お昼寝の誘惑
麦刈の月になってそろそろ夏本番。気温がぐんぐん高くなってきたけれど、ここは森の中だから街中と比べて過ごしやすい環境だ。
麦刈の月は文字どおり農家さんが麦を刈る時期。夏の日差しを浴びながら大切に育てた麦を刈り入れたり乾燥させたり……。大変だけれどさぼれない大切な作業ばかり。
そうして収穫して製粉した小麦粉がたくさんの人々の生きる糧となり、麦藁も色んな方法で利用されるのだ。改めて農家さんに感謝しよう。
「ふぅ……」
花壇の手入れで汗をかいた私は、今しがた軽くシャワーを浴びて着替えをしているところだ。
去年の今頃と比べて身長も高くなったし、体つきも少しは女性っぽくなってきたと思う。今の私の体型にあった服や下着の選び方をアドバイスしてくれるルナリア様に感謝だ。
……そういえば。
前にテオ様は自分の下着を私が洗っていることが気掛かりみたいだったけれど、テオ様は私の下着を洗う時はどう思っているんだろう?
「……まぁ、テオ様だしなぁ」
テオ様のことだから深くは考えていなさそう。
私の下着や服のサイズが変わっていることに気付いても「シアが成長してくれて嬉しいなぁ」と保護者目線で喜んでいるんじゃないかな。そう思うとちょっと悔しい。
「ふぅ……」
シャワーの後だから体が火照ってちょっと暑い。ワンピースの襟元をぱたぱたと煽って内側の熱を逃がしながら廊下を歩く。
この家は石レンガ造りだから外よりも涼しいし、その上にテオ様の魔術で適度な空調が効いている。本当に快適な住環境だ。
水を飲むためにキッチンへと入ると、そこから見えるリビングでテオ様が顎を擦りながら考え事をしていた。
今日のテオ様も白シャツと黒ズボンで相変わらずなカラーリングだけれど、さすがにシャツは涼しそうな麻製の半袖だ。
私の視線に気付いたテオ様は何やら企み顔へと変わったけれど、この様子では悪企みではないみたい。
「シア、ここに夏用のラグを敷こう。ひんやりして気持ちいい奴なんてどうだ? 昼寝が捗るぞ」
「ええっ?」
これまた突然の提案だ。
ひんやり気持ちよくて昼寝が捗る夏用のラグ? 去年の夏はそんな物はなかった。
「それは構いませんけれど……。そもそもこの家にそんなラグがあるんですか?」
「ない」
あっさりと否定したテオ様に私はつい苦笑してしまう。
「思いつきで行動するのはテオ様の悪い癖ですよ……」
「だからこうして事前に相談をしているじゃないか」
「私が『嫌だ』って答えていたら、どうしていましたか?」
「シアの気を変えようと、夏用ラグの利点と昼寝のよさをあれこれ熱弁していたな」
「まったく、もう」
苦笑する私にテオ様は楽しそうに笑っている。全然懲りていない。
「シア、これから暇か?」
「暇ですけど……、『それじゃあラグを買いに行こう』とか言われそうな予感しかしないんですが」
テオ様に怪訝な目を向けると、何故か楽しげなテオ様は腰に手を当てて偉そうに胸を張った。
「ラグを買うんじゃなくて、作るんだ」
「……作る?」
えっ? ラグって素人が簡単に作れるものだっけ?
