↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
利休の地獄茶室 ~武将たちと利休の「ここだけの話」~  作者: スグル【戦国時代好きの40代】


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/12

【10】嫌われ者の役目〈客 松永久秀 前編〉

【地獄待庵(たいあん)にて 松永久秀と利休】



「おい、与四郎(よしろう)」


「おお、松永Bomber(ボマー) 久秀殿」

 

「Bomberじゃねえよ。爆死なんかするか」


「しただろう。最新の研究で、松永弾正(だんじょう)の〈弾〉は、爆弾の弾であると判明したのだ」


「そんな馬鹿な研究をするやつはいねえよ。それに織田信長も弾正忠(だんじょうのじょう)だぞ」


「信長様のは、弾丸の弾だ。

 知っているか?長篠に百万発の弾丸を持って行ったのだぞ。鉄砲の数が比較されがちだが、本当に重要なのは、鉄砲より弾薬の数だったのだ」


「そんなことは知っている。武田にだって鉄砲はあったんだ。だが弾丸の数と材質。それに兵数がまるで違ったんだよ。

 おい、これ何の話だ?」


「武田も、高坂弾正(だんじょう)(昌信)を参戦させていれば〈弾〉の数も互角になっただろうという話だ」


「何だそれ。えらく馬鹿で大胆な新説だな」


「この説が、来年から歴史の教科書に載るぞ」


「馬鹿言うんじゃねえよ」


「良いじゃないか。どんなに馬鹿らしくても、説は説なんだ。信憑性(しんぴょうせい)はゼロでもな」


「あっそ。歴史の授業が面白くなるなら良いがな。

 で、だから何の話だよ?」


「信憑性の判定なんて、適当なんだ。だから松永久秀Bomber説も、いちいち否定するほどではないって話だ」


「ああ、そこに繋(つな)がるわけか。周りくどい」


「じじいの話は、得てしてそうだ」


「お前、俺より若くなかったか?」


「そうだっけ」


「年下には丁寧な口調なくせに、俺にはぞんざいなんだな。

 まあ良い。さて、茶を点(た)ててもらおうか」


「それが生憎(あいにく)と、茶釜がなくてな。あんた、持って来ていないか?」


「テッチンみたいで、人に媚(こ)びない佇(たたず)まいが絶妙な茶釜を持っていたが、俺と一緒に木っ端微塵(みじん)になったんだよ」


「まだ持ってるくせによ」


「お前がBomberとか言ったんじゃねえか」


「あんたは、爆死なんかするか とか言ったよ」


「平蜘蛛(ひらぐも)を まだ持っていたとしても、簡単には見せてやらんぞ。触らせるなんて、もってのほかだ」


「あっそう。別に良いけど。

 はい、お茶どうぞ」


「お前、これ……いとう園のペットボトルじゃねえかよ」


「だから、茶釜がないって言っただろう」


「そうか。しかし いとう園は、お前の茶より千倍は美味そうだな。いただくぞ」


「…どうだ、美味いか?」


「美味い。いつ どこで、誰がどんな気持ちで飲んでも美味い。品質が常に一定なのが素晴らしい」


「いずれ、茶人なんて要らない時代が来るんだ」


「武士も要らなくなる。だが、それでいいんだ」


「必要とされる人間の種類が変わるだけだからな。

 家康殿が幕府を作ってから、体育会系を重用しなくなったとか言われるが、そんなの当たり前のことだろう」


「ただ 本人たちが、ちょっと寂しかっただけだ。会社一筋に生きてきたお父さんが、定年後に昔語りしたくなるのと同じだ。

 まあ 現代では、定年後にのんびりするのさえ、贅沢(ぜいたく)になってしまったようだがな」


「あんたも、死ぬまで休まなかった」


「できるなら休みたかったぞ。

 武士は戦って死ぬのを望むものだなんて、戦を知らんやつの幻想だよ。戦は、そんな甘美なもんじゃない」


「本当は凄惨(せいさん)だったからこそ、甘美にしたくなるんだよ」


「ああ、そうかもな」


「だから松永久秀はBomberなんだ」


「話を盛りすぎな気がするがな。それに甘美でもない」


「どうやら、その逸話ができたのは、近代になってかららしい。日本の戦後社会に漂(ただよ)った鬱屈(うっくつ)が、そんな痛快な逸話を求めていたのではないかな」


「よく分からん」


「大切なものを敵に差し出して生きるより、それ諸共(もろとも) 爆死の道を選んだ、勇ましい男がいた。そう思いたい。つまり懐古(かいこ)主義に近いのではないかと思う」


