Act3 教頭へのデバッグ
挽きたてのコーヒーの匂いが漂う特別演算室。薫が優雅にゆっくりとカップにコーヒーを注いでいる。
「……。……見つけた。教頭の『隠し場所』が分かったぞ」
航聖の瞳に、三枚のモニターから放たれる青白いログが反射する。
教頭は、学園の修繕費や備品購入を業者に頼んで水増し請求し、その差額を加納家本家の目が届かない「海外のギャンブルサイト」の預金口座へ流用していた。
「凄いな……瑞穂学園をどうやら自分の財布代わりだと思っているらしい……加納家という暴力的な看板を背負いながら、その威光を盗んでいる。救いようのないロジックの破綻者だ」
薫は淹れたてのコーヒーを航聖のデスクに置いた。
「……教頭を直接、加納本家に告発はしない……それよりも研斗のPCの中に、教頭の横領を詳細に記した『本家への極府告発レポート』の雛型を……僕が勝手に作成して保存した」
「……へえ、これを教頭にわざと『気付かせる』のね?」
「……ああ。……研斗のPCが学園のWi-Fiに繋がった瞬間、教頭のスマホに『佐藤 研斗が貴方の海外口座にアクセスしました』という偽のセキュリティ情報を飛ばす。……勿論だが、送信元は研斗の端末を装ってだがね」
「それじゃあ私は、佐藤君を『労う』ことにするわ」
「……ヒメ、君の『労い』は、僕の嫌がらせよりも残酷だな」
航聖の口角が僅かに上がる。薫がメッセージを打ち始めた。
『佐藤 研斗君へ。……玉木 航聖は相当な食わせ物よ。……不気味だけど、貴方が外でしっかり網を張ってくれていると思うと、私は力強いわ。彼に悟られないように、私を陰ながら支えてね。 姫神 薫』
場面は変わって図書室。研斗が、薫からの「労い」のメッセージに鼻の下を伸ばしていると、突如として顔を真っ赤にした教頭が乱入してきた。
「佐藤っ!貴様は、私の領域を覗いたなっ!!」
「ひっ、きょ、教頭先生⁉一体何のことですか!」
図書室の防犯カメラがとらえる、醜い大人の怒号。教頭は、研斗が自分の横領をネタに本家でのし上がろうとしていると思い込み、研斗のノートPCを強引に奪い取ろうとする。
「……よし、狙い通りだ。教頭は自分の罪がバレるのを恐れて研斗を黙らせようし、研斗は身に覚えのない罪に震える。……加納家の『盾』同士が、互いを勝手に削り合っていく」
航聖はコーヒーを含み、冷徹にモニターを切り替えた。
薫は混乱の極致にいる研斗へさらに一通のメッセージを送る。
『研斗君。教頭が変な動きをしているわね、でも、貴方が正しいと信じているわ。負けないでね』
そのメッセージを見た研斗の目に、絶望から一転、狂信的な光が宿った。「やはり教頭は裏切り者なんだ。僕は薫様の為に、この男を排除しなければいけないんだっ!」
「……ヒメ……君って本当に……」
航聖が呆れる。
「あら、貴方の仕掛けた罠の方がずっと刺激的だわ」
二人は、画面の中で教頭と研斗が言い争いを始める光景を眺めながら、コーヒーを楽しんでいた。
自分で書いてて怖すぎる。




