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鋼の黙示録  作者: のんな
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第30章 燃える心


鈴木さん歓迎会から数日後。


「え? アレ本気だったんですか!?」 


クリスが叫んでいる。 


「当然じゃ!!」


ハルトが慌てて近づいてくる。


「どうしたの?」


「源さん、本当に塔を建てるそうです……」


「五重塔? イイんじゃない、目玉になって!」


クリスはやれやれという顔をして、


「まだ源さんには建ててほしい工房があるんですよ? 塔なんて建ててたら、開園がますます先送りになりますよ!」


塔の話で盛り上がり、ハルトと源さんの2人は興奮している。


「三重の塔じゃぜ! 結城紬は工程があるんじゃから、下から順番に紹介すればイイんじゃないか?」


「あ! ナイスアイデアだね!」


(血筋か? 人の話を聞いてないし……)と呆れるクリス。


「心配するなって! 俺の本気パワーで一年で建ててみせるで!!」


「一年ですか……まぁ、いいでしょう。では社長、次の案件がありますから行きますよ」


「クリス、最近トアに似てきてないか?」


「!!」


クリスは何も言わず、飼育小屋に向かう。


そこには、暗い顔をした後藤がいた。


「で、何か問題でもあるのか?」


「ヤギの様子が変なんだ。動かなくて……」


「え? 獣医に見せたのか?」


ハルトは震える声で尋ねた。


「はい。原因が分からず、とりあえず隔離しています」


「正しい判断だと思うよ。他のヤギに同じ症状は出てる?」


「今のところは一頭だけです」


ハルトはスマホを取り出し、廊下に出る。


「あ、ミコ姉!! ヤギが大変なんだ。来られる? ……うん。分かった! ありがとう!」


そして次の日、岡山駅。


「ハルト!! 久しぶり!!」


長身のキリッとした女性が近づいてくる。クリスはなぜか胸がドキッとする。


「ありがとう、ミコ姉!! あ、こちら秘書をしてくれてるクリス」


「初めまして。トア・コーポレーション・ジャパンで社長秘書をさせていただいている、クリス塚野と申します」


「初めまして! 私はハルトの従姉妹で、天照美琴です」


「獣医でらっしゃるんですね」


するとハルトは、


「凄腕のね」と誇らしげな顔をする。


そして3人は飼育小屋に向かい——


「で、歩かない症状が出たのはいつ? エサは何を食べさせたの?」


「昨日かららしいんだ。新しく桑畑を作る場所に放牧して、雑草を食べさせてたんだよ」


美琴はヤギに聴診器をあてる。


「ちょっと、その場所に行きましょう」


美琴は桑畑予定地の雑草を見て回る。


「やっぱりあった」


そう言って、クローバーを摘む。


再び飼育小屋に行くと、美琴はカバンから薬を取り出し、


「よしよし、辛かったね〜」と言いながらヤギの口の中に入れる。


30分ほどすると、ヤギはゲップをし始めた。次第に腫れていたお腹がしぼみ、元気が出てくる。


「これは『急性鼓腸症』ね。マメ科の青草……クローバーなんかをたくさん食べたことで、第1胃の中で異常発酵が起きてお腹がパンパンになる病気よ。初期で良かったわ」


クリスは美琴を見て呆然と見とれている。


「他のヤギたちも診てみましょう」


クリスの前を颯爽と通り過ぎようとした瞬間、クリスは思わず美琴の腕をつかむ。


「あら、クリスさんも苦しいの?」


クリスは顔を真っ赤にして、


「胸のあたりが……」


「大丈夫? 病院に行った方が良くない?」


「大丈夫です。私は用事がありますので」

……と、クリスは部屋を出て行った。


「あの人、大丈夫かしら?」


「大丈夫だよ。クリスは優秀だから」


ハルトと美琴は他のヤギの様子を見て、他のお腹の腫れてたヤギ達にも薬を飲ませた。


その日、美琴は鈴木さん一家が帰宅した後の集会所に泊まった。


次の日。


「ミコ姉!! ヤギ達はみんな元気だよ。言われた通り、半日は絶食させるからね」


「そう、良かったわ。しっかり胃を休ませてね」


何となく元気の無い美琴。


「ミコ姉がずっとここにいてくれたら安心なんだけどな」


美琴は少し考えてから、


「私で良ければ、この郷のお役に立ちたいわ」


驚くハルト。


「あ、ちょっと用事があるからまた来るね!」


ハルトは走って事務所に向かう。


「トア!! ミコ姉をここに住まわせて大丈夫?」


『はい。昨日クリスから要望があり天照美琴を調べました。結の郷にとって有益な人物と認定しています』


「もしかして夢で未来を見せたの?」


『はい』


「そうか!クリスはヤギ達のためにミコ姉を調べてくれたんだね」


『理由は私には分かりません』


「で、クリスは?」


『出かけていますね』


ハルトは急いで集会所に戻る。


「ミコ姉、ぜひ結の郷に来て下さい!」


「分かったわ。いつ頃来れば良いかしら?」


するとクリスが息を切らせながら走ってきて、


「準備致しましたので、支度ができ次第住んでいただけます!」


「え? クリス、まだ家が建ってないでしょ?」


「実験ハウスにインフラを通しますから大丈夫です」


「いつもに増して仕事早くない!?」


「市内で病院を開業されるようでしたら、店舗も押さえてありますので安心して移住されてください」


美琴は笑いながら、


「本当に優秀な秘書さんね」


「そうなんだ!! 痒い所に手が届く孫の手みたいなんだよ、クリスって」


美琴はクスクス笑いながら、


「『クリス孫の手』。なかなか語呂がイイわね」


後から来た後藤は悟ったのだった。

クリスが本気で美琴にロックオンしたことを……。


(やっぱハルトだな〜。まったく気づいてないもんな。まてよ……美琴さんとクリスが結婚したら、俺達全員親戚になるのか。それも悪くないかもしれないな)


後藤は、夏も近づく春の爽やかな空を見上げたのだった。


(31章に続く)


挿絵(By みてみん)

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