第14魔:よかったにゃ、ギル
「そうともよ。世界にその名を轟かせる、天才盾職人アーチボルドとは、俺のことよ。ガッハッハ! んぐ、んぐ、んぐ、ぷはぁ」
オッサンは美味そうに酒をラッパ飲みする。
えぇ……、このだらしないアル中オヤジが、本当にアーチボルドなの……?
「は、はわぁ~」
が、ギルは依然キラキラ乙女モードで、目をハートにしている。
いや、こんなのが憧れの存在で、あなたはそれでいいの!?!?
ギルって女だったら、絶対ダメ男に引っ掛かるタイプだわ……。
「にわかには信じられないわね。アンタみたいな血液もアルコールで出来てそうなダメオヤジが、あの精巧な盾を作ったなんて」
「セ、セレナ!? 失礼だよ、アーチボルドさんにッ!」
「ガッハッハ! 別に構わねぇさ。――周りの人間が俺をどう思おうが好きにしたらいい。俺が『本物』だって事実は、誰にも覆せねぇんだからな」
「「――!」」
チッ、悔しいけど、どうやら本物のアーチボルドみたいね。
この揺るぎない自信は、圧倒的な実力に裏打ちされたものに違いないもの。
――私も天才だから、よくわかる。
「は、はわわわぁ~~~~」
ギルが昔の少女漫画みたいなキャラデザになってるわ!?!?
「お前らの話はキャミィから聞いてるぜぇ。【盾翠】のギルと、【傲壊】のセレナだろ?」
「「――!」」
えっ!!?
「キャ、キャミィさん、このアル中オヤジと知り合いだったんですか!?」
「にゃふふ、実はそうなんだにゃ。何を隠そうアーチボルドは、【掃き溜めの野犬】時代の同僚だったんだにゃ」
「「「――!!」」」
えーーー!?!?!?
「ガッハッハ! もう今となっちゃ、遥か昔の話だけどなぁ。俺が戦士として前衛で盾役になって、僧侶のキャミィが後衛からサポートするってのが、お決まりのパターンだったんだ。んぐ、んぐ、んぐ、ぷはぁ」
「にゃふふ、アーチボルドはクエスト中でもいつも飲んだくれてたから、こっちもサポートするのが大変だったにゃ」
クエスト中も酒飲んでたのかよ!!!
よくそれで今日まで生きてこれたわね!?
「す、凄いですキャミィさん! アーチボルドさんと、同じパーティーだったなんてッ!」
もうギルの凄い人の基準が、完全にこのアル中オヤジになっちゃってるじゃない。
くそぅ、何だか胸の奥がモヤモヤするわ……!
なんで天才の私が、こんなダメ男の欲張りセットみたいなアル中オヤジにモヤらなきゃいけないのよ……!
「で? その自称天才盾職人が、私たちに何の用なのよ」
「セレナ! アーチボルドさんは自称じゃなく、紛れもない天才盾職人だよ!」
うるさいわね!
あなたは黙っててよ、ギル!
「ガッハッハ! そんな恋敵を見るような目で睨まないでくれよ嬢ちゃん。んぐ、んぐ、んぐ、ぷはぁ」
こ、恋敵を見るような目はしてねーわ!!
あと医務室で酒を飲むのをやめろ!!!
「用があるのは、どっちかってーとギルのほうだ。――俺の作ったこの【白波】が、エンペラーオークに砕かれたんだって?」
アル中オヤジが、【白波】の欠片をポケットから出した。
ああ、これ、昨日ギルが握りしめてたのを、キャミィさんに渡したんだっけ。
――なるほど、それでキャミィさんが、このアル中オヤジを呼び出したってわけか。
「あ、はい……。すいません、俺の扱いが悪かったばかりに、アーチボルドさんの名前に傷が付いてしまいました……」
「ガッハッハ! これしきのことで、俺の名前に傷が付くかよ!」
「あ、そうですよね。おこがましいこと言いました。はは……」
社交辞令ってもんを知らねーのかこのアル中は!!
ホント天才って、性格終わってる奴ばっかりだわ!(ブーメラン)
「……だが、負けっぱなしってのも、俺の性に合わねぇ」
「え? ――そ、それは!」
おもむろにアル中オヤジは、二枚の漆黒の盾を取り出した。
大分年季が入っているように見える。
「俺の作る盾のモットーは、『軽さ』と『硬度』の両立だ。いくら硬くても、重くて持ち運べないんじゃ、実戦じゃ意味ねーからな」
まあ、そりゃそうよね。
「だからこの【黒崖】は、俺以外には使いこなせねーと思って、今日まで倉庫で埃被ってたんだ」
んん??
「えっ!? てことは、もしかしてその盾は――!」
「ああ、俺が現役時代に使ってたもんだ。――お前にやるよ、ギル。お前なら、これも扱えるだろうさ」
「~~~~!!!!」
ギルがあまりの感動で、言葉を失っている。
……ぐぬぬぬぬ。
「そ、そんなに扱うのが難しい盾もらっても、使い道ないじゃない! ちょっと貸してみなさいよ!」
私はアル中オヤジから、【黒崖】を一枚分捕ろうとした。
――が。
「ぬあっ!? 何よこれ!? ビクともしないわ!?」
あまりにも重く、持ち上げることさえできない。
こんなの、とても実戦じゃ使えないわ……。
「ガッハッハ! だから言ったじゃねえか。俺以外には使いこなせねーってな。んぐ、んぐ、んぐ、ぷはぁ」
だから酒を飲むのをやめろ!!!!
イラッとするわね!!!!
「ちょっと持ってみていいですか?」
ギル――!?
「ああ、いいぜ」
「失礼します」
ギルは片手で、【黒崖】をヒョイと持ち上げた。
マジかよ……!?
やっぱギルの身体能力も、大概チートだわ。
「確かに大分重いですね。でも、俺なら何とか扱えるとは思います」
「ガッハッハ! よく言ったぜ、ギル。この通り、コイツは死ぬほど重い分、何があろうと砕けねえ、世界最硬の盾だ。――お前なら、コイツを託せる」
「ほ、本当に俺なんかがいただいてもいいんですか?」
「ああ、どうせ他に使い道ねーしな」
「あ、ありがとうございます、アーチボルドさんッ!」
ギルはあまりの感激に、今にも泣きそうな顔になっている。
ハァ~~~~(クソデカ溜め息)。
「にゃふふ、よかったにゃ、ギル」
「はい、キャミィさんも、本当にありがとうございました!」
「にゃふふふふ」
キャミィさんがニヤニヤしながら、私のことをチラチラ見てくる。
なっ!?
ま、まさかこの人、私をモヤモヤさせて反応を楽しむために、このアル中オヤジをギルに引き合わせた……ってコト!?
ウ、ウゼェ~~~~~~~~。