私が想像するラグって職人さんが織ったりして作る感じなんだけれど……。
実はテオ様は機織り職人でもある、なーんてことはないだろうから——……、つまり。
「魔術具として作るんですか?」
「正解だ」
私が導き出した答えにテオ様は満足そうに笑って頷いた。
「おいで、シア」
テオ様に連れられて魔術工房へと入る。工房は勝手に入っちゃいけない場所だから、こうして招き入れられるとちょっと嬉しい。
入った直後の工房内は少し熱気がこもっていたけれど、テオ様が魔力をちょちょいと操って室温をいい塩梅に調整してくれた。
「魔術師が魔力を使って作った物のことを魔術具という。逆を言えば、魔力を使って作ればどんなものでも魔術具と呼べるんだよ。とはいえ、さすがに命が宿った存在は魔術具とは呼ばずに魔術生物だ。そこはちゃんと分けないとな」
自然な流れで魔術具についての授業が始まった。
私はテオ様の話をフムフムと聞きながら興味本位で工房の中を観察する。
床に描かれた魔術陣。色んな種類の瓶や道具が収められた戸棚。専門書と資料が収められた本棚。壁には乾燥した薬草が掛かっている。
テオ様が軽く右手を置いている机の上には筆ペンやインクボトルなどの筆記用具と卓上ランプ、それとテオ様お手製の飴玉が入った小瓶があった。作業の合間に舐めているみたい。
「テオ様、飴を一粒貰ってもいいですか?」
「ん? ほら」
飴の瓶を手に取ったテオ様は蓋を開けると、飴を一粒摘まんで私の口元に差し出してきた。……これはいわゆる「あーん」の構図だ。
私は一瞬固まってしまったけれど、そのままパクッと飴を口に入れた。
勢いで少しだけ唇にテオ様の指先が触れてしまったけれど、テオ様はまったく気にしていない。
「……もうっ! テオ様は本っ当に女心がわかってないっ!」
「えぇっ? なんで今のでそうなるんだ?」
テオ様は心底不思議そうにキョトンと目を丸くしている。これだからテオ様はっ!
少し不貞腐れながら飴玉を口の中で転がしていると、テオ様は飴で膨らんだ私の頬を楽しそうにつついてから頭を撫でてくれた。
スキンシップは嬉しいけれど、完全に子供扱いだ……。
「ほらシア、拗ねないでくれ。続けるぞ?」
「はぁい」
私の注意を向けたテオ様は机に広げた白紙の上で右人差し指をトンと突いた。
「魔術具作りの最初は設計図からだ。どんな物を作りたいのか、イメージを固めていくんだ」
「イメージ……。なんだか古代魔術みたいですね」
呪文で魔術を使う現代魔術とは違って、古代魔術は術者のイメージそのものが魔術式となって魔術を形成する。
「そうだな。現代魔術師は呪文構成がどうだのとルールに縛られながら設計図を描かなきゃならないが、古代魔術師の場合は思い描いた想像と直感でいいからな。まっ、難しいことは考えずにアイデアを書き出せばいいのさ。シアはどんなラグがいい?」
「えっと……。ひんやり気持ちのいいラグ、ですよね?」
「それはあくまで俺が『こんなのがいいな』と持ったイメージだ。シアは?」
重ねて問われて、私は軽く首を傾げて考える。
「んー……、私も暑い日にひんやり気持ちよくお昼寝できるラグがいいです。私とテオ様と、それとセーブルとリンクスも一緒にごろ寝がしたいです」
「うん、今のシアの言葉でラグの大きさが定まってきたぞ。この調子で思いついたアイデアをどんどん口にするんだ」
テオ様は羽ペンで紙にサラサラと書きしながら促してきた。
「えっ、と……」
「難しく考えなくていい。どんな寝心地がいいか、どんな肌触りがいいか。素材、色、匂い、何でもいい」
「んーと……。気持ちのいい肌触りがいいです」
「うん。例えばどんな感じだろう? イメージに近い物があれば例にあげてもいいし、サラサラやふわふわみたいにあやふやでもいい。アイデア出しは何でもアリだ。
さっきシアも言ったように、この作業は古代魔術の魔術式を構築するのととても似ている。術式を作る雰囲気はこんな感じなのかなぁとふんわり思いながら俺と一緒にやってみよう。気負わず気軽に適当に、な?」
「は、はいっ」
テオ様が用意してくれた椅子に座って、同じく椅子に座ったテオ様と一緒にアイデアを出していく。
肌触りはサラサラとふわふわの中間、参考はセーブルの耳を揉んだ時の感触だ。セーブルの耳は柔らかいのにコシがある短毛で、いつまでも触っていたいくらいに気持ちいいんだよね。
