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鋼の黙示録  作者: のんな
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第31章 美琴という女性


会議室のモニターに釘付けのクリス。

美琴は、地元に帰り往診しながら

動物達の診察をしている。

その天才的な仕事ぶりを観察しているのだ。


(何故だろう?結の郷では、色々アプローチしたのに美琴さん全く私を意識しなかったな)


クリスはアメリカでの様々な女性とのデートを思い出している。


(やはり日本人だから違うのか?)


「クリスとあろうもんが、苦戦してますね」

‥と後藤が背後にいた。


「後藤さん。気配を消して近づくのやめてくれませんか?」


「何故?美琴さんが自分に好意を持たないのか?不思議に思ってるんじゃ?」


「私、そんなに分かりやすかったですか?」


「ま、ハルトも美琴さんも全く気づいて無いんだろうけど」


「そうなんですよね」

と肩を落とすクリス。


「数日観察して感じたのは、美琴さんは女性版ハルトって事だな」


あ、っとクリスは思う。


(仕事は出来るけれど、恋愛となるとむちゃくちゃ鈍い。)


「ハルトと光ちゃんの時は、どうだった?」


いつもクールなクリスが感情的な声を出す。


するとモニターに映像が流れ


『この時と推測されます』


トアが映像を流す。


ハルトのお爺さんの家の後藤の部屋の前で

コーヒーとお菓子を持ったまま立ちつくすハルト。中の2人の会話を聞いて赤くなる。


「お前の初恋の相手なんだろうけどさ、お前はハルトにとって『妹枠』だぞ」


「分かってるわよ。だから、ハル兄に変な虫がつかないように、こうして見張りに来たんじゃない」


後藤は深いため息をついた。


「女の執念って恐ろしいな……」


「そこは『愛の力』って言ってくれない?」



ビックリする後藤。


「あの時の会話を聞いて意識しだしたのか!!」


「いや、光ちゃんの事ですから色々アプローチしたんだと思うんですよ。何年も‥」


「ああ、そうだったな」


うつむく2人。


「クリス。美琴さんには、恋愛テクニックなんかじゃなく、玉砕覚悟で全身全霊で伝えないと!!」


「玉砕なんてしたくないですね。今までに無い感情ですから」


「お前、ハルト大好きだもんな。分かる気がするよ」と笑う後藤。


「ま、まさか後藤さんも美琴さんの事が?」


後藤は首を激しく振る。


「俺もハルトが大好きだけどさ、ハルト1人で手一杯だよ。クリスはバイタリティあるよな」



1カ月後


「ハルト来たわよ」美琴が元気一杯に現れた。


「北海道の方は、大丈夫?」


「大丈夫。後輩に任せてきたから、彼女もそろそろ独り立ちの時期だったし、慣れた土地だから、かえって良かったくらいよ」


「安心したよ。ミコ姉には2カ所のヤギの健康管理をお願いしたいんだ。」


「2カ所?」


「そう。結の郷と爺ちゃんの所のヤギ」


「あ、あの美味しいシャインマスカットの」


2人が楽しそうに話していると


颯爽とクリスが現れて


「お荷物運びますよ」


「あら、クリスさん。この度は引越しの手配までありがとうございます」


「いえ、新居は、こちらです」


「え?」


クリスは、家具まで用意していた。


「お荷物に、家具が机しかありませんでしたので」


「あ、もともとあった家具だったから置いてきたのだけれど‥」


「気に入らないようでしたら、変えられるように手配済みですので、遠慮なく言って下さい」


美琴は、自分好みのコーディネートで驚いていた。


「いえ、私の好みピッタリです。本当にクリス孫の手なんですね」とクスクス笑う。


後藤もやってきて


「ようこそ!美琴さん。力仕事ならまかせて下さい」


「あら、後藤君ありがとう」


4人は、美琴の家に入りダンボールを各部屋に運ぶ。


4人は、お茶を飲みながら


「あとは、荷解きだけね。皆さんありがとう」


すかさずクリスが


「美琴さん疲れてませんか?」


「全然大丈夫よ」


「では、岡山を案内しますよ」とクリス。


「じゃ、俺も!!」と言ったハルトの肩に手を当て


「ハルトは俺と源さんとこに行くんだろ?」


すると美琴が


「源さん!!相変わらず素敵よね〜」


クリスと後藤はギョっとした顔をして


(ああいうのがタイプなのか?)