「なるほどな。自分の本当の過去に、そんな体験はない。だから昔の知らん人間に、自身を投影してみるんだな」


「多くの人々は、松永久秀には なれなかったからな。その思いが、夢や創作を生んだんだ」


「それは、歴史に限ったことでもないな。小説・漫画・映画・ゲーム、どれも同じだ」


「せめて一冊の小説を読んでいる間くらいは、違う人生の主役になりたいんだよ。

 江戸時代に、能や歌舞伎、講談などが盛んだったのも、甘美な夢に酔いたい民衆の心を掴(つか)んだからだ」


「それで美化された人物は多いな。上杉謙信や真田幸村あたりが代表的だ」


「逆に、意図的にイメージを貶(おとし)められた人物もいる」


「それも俺のことか」


「そうだ。松永久秀(あんた)は、良くも悪くも、イメージをかなり操作されていると思う」


「主への反逆は、大罪だからな」


「幕府の下で秩序を保つためには、そう強く思わせる必要があった。家康殿だって、反逆して天下を取ったのにな」


「主が、身の安泰を保証してくれるとは限らない。ならば主を変えるのも、兵を挙げるのも、処世術の一種だったんだ」


「戦乱の時代にはな」


「戦乱が止んだ途端に、価値観がひっくり返ってしまった。ひっくり返す必要があったんだがな。

 それに上手く利用されたのが、俺であり荒木村重だった。反逆者のお手本として、反面教師にされてしまった。つくづく、歴史は勝者が綴(つづ)るものだと分かる。

 石田三成や石川数正も、長年 貶(おとし)められてきたしな」


「秀吉様も、そうなのかな?」


「お前がそれを言うとは思わなかった。秀吉はよく分からん。美化されている部分も、かなりあるだろうしな」


「そうだな。しかし、そういう対象にされる人物には、共通点がある」


「共通点…それは?」


「有能だってことだ」


「お褒め頂き、光栄だよ」


「周知の事実だろう。あんたは有能で、しかも使える男だった。だから信長様も、あんたを受け入れたし、一度 背(そむ)いても赦(ゆる)した」


「有能と使えるは、違うんだな」


「使えるっていうのは、能力ではなく、特定の一族や組織に顔が利くとか、特定の地域に詳しいとかいう意味だ」


「畿内には、三好家に仕えていた頃からの人脈があったからな」


「そういうことだ」


「有能だと、反面教師にされやすいのか」


「有能で、主に厚遇されていた人物ほど、裏切ったという事実に、インパクトがあるからな」


「しかし、厚遇なんて永久保障ではない」


「そんなことまで、後世に正しくは伝わらない。もしくは、伝えない、かな。

 だから、厚遇されていたのに 二度も裏切った松永久秀は、裏切りは愚劣(ぐれつ)極まりない行為だと浸透させるのに、うってつけだった」


「迷惑な話だ」


「しかし近年、評価は変わりつある」


「四百年以上の時を経て、やっとか」


「そんなの、珍しくもない。それに、嫌われ者の役目を、しっかり果たした功労者とも言える」


「徳川幕府のプロパガンダの、お役に立てたわけか」


「そういうことだ」


「まったく いつの時代も、権力者とメディアってやつは…」


「言いたい気持ちは分かるがな。しかし、裏切り者とされた松永久秀や、荒木村重が嫌われたということは、日本人に正常な価値観が浸透した証ではないか」


「荒木村重な。妻子を見捨てて逃げた男が嫌われ者なのは、家族愛が日本人の心に、しっかり根付いたということだろうな。

 逆に言えば俺たちの時代は、現代と比べれば、相当イカレていたんだよ」


「多分そうだな。逃げ果(おお)せた荒木村重は、茶人としては立派に名を遺しているからな」


「利休十哲にも数えられているよな」


「あれは、私が選んだわけではないが、そうだ。

 つまり当時は、妻子を見捨てた男でさえ、受け入れられていたということだ。文化人の感覚は、武士よりさらに常識外れなところもあったがな」


「ちなみに道糞(どうふん)という号も、創作の可能性が高い」


「そこまで徹底的に貶(おとし)めたわけか。じゃあ、明智光秀はどうだろうな?」


「あいつも分からない。やったことが強烈すぎて、下手に触れられなかったのかも知れない。

 もしも本能寺の変が、徳川家康との共謀だったとしたら…」


「それを否定するために、大々的な明智光秀叩きをしたかもな」


「面白いな」


「推測だって、忘れないでくれよ」


「説の信憑性なんて、適当だって言わなかったか?」


「言ったという説もある。 じゃあ、あいつはどうだ?」


「まだ いるのか?あいつって、どいつだ?」


「織田信雄(あいつ)だよ」


「ああ……織田信雄(あいつ)はな…」



松永久秀 後編に続く。

毎週月曜日の18:00に最新話を投稿します。

星で評価やブックマーク登録して頂けると、今後の創作の励みになります。よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。