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第11魔:……やっぱ約束、守れそうに……ないや

「グロロロロロオオオオ」

「クゥッ!?」


 アンノウンが分厚い鱗で覆われた拳で、何度も何度もギルの盾を殴る。

 アイツ、あんな重そうな体格しといて、意外と俊敏だわ。


「グロロロロロオオオオ」

「フッ! ハァ!」


 だが、そこは流石ギル。

 アンノウンの猛攻、その全てを両手の盾で華麗に受け流している。

 早速例の【白波(しらなみ)】も役に立ってるじゃない。

 ――さて、と、そろそろ私も働くとしますか。

 ……問題はどの程度の火力にするかだけど。

 あのアンノウンがどれだけの耐久力を持ってるかは未知数だし、いつもキングオークに撃ってるくらいの火力だと、もしも仕留め切れなかった時のリスクが大きいわよね……。


「セレナ、俺は大丈夫だから、最大火力の【断罪の火球(デーヴァダッタ)】を撃ってくれ!」

「――!」


 ギル……。

 ギルと組んで以来、まだ一度も最大火力で【断罪の火球(デーヴァダッタ)】を撃ったことはなかったけど(撃つ必要もなかったし)、ここは一つギルを信じて、久しぶりに最大火力(マックス)でいってみますか!


「わかったわギル! 絶対に、死んでも死ぬんじゃないわよ!」

「ああ、了解!」


 よし。

 ――私は右手に持つ杖の先を、アンノウンに向ける。


「盲目なる傲慢

 果てのない強欲

 海より深い嫉妬

 慟哭する憤怒」


 丁寧に、且つ迅速に、限界まで魔力を込める――。


「溶け出でる色欲

 嗤う暴食

 渇望する怠惰

 七つの罪が頭蓋を焼く

 ――獄炎魔法【断罪の火球(デーヴァダッタ)】」


 さあ、喰らいなさいアンノウン――。

 これが100%中の100%の、【断罪の火球(デーヴァダッタ)】よ――!

 ――私の杖から放たれた超特大の火球が、アンノウンに直撃した。


「グロロロロロオオオオオオオオオオオオ」

「うわっ!?」


 その場に火柱が上がり、それは天まで突き抜けた――。

 おーおー、我ながら、とんでもない火力ね、これ。

 将来冒険者を引退したら、ゴミ焼却の会社でも経営しようかしら。

 ついでに社会のゴミも華麗に焼却するってわけよ。

 さてと、何にせよ、これで一丁上がりね。


「怪我はない、ギル?」

「あ、ああ、何とかね、この通り、盾で防いだし。……それにしても、神懸った火力だね。ホラ、こっちの盾、すっかり溶けちゃったよ」


 見れば、【白波(しらなみ)】じゃないほうの盾は、溶けて原型を留めていない。

 逆に【白波(しらなみ)】は特に変形した様子はないので、流石は天才の作った最新作といったところかしら。

 ただ、いくら盾で防いだとはいえ、熱を完全にシャットアウトしたわけじゃないのに、ギルにもこれといった傷は見当たらない。

 直撃じゃなかったとはいえ、私の全力【断罪の火球(デーヴァダッタ)】でも無傷とはね。

 こりゃ、マジでギルって、身体の頑丈さだけなら世界一かもね。


「……グロロロロロオオオオ」

「ぐあっ!?」

「――!! ギルッ!」


 その時だった。

 ()()()()()()、細い腕が伸びてきて、ギルを()()()()()()

 そ、そんな――!!

 私の全力【断罪の火球(デーヴァダッタ)】でも、倒し切れなかったというの……!?

 しかも、ギルを突き飛ばした、ですって……!?

 今までどんな強大な魔獣だろうと、ギルをその場から一歩も動かすことはできなかったというのに……。


「……グロロロロロオオオオ」


 火柱の中から、全身が陶器みたいに白くてすべすべした、瘦せた人型の魔獣が現れた。

 もしかしてこれが、アンノウンの本体……ってコト!?

 さっきまで全身を覆っていた銀色の分厚い鱗は、コイツにとっては外套みたいなものだったのか……。

 ……それにしても、全力【断罪の火球(デーヴァダッタ)】でも無傷の耐久力といい、ギルを突き飛ばすほどのパワーといい、コイツ、かなりヤバいわ――。

 少なくとも、私が今まで対峙した魔獣の中では、最強クラスね……。


「グロロロロロオオオオ」

「――!」


 アンノウンが物凄い速さで、私に突貫してきた。

 クッ、マズい――!

 詠唱が間に合わない――!


「セレナッ!!」

「っ!?」


 その時だった。

 間一髪、ギルが私を庇うように前に立ち、アンノウンの拳を【白波(しらなみ)】で受けた。

 ギ、ギル……!


「遅れてゴメン! セレナのことは、俺が絶対に守るからッ!」


 ……ギル。

 アンタは、ホントに、もう……。


「グロロロロロオオオオ」

「グゥッ!?」

「ギル!?」


 が、アンノウンの目にも止まらぬ拳の連打で、ギルは徐々に後退させられている。

 よく見れば、【白波(しらなみ)】にもヒビが入ってきている――。

 そんな――!!


