Act2 情報の検閲
特別演算室。コーヒーメーカーが音を立て、挽きたての豆の香りが冷えた空気に溶け込んでいく。
攻勢は三枚のモニターを睨み、研斗のノートPCから発せられる無線信号を、目に見える「流れ」として可視化していた。
「……面白い。研斗は今、僕とヒメが密会していると加納家に密告しようとしてるな」
航聖の指先が、ピアノの旋律を奏でるように流麗に動く。研斗が接続している『MIZUHO-STUDENT』。そのWi-Fiのゲートウェイを、航聖は演算室のワークステーションへと強制迂回させていた。
「……研斗のPCから出たデータは、加納家のサーバ―へ行く前に、全てこのマシンを通過するようになっている。やつの画面には『送信完了』の文字は出るが、実際にはこのローカルサーバーに閉じ込めているだけだ」
モニターには、研斗が打った「緊急報告:玉木 航聖が姫神 薫と不審な接触あり」というテキストが表示されている。航聖は無機質な笑みを浮かべ、そのテキストをドラッグ&ドロップでゴミ箱へ放り込んだ。
「さて……代わりに、このダミーを本家にプレゼントしておこう。……『玉木 航聖は私の監視下で、黙々とくだらない計算に従事しています。異常はありません』……でいいか」
薫は入れたてのブラックを航聖のデスクに置き、モニターの中の「書き換えられた真実」を満足げに眺める。
「フフ、いいわね。加納本家は研斗の『優秀な報告』を信じて、ますます彼を信頼するわ……いざって時に研斗は、なぜ助けが来ないのかと絶望の中で孤独を深めていくのね……」
薫は、傍のカウチに静かに座った。
学園中には加納家の息のかかった人物が潜んでいるのだが、この部屋は二人だけの「聖域」だ。薫という盾がある限り、オブザーバーやその取り巻きたちが物理的に航聖の指を止めることは出来ない。
「……さあ、航聖。……研斗が『送信』ボタンを押す度に、彼の破滅が本家で『賞賛』として積みあがっていくわ。……この皮肉な演算をもっと煮詰めていきましょう」
「ああ、勿論だ。……彼のSOSを全て、『加納家への忠誠』に書き換えてやる。……それが僕の言うデバッグだ」
航聖はコーヒーを一口啜り、再び指を走らせた。
図書室で「よし、これで航聖は終わりだな」と勝ち誇った顔で画面を閉じる研斗。
その頭上を、目に見えない情報の糸が、航聖の指先へと一本残らず吸い込まれていくのだった。
PCの横にコーヒーカップを常時置いています。カフェイン中毒?




