第2魔:それはちょうどよかったにゃ
「ハァ……」
そして一夜明けた朝。
私は馴染みの冒険者ギルドの隅に、一人で佇んでいた。
レックスのパーティーを追放されたことについては、未だに納得がいっていない。
私は誰よりもパーティーに貢献してきた自負があるのに。
昨日のキングオークだって、私がいなかったら絶対に勝てない相手だった。
そもそも私はあのクエストの受注には反対だったのよ。
私はまだしも、他のメンバーにはどう考えてもキングオークは荷が重かったから。
だというのに、レックスがいつもみたいに「いけるいける」と根拠のない自信を発揮し、無理矢理依頼を受注してしまった。
その結果があの様。
私は気を利かせて命を助けてあげたのに、恩を仇で返すとはあのことよ。
「……まったく」
とはいえ、ここで文句を言っていても始まらない。
私は魔法の腕には絶対の自信を持っているものの、如何せん詠唱の隙が大きいので、一人ではどうしても戦いづらい。
何とか前線で敵を引き付ける仲間はほしい。
「……よし」
あまり気は進まないけど、パーティーメンバー探すか……。
「ね、ねぇ」
「ん?」
私は差し当たり、ギルド内のテーブルで昼間から酒を飲んでいた、屈強な男性三人組に声を掛けた。
「おお、誰かと思えば、『仲間殺し』のセレナじゃねーか」
「は、はぁ!? 何よそれ!?」
「何って、レックスが言ってたぜ? セレナは仲間を巻き込んで、危ない魔法を容赦なくブッ放す『仲間殺し』だって。だからパーティーをクビにしたってよ」
「なっ……!」
アイツゥゥ……!!!
「そういうわけで、悪いけどパーティーを探してるなら他を当たってくれ。俺たちもまだ、死にたくはねーからよ」
「そうそう、命あっての物種だもんな」
「それこそうちも昨日、使えない木偶の坊をクビにしたばっかだし。ハハハ」
三人は、これで話は終わりとばかりに、また酒盛りを再開した。
「……クッ」
声がデカいだけの奴が流したデマを、大して確認もせず鵜吞みにしやがって、この凡愚どもが……!!
こういう奴らが、陰謀論とかにコロッと騙されるんだ!
精々異様にまばたきが少ない霊感商法女に、高額の壺でも買わされてろバーカ!
――こうしてこの後も私は何組かのパーティーに当たってみたものの、すっかり私は『仲間殺し』として悪評が広まってしまっており、どこも相手にすらしてもらえなかった……。
「……クソ」
レックスの奴、ホント許せない。
こんなことなら、マジで【断罪の火球】で消し炭にしておけばよかった。
今後はギルド内ですれ違うたび、風刃魔法でコッソリ靴紐切ってやる……!
あーあ、こうなったら仕方ない。
あまり気は進まないけど、当分はソロでやっていくしかないわね。
私は重い腰を上げて、クエスト依頼の掲示板を見に行った。
「うーん」
だが、どの依頼書もイマイチパッとしない。
薬草採集とかは、苦手なうえ、報酬も安いしなぁ。
私は攻撃魔法が専門なので、やっぱ戦闘系の依頼がいいわよね。
「――あ」
が、そんな中、『キングオークの討伐』という依頼書を見付けた。
キングオークは昨日私が討伐したばかりなのに、もう新しい個体が発見されたらしい。
キングオークなんて、普段は半年に一回出るかどうかくらいの珍しい魔獣なのに、二日も続けてなんて……。
何かの悪い兆候じゃなきゃいいけど……。
さて、どうしたものかしら。
前衛で誰かが囮になってくれるなら、私なら問題なくキングオークを倒せるとは思うけど、ソロとなると、そう簡単にはいかないかもしれない……。
――でも。
「……背に腹は代えられないわよね」
私は依頼書を取り、ギルドの受付へと向かった。
「これ、受注します」
「にゃ! セレナ、了解だにゃ」
受付嬢のキャミィさんに、依頼書を渡す。
キャミィさんは猫の獣人なので、今日も頭にフワフワの猫耳がぴょこぴょこしている。
私は猫が大好きなので、いつかキャミィさんの猫耳を触らせてもらいたいと思っているのだが、なかなか勇気が出ず、未だ切り出せていない。
ああもう、相変わらず可愛いなぁ、キャミィさんッ!
