボーンが!」
「どうした急に!?」
こんな遣り取りをしながらも、私たちはギルドに戻ったのだった。