「グロロロロロオオオオ」

「ク、クソオオオ!!!」

「っ!!」


 遂には【白波(しらなみ)】は、バラバラに砕け散ってしまった――。

 嗚呼――!!


「グロロロロロオオオオ」

「ガ……ハ……!」

「ギ、ギルウウウウ!!!!」


 そしてアンノウンの渾身のボディーブローを喰らってしまったギルは、激しく吐血してその場に倒れた――。

 ギルの鎧も粉々になっている……。

 う、嘘よ……。

 あのギルが……、こんな……!!


「グロロロロロオオオオ」

「……クッ!」


 感情の読めない(うろ)のように暗い目をしたアンノウンが、優雅に歩いて私の目の前に立つ――。


「グロロロロロオオオオ」

「……!」


 そしてニタリと笑いながら、拳を天高く掲げる。

 コイツ、私一人なら楽に殺せると思って、余裕コいてやがる――!!

 クソッ!!

 悔しい悔しい悔しい悔しい――!!

 絶対に殺してやる――!!

 こんなどこの馬の骨ともわかんない奴には、絶対負けない――!!


「セ、セレナ……!」

「グロロロロロオオオオ」

「っ!?」


 その時だった。

 満身創痍のギルが、後ろからアンノウンを羽交い絞めにした――。


「ギルッ!!」

「い、言っただろ……。君は……俺が絶対に……守るって……」

「グロロロロロオオオオ」

「ギル……」


 ああもう……。

 あなたって、ホント……。


「グロロロロロオオオオ」

「グッ!? うぅ……!!」


 が、アンノウンは激しく暴れており、ギルが押さえていられるのも、時間の問題だろう。


「ギルッ!」

「セレナ……今のうちに……()()()コイツをやるんだ……!」

「……!」


 ギル……。


「君が前に言ってた……()()()ならコイツも倒せるだろ……?」

「で、でも、それじゃギルが……!」


 いくらギルでも、私の()()を喰らったら、命の保証はないだろう……。


「大丈夫……!! 俺は必ず耐えてみせる……! 俺を信じてくれ、セレナ……!!」

「――!」


 ギルの翠の瞳に、炎が灯っているように見えた。

 ……ギル。


「――わかったわ。あなたを信じる。――絶対に、耐えなさいよね!」

「――ああ、任せてくれ」

「グロロロロロオオオオ」


 アンノウンの暴れ方が、一段と激しくなった。

 これはいよいよ、時間がないわね――!


「よっしゃああああ!!! 覚悟しなさいよ、ヒョロガリ雑魚がああああ!!!」


 私はアンノウンから距離を取り、右手に持つ杖の先をアンノウンに向けた。


「鉄の手袋と力の帯

 雷神の怒りは次元を砕く

 歯ぎしりする者と

 歯のある食用家畜の子

 喰らっては治し

 戦車を引く」


 深く深く意識を集中させ、全身の魔力を杖の先に込める――。

 すると瞬く間に空に暗雲が立ち込め、雷鳴が轟いた。

 ――さあ、その身に受けなさい、魔法の真髄を。


「戦鎚が奔り 巨人を潰す

 戦鎚は戻る 主の下に

 万雷が彩る魂の奔流

 後に残るは 神の唄」


 空から無数の雷が落ち、それがアンノウンの頭上に集約し、巨大な戦鎚の形になった――。


「――深淵魔法【雷神の戦鎚(ミョルニル)】」


 雷の戦鎚がアンノウンを叩き潰した――。


「グロロロロロオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」

「ぐああああああああああああああ」


 雷の戦鎚は弾け飛び、空の暗雲も晴れ、燦燦と輝く太陽が再び顔を覗かせた――。


「グロロロ……オオォ……」


 全身が灰になったアンノウンは、ボロボロと崩れ去った。

 後には魔石だけが残されていた。


「ハ……ハハ……。やったなセレナ……。やっぱ君は……天才だ……よ……」

「ギルッ!」


 全身が黒焦げのギルは、それでもまだ人の形を保っていた。

 どうやら身体の頑丈さでは、ギルに軍配が上がったらしい。

 ギルの上半身の素肌は初めて見たけど、ギルの上半身は、夥しい数の古傷で埋め尽くされていた――。

 ど、どんな鍛え方をしたら、こうなるのよ……。

 いや、今はそんな場合じゃないわ!


「大丈夫、ギル!?」


 慌ててギルに駆け寄る。


「あ、あぁ……、必ず耐えるって……約束したからな……」


 フラフラになりながらも、魔石とバラバラになった【白波(しらなみ)】の欠片を拾うギル。


「フフ、流石ね。身体の頑丈さは、あなたが世界一よ、ギル」

「……いや、そうでもないよ」

「え?」


 ギル……?


「……ゴメンな、セレナ。……やっぱ約束、守れそうに……ないや。――カハッ」

「――!!!」


 ギルは激しく吐血し、その場に倒れた――。


「ギ、ギルウウウウウウウウウウウウウウ!!!!」



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― 新着の感想 ―
未知の相手だけに、作戦の中に撤退も入れておくべきでしたね ><。
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