「セレナ、そういえば聞いたにゃ。レックスのパーティーをクビにされちゃったそうだにゃ?」
「――!」
これだけ噂になってるんだから、そりゃキャミィさんの耳にも入ってるか……。
「……はい。でも、信じてください! 私は『仲間殺し』なんてしてませんから!」
「もちろん信じるにゃ。セレナの確かな腕は、ずっと見てきたアタシが一番よくわかってるにゃ」
「キャ、キャミィさん……!」
キャミィさんは「にゃふふ」と、女神のような笑みを浮かべた。
嗚呼――!
「むしろセレナは今までよく、あのパーティーで自分のできることを精一杯やってきたと思うにゃ。セレナをクビにしたことを、いずれレックスたちは後悔することになるだろうにゃ」
「そう言ってもらえると、心が軽くなります。……でも、他の冒険者はそうは思ってないみたいで。当分は、ソロでやってくしかないみたいです」
「にゃふふ、それはちょうどよかったにゃ」
「え?」
キャミィさん?
「実はこの依頼、30分くらい前に、とあるソロの冒険者も受注したのにゃ。だから現場で鉢合わせするかもしれないから、そのつもりでいてにゃ」
「あ、はい。わかりました」
同じ依頼を、複数のパーティーが受注することはよくある。
その場合は、報酬の分け前等で揉めないように、互いに譲り合いながら協力するのがマナーとされているのだ。
……まあ、実際はそれでもお互い一歩も譲らず、諍いになることも少なくないのだけど。
冒険者なんて生き物は、如何せん我が強い連中が多いからね。
「ただし、新しいパーティーを探すつもりなら、一つだけセレナにアドバイスしておくにゃ」
「え?」
アドバイス?
「セレナのその、すぐに人のことを煽る癖だけは、抑えたほうがいいと思うにゃ。それじゃ円滑な人間関係は築けないにゃ。――パーティーというのは、互いに信頼し合ってこそ、真の力を発揮するものなのにゃ」
「――!」
子どもを諭す母親のような顔でそう言うキャミィさんに、私は恥ずかしさで顔がカッと熱くなった。
「あ……はい。なるべく気を付けます……」
「うん、応援してるにゃ」
……まったく、ホントキャミィさんには敵わないなぁ。
何にせよ無事依頼を受注した私は、キングオークが目撃されたという、ニャッポリート大森林へと向かった――。
「この辺のはずだけど。――あっ」
目撃情報があった辺りに着くと、複数の木々が物凄い力でへし折られた跡があった。
間違いない、これ、キングオークの仕業だわ。
ということは、この近くに――。
「ブモオオオオオオオオオ」
「クゥ……!」
「――!」
その時だった。
前方から、キングオークの鳴き声と共に、激しく何かがぶつかり合う衝撃音が聞こえた。
どうやらキャミィさんが言ってた、私より先に依頼を受注した人が、早速キングオークと戦り合ってるみたいね。
ここで下手に私が戦闘に割り込んで、報酬の分け前で揉めたら厄介だから、一旦遠くから様子を見よう。
私は気配を消しながら、慎重に音のするほうに近付いて行った。
すると――。
「ブモオオオオオオオオオ」
「クッ!」
「――!?」
全身を重装備で固めた戦士風の男が、単身キングオークと戦っていた。
――だが、私はその男が両手に持っているものを見て、思わず目を見張った。
――男は左右の手に、それぞれどちらも盾を持っていたのだ。