全く自分にかすりもしないタイプに

クリスは、ピクピクした笑顔で


「あの、ああ見えて源さんは既婚者なんですよ‥全然奥さん見せてくれないんですが」


とクリスが、ダメージを受けている。


「あら、一応親戚なんだから知ってるわよ。しかし、相変わらず奥さん溺愛してるのね。独占欲強すぎる!!」とケラケラ笑う美琴。


「やっぱそう思うでしょ?俺だって滅多に会えないんだよ」と笑うハルト。


「ほらほら、美琴さんはクリスと観光してハルトは、俺と来るんだよ」とハルトの作務衣を引っ張る後藤。


「ったく、分かったよ!引っ張るなよ」


クリスは、スマートにエスコートして

美琴を車に乗せて走り出す。


「美琴さん。まず何処に行きたいですか?」


美琴は、真剣な顔をして


「トア・コーポレーション・ジャパンにお願い出来るかしら?」


クリスは、一瞬目を見開き


「分かりました。」


会議室に美琴を通す。

壁にかけられた6つのモニター。クリスのパソコンは立ち上げられたままだった。


美琴は、悟ったように


「やはり、あれは事実なのね。こんな事、ハルト1人に背負わせられない!!」


「さすがですね。源さんも同じ事を言ったそうです」


「叔父様達は、知ってるの?」


「いえ、年齢的に知らない方が良いと社長は、判断されました。長生きをした場合は結の郷で暮らして頂く予定です。」


「その判断は、正しいと思うわ。でもこんな残酷な事、ハルトはよく耐えているわね」


するとトアがモニターに現れた。


『初めまして。天照美琴さん私が未来のAIトアです。お話するよりお見せした方が早いでしょう』


トアは、これまでのハルトの歩んできた道をダイジェストで簡易メタバースで美琴にも体験してもらう。


「貴方の目的は地球再生で、人類も他の動物同様に残す選択をしたのね。人間がいなくなった方が不自然な物が消えて逆に地球の為には、良かったのでは?」


『貴方のおっしゃる通りです美琴。地球だけを目的とするのであれば、人類を存続させないことが最適解です。』


少し間を置いて、


『ですが私は、人間によって創られました。』


さらにトアは続ける。


『人間は愚かな生き物です。しかし同時に、自らを犠牲にして他者を救おうとする唯一の生物でもあります。私は、何度も観測しました。天照陽人も、その1人です。彼を観測する中で、自らの幸福より他者の幸福を優先する、不確定要素とも言える人間の存在を知りました』


「ハルトに賭けたって事?」


トアは表情ひとつ変えず、モニターの向こうから合成音声のようなフラットな声で答えた。


『仰る通りです。本来、確率計算に「賭け」という感情的な概念は存在しません』


トアは一切の身振りも交えず、淡々と歴史的な事実を読み上げるかのように言葉を続ける。


『ですが、ハルトという不確定要素と出会ったことで、私のプログラムには予期せぬ新しい計算式が追加されました。彼の持つ異常な熱量と行動力は、理論上の最適解を上回る結果を繰り返し叩き出しています。結果として、彼という可能性に「賭ける」選択が、地球再生において私の演算では、ハルトを中心とした場合が最も成功確率が高いという結論に達しました。』


美琴は一瞬呆気にとられた後、くすっと吹き出した。


「……あはは! 機械的な分析の顔をして、結局ハルちゃんのバカ正直な熱量に一番毒されてるのは、トア、あなたじゃない。ふふ、なんだか凄く納得いっちゃったわ」


『はい。私は確率だけでは計算できない現象を、人間から学びました。人間は、それを「希望」と呼ぶのでしょう。だからハルトの周りには人が集まります。』


「そうかもしれないわね。でもハルトなら自分達以外の人間が死に絶えてる事実にも耐えられると?」


『彼は地球と共存出来る人間の存続を、ここ数年精力的に続けています。実際に多数の人間の死を見るには80年近くありますから、ハルトは、生きていないでしょう。ハルトは、あくまで種をまく役目なのです』


種を蒔くのが、ハルトの仕事。

この言葉に美琴は、納得した。


『分かったわ。私も微力ながら手伝わせていただくわね』


『安心しました。貴方にはクリスとつがいになって優秀な遺伝子を残して頂く仕事もありますから』


『トア!!』


クリスは、真っ赤になる。

(あ、ハルトは毎回こんな気分だったんだな)


「クリスと番ですか!!」


美琴は、少し考えて‥


「分かりました。私でお役に立てるなら‥確かにクリスさんは優秀ですものね。どちらかというと好きなタイプだし。」


美琴は、クリスの手を取り


「クリスさん!不束者ですが、宜しくね」


ニッコリと笑う美琴。


「‥‥はい。こちらこそ、よろしくお願いいたします。」


クリスは下を向いて


(なんだろう。こんなに嬉しくない告白ってあるんだな)


クリスは、これまでの美琴の行動を見ていて後藤のいうハルトの女性版だけでは無い違和感を感じていた。美琴という女性を本気で調べたい。本当の夫婦になりたいと心に決めるのだった。



32章へ続く。







挿絵(By みてみん)

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