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利休の地獄茶室 ~武将たちと利休の「ここだけの話」~  作者: スグル【戦国時代好きの40代】


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【6】意志が固い男〈客 豊臣秀吉〉

【地獄待庵(たいあん)にて 豊臣秀吉と利休】


「あの……り、利休さん…」

 

「殿下、こんなところへ、ようこそお越しくださいました」


「あの、その…ええと…」


「どうかされましたか、殿下?奥歯に物でも挟まっているのですか?」

 

「いや、現世(あっち)では、申し訳ないことをしたと反省しております」


「そのようなことは ございませんよ。悪かったのは全面的に私のほうで、殿下への恨みや憎しみや蔑(さげす)みなど1ミリも抱(いだ)いてはおりません。つまり、率直に言いますと、私は殿下への恨みや憎しみや蔑みなど1ミリも抱いては…」


「二回 言わなくていいし。頼むから、その辺にして頂けませんか?」


「ああ、すみません。殺意はないのですが、つい…。

 本当に、よくお越しくださいました。どうかお寛(くつろ)ぎください」

 

「本当は、もっと早く来るべきだったと思うが、なかなか、色々とな」

 

「私も、もっと早く招待させて頂くべきでした。しかし、秀吉様をお招きするには、特に念入りな準備をしたかったのです」


「特別な準備?俺なんかに、気を遣わなくて良いのによ」


「そのようなわけには いきませんよ。特別な茶を用意しました。薄茶と濃い茶、どちらにいたしましょうか?」


「じゃあ、薄茶で頼む」

 

「そうですか。濃い茶の方が、苦しむ時間が短く済みますのに…」

 

「おい、しっかり殺意を抱いているじゃねえか。死人を殺そうとするな」


「現世では、既に死んで、私の像にされた哀れな木を、さらに磔(はりつけ)にしたお方も いたようなので…」


「その、しつこいところ、変わってねえな」

 

「意志が固いと言ってください。しかし私も、今 思えば…」

 

「いや、待て。その先は言うな。お前は意志が固い。認める。すまなかった」


「いえ、私も申し訳ありませんでした」


「言うなと言ったじゃねえか」


「申し訳ありません」


「…利休、濃い茶を頼む」


「承知しました」


「ああ、念のため聞くが…」


「もちろん冗談ですよ。今さら秀吉様を苦しませる意味などありません」


「そうだよな。疑り深いのが俺の悪い癖だ」


「気にされるほどのことでは ありませんよ」


「俺には、茶の味も分からなかった」


「私には、兵糧の食い方も分かりません」


「そうか」


「どうぞ」


「美味いな。なんでこの味を、現世では感じ取れなかったのかな?

 で、あの時のことだけどな……俺は、怖かったんだよ」


「怖かったとは、何が、いえ 誰がですか?」


「多すぎて、言い出したら切りがないが、特にお前と官兵衛、家康。あと毛利輝元も上杉景勝も怖かった」


「ご本人にしか、分からないことなのでしょうね」


「多分そうなんだろうな。俺は必死にのし上がろうとした。信長様みたいになりたかった。

 坂を上っているときは、全然 怖くなかった。いつの間にか、俺は信長様よりでかくなっていたよ。だが、頂点に立って周りを見渡したら、突然 わけが分からん恐怖に襲われたんだ」


「それは私を含め、何人かが察していたと思います。しかし、秀吉様が何を怖がる必要があるのかと、誰もが思っていました」


「そうだよ。俺は、誰も怖がらなくて良かったんだ。ほとんどのやつが、天下なんて誰のもんでも良いと思っていたんだよ。だから、俺を頂点から追い落とそうとするやつなんて、いやしなかったんだ。それに気づいたのは、死ぬ間際だったよ」


「領地も武力も持っていない私には、天下など別世界のもののようでしたよ」


「そうだろうな。お前には影響力はあったが、俺が恐れるほどじゃあないし、いくら武将から茶の湯の師と仰(あお)がれようとも、それで大事を為(な)せるはずもない。そして何よりも、お前は権力になど、一切 関心を持っていなかった」


