第10章 ラスト・フロンティア
源と約束を交わした翌日、ハルトはトア村の候補地である新見市のカルスト台地へ向かった。
目的は、山付きの土地を購入することだった。
トアの調査によると、この山の地下には広大な鍾乳洞が眠っているという。
鍾乳洞は一年を通して温度がほぼ一定に保たれるため、食糧の貯蔵庫や発酵食品を作る研究施設として利用する予定だった。
33年後には、日本中が、自由に活用できるようになる。新見市には観光地として有名な満奇洞もある。
将来的には満奇洞も、チーズや干し肉、発酵調味料などを製造する施設として利用する計画だ。
現地を視察した後、不動産会社と契約を結び、その土地はトア・コーポレーション・ジャパン名義となった。
残念ながら標高1000メートル級の山ではなかったが、それは33年後になってから探せばいい。
大学を卒業するまでは、祖父の山で実験を重ねれば十分だった。
源と一緒に現地を見て回る。
「……で、この山をどれくらい掘れば鍾乳洞が見つかるんだ?」
すると、てんとう虫から声がした。
「約50メートル先に広い鍾乳洞が広がっています」
「どうやって掘ればいいんだろ?」
ハルトが首をかしげると、トアが答えた。
「マイケルが手配するそうです」
「え?」
「10月に掘削チームを送るとのことです」
アメリカの掘削チームは、日本だけでなく、仲間たちの国にも重機と共に派遣される予定らしい。
(やっぱりマイケルは凄い……。)
先の先まで見据えて準備を進めている。
トア村建設。
掘削チームが到着するまでに、更地にしておかなければならない。
その作業は、源の知り合いに頼むことになった。
ここまで計画を進められたのは、多くの人が力を貸してくれたからだ。
ハルトは一度、期末試験を受けるため信州へ戻ることにした。
少し出遅れてしまったものの、幸い今回の渡米は、マイケルが大学へ正式に共同研究として申請してくれていたお陰で、期末試験は追試と研究レポートの提出で認められることになった。
祖父母と源に再会を約束し、ハルトは岡山を後にした。
大学へ戻ると、追試を受け、共同研究のレポートを提出して無事に単位を取得し、そのまま夏休みに入った。
ハルトは、後藤を自分の部屋へ呼んだ。
「これ、お土産」
後藤にはNASAのTシャツとGoogleの文房具を手渡した。
「おっ! すげぇ! ありがとう!」
後藤は嬉しそうにTシャツの袋を開けている。
「俺の分までヤギの世話させて悪かったな」
「水臭いこと言うなよ」
少し間を置いて、ハルトは真剣な表情になる。
「後藤にお願いがあるんだけど」
「ん? 何だ? 金なら無いぞ」
「俺のパートナーになって欲しいんだ!」
「え?」
後藤は固まった。
「だから、俺のパートナーになって欲しいんだよ」
しばらく沈黙が流れる。
やがて後藤は顔を青くしながら口を開いた。
「は、ハルトの気持ちは嬉しいんだが……か、彼女はいないけど、お、俺の恋愛対象は女性なんだ」
しどろもどろになる後藤。
ハルトも一瞬固まり、慌てて手を振った。
「ち、違うよ! ビジネスパートナーだよ! 俺だって彼女はいないけど、女性が好きだよ!」
「そ、そっちかぁ!」
後藤は大きく息を吐き、その場にへたり込み
2人共、変な疲労感を感じていた。
「あのさ‥」
ハルトは、これまでの経緯を後藤に話した。
そして簡易メタバースを使い、自分が体験した出来事をそのまま後藤にも見てもらう。
「こ、これが未来なのか?世界中でこうなるのか?」後藤の目から涙がこぼれ落ちた。
「ああ。トアの目的は地球の再生だ。俺たち人間にも最後のチャンスをくれたんだ」
ハルトは一度言葉を切り、静かに続けた。
「だけど、33年後には温暖化で日本の夏は40度になる。そして88年後にはインフラが止まる。だから俺たちは、夏の間は山岳地で暮らせるよう準備しているんだ」
「だからアメリカへ行ってたのか……。で、俺は何をすればいい?」
「山岳地で、一緒にヤギを育てながら農業をやってほしい。後藤がいてくれたら、本当に心強いんだ」
「両親には伝えたのか?」
「いや。33年後に人類が家畜化されることも、88年後にインフラが止まることも知らせない。もし長生きしたら、その時はトア村へ来てもらうつもりだ」
後藤は静かにうなずいた。
「そうか……。知らない方がいいこともあるかもしれないな」
少し考えた後、後藤が口を開く。
「ハルト。俺には4つ離れた妹がいるんだ。あいつも仲間にしていいか?」
ハルトは笑顔で答えた。
「ああ。トアも歓迎するって言ってたよ」
後藤なら、きっと妹のことを最初に相談してくる。そう思って前もってトアに確認しておいて良かった。
ハルトは、窓から見える雲を見ながらそう思った。
こうして後藤も新たな仲間となり、二人は夏休みの間、岡山で暮らす事になった。
第11章へ続く。




