第3魔:ギルと呼んでくれ
両手に盾???
そんな装備構成聞いたこともない。
しかもソロで。
確かにそれなら防御は盤石になるかもしれないけど、相手を倒す手段がないじゃない。
「ブモオオオオオオオオオ」
「クソッ!」
案の定、男はキングオークの拳による猛攻を一歩も引かず凌いではいるものの、文字通りの防戦一方。
何せ盾しか持っていないのだから。
いったいどうやって討伐するつもりだったのかしら?
まあいい、もう少しここで様子を見るとしましょう。
私は依然気配を消したまま、この攻防の行く末を見守った――。
「ブモオオオオオオオオオ」
「グウゥッ!」
「…………」
5分は経っただろうか。
この5分間、居酒屋でオッサンたちがする昔話の如く、延々同じことが繰り返されていた。
キングオークの激しい攻撃を、男は一歩も引かず凌いでいる。
だが、かといってキングオークの身体には、未だ傷一つ付いていなかった。
何せ男は、一度も攻撃していないのだから。
こうなったらもう、疑いようもない。
――あの男は、攻撃手段を一切持っていないのだ。
その全てを、防御だけに特化させている。
そのお陰で、レックスでは1分しかもたなかったキングオーク相手に、5分以上一人で戦えてはいるものの、このままでは一生討伐までは至れないだろう。
……やれやれ、これはいよいよ、私がやるしかないみたいね。
「ちょっと! そこの守るしか能のないあなた!」
「っ!? セ、セレナさん!? 何故ここに!?」
私が声を掛けると、男は目を見張った。
おっと、キャミィさんから人を煽るのは控えろと言われたばかりなのに、もう煽ってしまったわ。
どうも日頃の癖は、そう簡単には直らないわね。
反省反省。
でも、どうやらこの男、私のことはご存知みたいね。
それなら話は早いわ。
「私もそのキングオークの討伐依頼を受注したの! もしあなたさえよければ、天才である私の魔法でそいつを倒してもいいけど、どうする?」
「――! あ、ああ! それは助かるよ! 頼む!」
よし、言質は取った。
あとの問題は、どの程度の火力に抑えるかだけど――。
まあ、あの様子からして、レックスよりも耐久力が低いということはなさそうだし、昨日と同じくらいでいいか。
一応回復ポーションはいくつか持ってるし、怪我した分はこれで治してもらうってことで。
――じゃあ、一丁いきますか。
――私は右手に持つ杖の先を、キングオークに向ける。
「盲目なる傲慢
果てのない強欲
海より深い嫉妬
慟哭する憤怒
溶け出でる色欲
嗤う暴食
渇望する怠惰
七つの罪が頭蓋を焼く
――獄炎魔法【断罪の火球】」
私の杖から放たれた特大の火球が、キングオークに直撃した。
「ブモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」
「うおっ!?」
火球は瞬く間にキングオークを焼き尽くし、後にはキングオークの魔石だけが残されていた。
はい、これで一丁上がり。
「す、凄いな……! あのキングオークを、一撃で……!」
男はついさっきまでキングオークが立っていたところを、キラキラした瞳で見つめる。
「それはこっちの台詞よ。あなたにも炎が掠ってたけど、怪我はないの?」
いくら手加減していたとはいえ、私の【断罪の火球】は、普通の人間だったら掠っただけで致命傷になってもおかしくはないのに。
「ん? ああ、盾で防いでたし、あのくらいなら、この通り平気だよ」
確かに怪我はなさそうだ。
しかも、キングオークの猛攻を5分以上受けていたにもかかわらず、息一つ乱れていない。
――もしかしてこの男、とんでもない逸材なんじゃ。
……なるほど、きっとキャミィさんがちょうどいいと言っていたのは、このことだったんだわ。
「ねえあなた、他にパーティーを組んでる人はいないの?」
「え? ……ああ、それが、一応昨日まではパーティーの一員だったんだけど、俺は君の言う通り、防御しか取り柄がなくて……。俺みたいな木偶の坊は用無しだって、クビにされちゃったんだ。はは……」
なるほど、多分この人がいたパーティーというのは、さっきギルドで私が最初に声を掛けた、男三人組だ。
その内の一人が、「使えない木偶の坊をクビにした」と言っていたし。
――フフフ、見る目がないわね。
馬鹿と鋏は使いようという諺を知らないのかしら?
「そう、ならちょうどよかったわ。実は私も今、パーティーを探してる最中だったの。あなたさえよければ、私と組まない?」
「え!? いいのかい!? 君みたいな天才が、俺みたいな凡人と!?」
「もちろんよ。――それに、あなたは凡人なんかじゃないわ。あなたのその桁外れの防御力は、まさしく天才の域に達してるわ。同じく天才である私が言うんだから、間違いないわよ」
「――! はは、君にそう言ってもらえるとは、光栄だね。――俺は戦士のギルバート。ギルと呼んでくれ」
ギルは右手の盾の取っ手を腕に嵌め、空いた右手を差し出してきた。
よく見れば、なかなかのイケメンだ。
翠色の髪と瞳が煌めいている。
だが、右目の上に、大型の獣の爪で斬り裂かれたような傷があり、それがくぐってきた修羅場の数を物語っていた。
「そう、ギル、よろしくね。知ってると思うけど、私は魔法使いのセレナよ。セレナと呼んでちょうだい」
私はギルと握手を交わした。
ギルの手は、まるで岸壁みたいに、大きく硬かった――。
フフ、これは頼りになりそうね。
「ああ、こちらこそよろしく、セレナ」
「――!」
ギルは無邪気な大型犬みたいな笑みを向けてきた。
この瞬間、何故か私の胸が、トクンと一つ跳ねた。
あ、あれ?
何かしら、今の……?
ま、まあいいか。
――こうしてこの日私に、心強い仲間が出来たのだった。




