第11章 希望の村 本格始動!
「百合子さん。台所の蛍光灯、取り替えましたよ」
「あら、後藤君ありがとうねぇ〜」
岡山に来てかれこれ3日が過ぎた。
後藤は、ハルトの祖父母からの人気が爆上がり中だ。
岡山に着いた日のことを思い出す。
「婆ちゃん。親友の後藤を連れて来たよ」
「1ヶ月お世話になります!」
後藤は信州名物の蕎麦やおやきのお土産を、手渡した。
『あらあらご丁寧にありがとうねぇ』
それからというもの、後藤は婆ちゃんのいなり寿司や麦茶に感激して
「ハルトから聞いていてずっと食べてみたかったんですけど、本当に絶品ですね〜!」
と祖母の手料理を大絶賛。祖父の作ったシャインマスカットを食べては
「わ〜!! こんな美味しい葡萄、生まれて初めて食べました!」
とパクパク食べながら大騒ぎし
「あ、洗い物は俺がします! 慣れてますから!」
とフットワークよく動き、祖父のぶどう畑の収穫も手際良く手伝っている。最近では、昼ごはんの仕度まで手伝う始末だ。
その恐るべきコミュニケーション力の高さに、ハルトはただただ圧倒されていた。
「後藤、大丈夫か? 無理してないか?」
ちょっと心配になってハルトが声をかける。
「いや、毎日めちゃくちゃ楽しいよ。百合子さんの手料理は美味しいし、伯母さんの部屋を俺用の部屋にしてくれてさ。まるで本当の田舎の婆ちゃんちにいるみたいだ」
「ならイイんだけど‥‥」
俺達が爺ちゃんの収穫を手伝っている間にも、トア村の予定地では、いよいよ既存の建物の解体が始まった。
源さんや後藤とも話し合った結果、井戸掘り職人・鉄加工職人・漆職人・瓦職人・陶芸家・炭焼き職人・ガラス職人・醤油・味噌・酒・チーズ職人など、全国から一流のプロフェッショナルを探して移住してもらう計画が進んでいる。
「エコ ➕ 日本の伝統技術の村」――それが俺たちのトア村のコンセプトだ。
そして今、一番激しく話し合っているのは、源さんの建てる家のすべてに、景観を損なうことなく自然な素材でソーラーパネルを作れないか、という問題だった。てんとう虫の向こうのトアも含めて、議論は白熱していく。
「トア、自然な材料だけで、ソーラーパネルや蓄電池を作るって可能なの?」
ハルトの問いに、てんとう虫の瞳が静かに明滅する。
『現代の地球の技術では実用化されていません。しかし私の持つ分子レベルで最適化された天然高分子の設計データと、この村の職人たちの技術があれば話は別です。』
「本当に出来るのか?」ハルトは興奮していた。
『33年後からの55年間で、「木と、草の汁と、土のミネラルだけでできた、役目を終えれば完全に土の栄養になるソーラーパネル」をゼロから開発・量産しましょう。これなら88年目が来ても、私は破壊しません』
少し間を置いて、トアが解説を続ける。
『ただし、最大の難敵は「配線(金属)」と「寿命」です。電気を流すための金属配線やレアメタルをどうするかが最大の壁となります。さらに、水や湿気で簡単に自滅(分解)してしまうため、コーティング技術が必須です』
「銅とか銀とかの鉱物は使えないの?」
『銅と銀は地球の構成元素であり、適切な量であれば生態系を破壊しません。むしろ電気伝導率は銀が世界1位、銅が2位です。これらを配線に使いましょう』
「だったらさ、いっそのこと『硬貨』を使えないかな?」
それまで腕を組んで聞いていた後藤が、ポンと手を叩いた。
「1円玉は100%アルミだし、10円玉は、ほとんど銅だろ? 手に入りやすいし、タンス預金してる人って意外と多いんだよ。でも、今の時代って銀行に大量の小銭を持っていくと、逆にものすごい両替手数料を取られて大損するから、みんな家で眠らせたまま困ってるはずなんだ」
「それだ……!」ハルトは少し興奮して身を乗り出した。
「それならトア村で『地球に優しい次世代ソーラーパネルの研究に必要なので、材料として硬貨を募集します!』って大義名分を掲げて、お札と硬貨の両替を【手数料無料】で受け付けたらどうかな? もちろん、わざわざ村まで来てくれた人のために、特製のプレゼント付きで!」
源もすかさず意見を言い出した。
「職人達が手がけた品が、いいだろうな。宣伝にもなるし。集まった現代人へ、職人たちの本物の技をプレゼントするんだ。彼らはそれを自宅へ持ち帰り、家族や友人に自慢するはず。『トア村という凄い場所がある』って。それって、33年後の未来にこの村へ迎え入れるべき、善性の高い人間を引き寄せる最高の宣伝になるんじゃないか?」
源の言葉に、トアの複眼が青く輝いた。
『……良い戦略です、ハルト。現代の金融システムの盲点を突きつつ、未来のインフラ素材を合法的に集積できます。さらに、エコ開発という大義名分を掲げたことで、集まる人間の利他性アベレージもハネ上がるでしょう。
その両替システムで集めた硬貨を芯とし、さらに科学的なアプローチを加えます。炭焼き職人が作る良質な木炭を微細加工し、天然由来の炭素微粒子として利用します。これにより極めて高い光吸収率を持つ「漆黒」が実現し、発電効率が最大化します。
仕上げに、漆職人の「黒漆」を表面に何層も塗り重ねるのです。漆は天然の超高分子であり、高い防水性・絶縁性・耐久性を備えています。これを瓦職人の手で和瓦と一体化させれば、源さんの建てる和風建築の美しさを一切損なわない、世界一美しい【漆黒の瓦型バイオソーラーパネル】が完成します』
「なるほど……! 蓄電はどうするんだ? 」
『炭とお酒の発酵技術を使えば、役目を終えたらそのまま畑の肥料になる『バイオ炭素電池』ができます。さらに、昼間の電気で重い備前焼の大甕や石を高い所へ引き上げ、夜間にその重みで発電機を回す、源さん得意の木組みを使った『重力蓄電タワー』を建てれば完璧です』
「でもさ、33年後から88年後までって住人しかいないんだろ? だったら景観って関係なくなるんじゃない?」
『……ハルト。現代において、私たちのハイテク技術を剥き出しにすることは、不要な警戒や妨害を招くリスクがあります。
ですから、今すぐ職人たちの技で「黒漆の和瓦」に偽装した初期型パネルを量産しましょう。これなら現代社会の目を欺きつつ、33年後の崩壊の瞬間には、すでに完璧に自給自足ができる【隠されたハイテク要塞村】が完成しています』
ハルトはガタッと椅子を鳴らして立ち上がり、拳を握りしめた。
「カラクリ屋敷みたいで、最高だな!!外見は100年前の美しい日本の田舎町。だけど中身は、昔ながらの当たり前な物でハイテク仕様なんて男の浪漫を感じるよ」
「忍者のコスプレでもするか!!」
と後藤の目がキラキラしている。
「ヤダ」
ハルトが即答すると
3人は顔を見合わせて爆笑した。
とりあえず職人探しが課題で残っているが
てんとう虫達が、きっと探してくれるだろう。そして、小さな羽ばたきは、静かに未来への希望を運んでいく。
12章に続く。