「欲しがりもしないものほど、向こうから寄って来るのでしょうかね」


「お前に、ある種の権力を与えたのは、他でもなく俺だ。なのに天下を取った途端に、お前が この上なく、疎(うと)ましく 妬(ねた)ましくなった」


「私が、権力のようなものを持ったのは、秀吉様の側近として、政事や人事にまで物申すようになったからです」


「お前には 茶器のみならず、人を見る目があった。百戦錬磨の武人たちにさえ、容易(たやす)く心を開かせる魅力もあった」


「茶の湯とは、いかに客を寛がせ、安らがせ、楽しませるかを追い求めるものですからね」


「俺は、そんなことも理解できず ただ利用し、邪魔になったら ただ排除しようとしただけだった。それでお前を貶(おとし)め、遠ざけようとした」


「分かっていました。私は、自ら望んで秀吉様の側近になったわけではありませんから、理由など付けず、ただ遠ざけて頂ければ良かったのです」


「俺には、そんなことも分かっていなかった。大名を改易するには、何らかの咎(とが)を言い渡す必要がある。それと同じだと思ってしまった」


「咎められるようなことは一切ないと思えば、謝罪する理由も見つかりませんでした。それでも私が一言、謝罪の言葉を口にすれば済んだことなのに、何とも融通の利(き)かないクソ爺(じじい)だったのでしょうね」


「妥協がなかったんだよ。それがお前を、孤高の茶人にした。妥協させることで、お前もただの通俗に塗(まみ)れた男にしてやりたかった」


「それも、なんとなく分かっていました。だから、あえて最後まで意地を通し死ぬことで、クソ爺の存在を完結させたのです。自分の年齢を考えれば、どうせ生きられても あと数年でしたからね」


「その数年を、自ら立ち切ったことで、利休の名は廃(すた)れぬまま後世に遺った。同時に俺には、殺す必要がない者を殺した権力者という、汚名が増えたんだ」


「殺してしまえ 不如帰(ほととぎす)」

 

「それ、俺と信長様は逆なんだよな。武将なら誰でも、人を殺すことなんて珍しくもない。だが、殺さなくても良かった者にまで〈殺してしまえ〉だったのは、俺なんだ」


「私と秀吉様は、失いたくないものが違いすぎたのでしょうね」


「俺は六十年ちょっと生きたが、最後の数年どころか、数日をも惜しんだからな。いつか尽きる人生に執着した挙句、自らの名を貶め、政権にひびを入れてしまった」


「功績が大きい人物ほど、マイナス面も強調されるものですよ」


「いつだったか、信長様にもそう言われたよ」


「私は、いても いなくても良かったのです。私の代わりは、他の者でもできました。しかし秀吉様は、この国に いなくてはならない方だったのですよ」


「そうか。お前にそう言ってもらえると、素直に嬉しい」


「私は信長様に、詐欺師だと言われましたよ」


「そうだよ。お前はいつの間にか、心を開かせてしまう。その詐欺師ぶりが一番怖かったんだ。地獄(こっち)では今、それに救われているがな」


「この狭い茶室に入れるのは、私を含めても三人。そんな場所で、有力者と私が何を話しているのか分からなければ、不安にもなるでしょうね」


「正直に言うと、まったくその通りだ。自分がここに入るのも、好きじゃなかった」


「これが、私なりの もてなしの完成形の一つだったのですが、否定されることも よくありました」


「広さと大きさと多さを競っていた俺たちは、バカにされたようにも感じたんだ」


「だからこそ、時にはそれを忘れる空間を作りたかったのですがね」


「お前でも失敗をしたってことかな?それとも、分からんやつが ボンクラなのかな」


「今 秀吉様はどう感じていますか?」

 

「なぜかな?今はこれを、とても心地よく感じる。茶を、もう一杯もらえるか?」


「はい」


「なんだか心地よくて、ひと眠りしたいくらいだよ」


「そうですか。では、今度は成功のようですね」


「そうだな…」


「良かったです。では ゆっくり茶を点(た)てますので、ひと眠りされてはいかがですか?」


「すまんな」



「お気になさらず…。

 ただ、苦しまずに、逝(い)けるようにしただけですから」



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まさに、意思が固い男・・・!ww
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