第15魔:今は喋らないで!
「おはよ、セレナ!」
「――!」
そしてその翌朝。
私がギルドに着くと、いつもの場所でギルが待っていた。
両手には昨日アル中オヤジからもらった【黒崖】を、至極大事そうに持っている。
「おはよ、ギル。もう体調は大丈夫なの? 何だったら、もう何日かは安静にしててもいいのよ?」
「大丈夫大丈夫! この通り、丈夫なのだけが取り柄だからね」
ギルは両手の【黒崖】を、ブンブン軽快に振り回している。
確かにもうすっかり元気みたいね。
……本当に、よかった。
「早くアーチボルドさんからもらった、この【黒崖】の扱いにも慣れておきたいし。――早速おあつらえ向きの依頼も出てたしね」
「え?」
おあつらえ向きの……依頼?
「実は一足先に、掲示板を見てきたんだ。――そしたらまた出てたんだよ、キングオークの討伐依頼が」
「――!」
そ、そんな……。
「現場はまた、ニャッポリート大森林だよ」
あ、あぁ……。
『……ゴメンな、セレナ。……やっぱ約束、守れそうに……ないや』
この瞬間、ニャッポリート大森林で、私の【雷神の戦鎚】でギルを殺してしまいそうになった記憶が、脳裏に蘇った――。
「ハァ……! ハァ……! ハァ……!」
む、胸が苦しい……!!
息ができない……!!
「セ、セレナ!? 大丈夫か!? 体調が悪いなら、今日はやめとこうか?」
「……!」
ギルが心配そうに、私の顔を覗き込んでくる。
……ギル。
「……いえ、大丈夫よ。ちょっと立ちくらみしただけ。さっさと片付けましょう。キングオークをまともに倒せるのは、このギルドじゃ私たちだけなんだから」
「あ、うん、そうだね……」
腑に落ちない顔をしているギルとなるべく目を合わせないようにして、私はキングオークの討伐依頼を受注した。
「そろそろかな」
そしてキングオークの目撃情報があった辺りまで来た私たち。
……この場所で、私はギルを。
「ハァ……! ハァ……!」
ま、また胸が苦しくなってきた……!!
クソッ!
どうしちゃったのよ、私……!!
「セレナ!? 本当に大丈夫か!? もしあれだったら、一旦引き返そう」
ギル……。
「いえ、本当に大丈夫よ。ここまで来たんだから、ちゃっちゃとやっちゃいましょ」
「セレナ……」
「ブモオオオオオオオオオ」
「「――!!」」
前方から、キングオークの鳴き声が聞こえてきた。
早速お出ましのようね。
「……よし、じゃあ、いつも通り俺が先に行くから、セレナは後からついて来てくれ!」
「了解!」
両手に【黒崖】を構えながら突き進んで行くギルの背中を、私は追った――。
「ブモオオオオオオオオオ」
「フンッ」
キングオークの拳による猛攻を、華麗に【黒崖】で受け流しているギル。
あんなに重い盾を、もうあそこまで使いこなしているなんて……。
今のギルは、文字通りの鉄壁ね。
「さあ、セレナ、今のうちに!」
「え、ええ! 任せて!」
さあて、じゃあ、一丁いってみますか!
――私は右手に持つ杖の先を、キングオークに向ける。
「盲目なる傲慢
果てのない強欲
海より深い嫉妬
慟哭する憤怒」
『……ゴメンな、セレナ。……やっぱ約束、守れそうに……ないや』
「――!!」
あ、ああぁ、あぁ……。
「セレナ!? どうしたんだ、セレナッ!!?」
「ハァ……! ハァ……! ハァ……!」
ま、魔力が練れない……。
視界がぼやける……。
身体の震えが止まらない……。
あぁ……怖い……。
――私、怖い――。
「――クッ!? セレナ、ゴメンよ!」
「え? きゃっ!?」
その時だった。
ギルが私をお姫様抱っこしながら、物凄い速さでこの場から逃げ出した。
ぬええええええ!?!?
「ブモオオオオオオオオオ」
キングオークが私たちを追って来るも、ギルの健脚には敵わず、どんどん距離が離れていく。
「ギ、ギル……」
「今は喋らないで! 舌噛むから!」
「あ、うん……」
心臓が自分のものじゃないみたいに、バクバク暴れている……。
ギルにこの音を聞かれてしまわないか、それだけが気になっていた……。