ひんやり感は欲しいけれど、体が冷えちゃうくらいに冷たいのは嫌だ。
長めのお昼寝から目が覚めた時でも体が痛くないように、ある程度のクッション性は欲しい。
それから床と接する裏側には滑り止めが欲しい。上に乗ってもずれないだけで快適さがかなり違うからね。
色は涼しげな物がいいけれど、白だと汚れが目立っちゃいそうで気になる。淡い藍色とかがいいかな。
私のアイデアをテオ様は否定することなく相槌を打って肯定してくれるから、私も恥ずかしさみたいな感情を感じることなく率直にアイデアを口に出していく。
そうして出したアイデアはテオ様が飾らずにそのまま文字にして書いていった。
「うん、ある程度の方向性は決まったな」
「はいっ。この後はどうするんですか?」
ワクワクしながらテオ様を見ると、テオ様は私の反応が嬉しいのか柔らかな表情で目を細めた。
「次は魔術具を作る手段を考えるんだ。魔術具の作り方は大きく分けて三通りある。一つは既存の物品に魔術を施すこと。収納の魔術を付与している鞄がいい例だな」
私の鞄もテオ様が収納の魔術を付与してくれた魔術具だからわかりやすい。
「二つ目の方法は、材料を使って自分で作る」
「自分で……? 文字どおり自作するんですか?」
「手先が器用なら自作してもいいが、材料を使って魔術で作ってもいい」
「? あの、テオ様。魔術で作る、っていうのが上手く想像できないんですが……」
「魔術具という道具作りとして考えるとややこしいから、料理で考えてごらん? 事前に食材を準備して、調理過程を魔術で行う。魔術で食材を切たり煮たり焼いたりするわけだ」
「あっ、なるほど」
本当にテオ様は説明上手だ。私の理解度に合わせて説明してくれてわかりやすいし、テオ様がそうしてくれるってわかっているから私も安心する。
「三つ目は材料その物から全てを魔術で作る方法だ。難易度が高いけれどな」
無から材料を作り出す……。確かに難しい魔術なんだろうけれど、これはさっきよりもイメージしやすい。形のある物体ではないけれど、私も魔術で火や水を出すことができるからね。
「今回は材料を使って作ってみよう」
「はい。でも、材料があるんですか?」
首を傾げる私にテオ様は自慢げな顔で頷いた。
「これまで俺が溜め込んできた素材が色々とあるからな。森で採ったり、魔術具通りの素材屋で買ったり……。俺の収集癖が役立つ時だ」
椅子から立ち上がったテオ様は工房の奥にある倉庫に私を案内していく。
倉庫自体もまぁまぁ広いけれど、更にテオ様は収納の魔術で拡張して管理しているみたい。見た目以上の収納力だ。
「ここからは素材や作り方に関する知識も試されていくな。料理だって知識が必要だろう? 人参から焼き肉を作れるわけじゃない、みたいにな。知識が必要と言っても全てを覚えている必要はない。辞書やら何やらで補えばいいんだからな」
「人参をお肉に変える、みたいな魔術はあるんですか?」
「そこは魔術よりも錬金術の分野だなぁ。とはいえ、古代魔術にできないことはないさ。魔力の効率は悪いがやれないことはない」
「へぇ~……」
テオ様は私への説明と応答をしながら倉庫を漁っている。半透明の糸と綿状の物、それと魔鉱石をいくつか出しているみたい。
「シア、向こうへ運ぶのを手伝ってくれ」
「はいっ。これを全部使うんですか?」
「んー、まだ考え中だ。とりあえず使えそうな物を適当にピックアップしただけだよ」
もふもふの綿を両手で抱えて工房内へと戻り、テオ様に従って運んだ物を床に下ろす。
魔鉱石入りの箱を運んで下ろしたテオ様は腰をトントンと叩いて軽く上半身を伸ばした。
「ここから先の工程は古代魔術師のやり方だ。さすがの俺もラグの作り方なんて知らないが、何となく頭の中に『こんな感じでこんな風にやればいいんじゃないか?』みたいな曖昧な構成と完成図はある。この頭の中を魔術式へと置き換えていくんだよ」
「なる、ほど……?」
想像と感覚こそが古代魔術師の魔術式だから、テオ様が思い描いている作り方と完成形がそのまま術式となる……。
とはいえ、魔力の扱い方を練習中の私には高度なテクニックで理解するのは難しすぎるっ。
「私には難易度が高すぎてわからないです……」
「ふふっ、古代魔術を言葉で理解するのは難しいよなぁ。シアがコレをできるようになるのは何年も先のことだから、今すぐにスルッと理解できなくて当然だ。今日は俺がやるから、俺の魔力の流れを何となく見学しているといい。雰囲気を楽しみなさい」
「は、はいっ!」
私がコクコクと頷くとテオ様はちょっと嬉しそうに微笑んで、先ほどアイデアを書き出した紙をヒラヒラと振った。
「このアイデアを纏めると、ラグの表面は気持ちのいい肌触りとひんやり感を出す。裏面は体の負担を減らすクッション性と床の滑り止めを施す。これが実現できるように、まずは素材の加工をしていこうか。——セブ」
テオ様がセーブルを呼ぶと、テオ様の足元の影からセーブルがスルリと出てきた。
おおっ、こうしてセーブルが空間を移動してくる瞬間は初めて見た! レアな感じがしてちょっと嬉しいっ。
テオ様は隣に座ったセーブルの耳をモチモチと揉んで感触を確認している……。
「コレに近い感触だよな?」
「そうですっ」
テオ様に問われた私もつられてセーブルの耳をモチモチと揉む。いつ触ってもクセになる感触が気持ちいい……っ。
セーブルは私達にされるがままだけど、呑気に欠伸をしているから不快ではないみたい。
「この毛足の長さと肌当たりを再現した生地を作るわけだが……」
テオ様は倉庫から運んできた素材を前に考え込んだ後、左手を軽く振りながら魔力を練り始めた。
この魔力の流れは……、例えるなら編み物に近い印象かな? それと、縫い物。つまりはお裁縫って感じだ。
「素材の説明をしていなかったな。この糸は素材屋で買った物で、マナと合わせてやると扱いやすくなる特別な糸だよ。カーナの服飾工房でも扱っている」
「それじゃあ、私達のローブ作りにも使われているかもしれないんですね」
「多分そうだろうな。で、こっちの綿は俺が森で採取した物だ。元は特殊な綿花でな、種を取り除いたり解したりと基本の加工だけは事前に済ませてある」
「綿花は図鑑で見たことがありますっ! 綿がモコモコってなっているお花ですよねっ?」
「あははっ、興味津々だなぁ。今度一緒に群生地へ出掛けてみようか」
「はいっ!」
テオ様は私と会話しながら器用に魔力と素材をこねこねして、手のひらサイズの生地を作り上げた。
「ひとまずひんやり感と色は後回しで、感触を確かめるためにサンプルを作ってみた。シア、どうだ?」
「えっと……」
差し出された白い生地を触って確かめてみる。
……うん。限りなくセーブルの耳に近い感触だ。密度の高い短い毛足に程よい弾力。早くもこの上で寝転ぶのが楽しみだっ。
「凄くいい感じですっ!」
声を弾ませながらテオ様を見上げると、テオ様は満足そうに微笑んで頷いた。
「うん、素体はこれでいいな。次はひんやり感と色だ」
テオ様はそう言うと魔鉱石が入った木箱から青色と乳白色と薄緑色の石を取り出した。
「こっちの青い奴は冬の僅かな時期に特定の洞窟で採れる石で、氷属性のマナが閉じ込められている。緑の石は風属性で、氷の効果を調整しながら熱の籠りを散らす役割を持たそうと考えている。白っぽい方は……、どう例えればいいんだろうな。他の石の効果を柔らかくするというか馴染ませるというか……、まぁそんな感じの物だよ」
テオ様はふわふわな説明をしながら魔力を操って、空中に浮かせた魔鉱石達を砕いて粉にしていく。
粉にした魔鉱石へテオ様の魔力を込めた水を足しながら少しずつ馴染ませて……、絵の具を溶かした色水みたいになった。とても柔らかな藍色だ。
テオ様はサンプルに作った生地を空中でぽよぽよと漂っている色水へと入れて魔力と馴染ませていく。
そうして馴染ませた生地を取り出して、すすぎ洗いをして、乾燥させて……。
「んー、こんなもんかな。シア、どうだ?」
「えっと……」
優しい藍色になった生地を手渡されて、感触を確かめてみる。
「…………おお……」
感動のあまりに思わず声が漏れてしまった。
気持ちのいいサラふわ感は残しつつ、体温に不思議と馴染むひんやり感……。
体の熱を急激に奪うような冷たさではなく、サラッとしたひんやり感だ。
「気持ちよくていい感じですっ」
何だか嬉しくて自然とニコニコしながらテオ様に感想を伝えると、テオ様は満足そうに頷いた。
「うん。肌触りと冷たさはこれでいいとして、色はどうだ?」
涼しげで柔らかな藍色がすでに気に入っていた私は何度も頷く。
「とっても素敵でいいですっ」
「よーし、それじゃあこれでラグを作っていくか」
気合いを入れたテオ様が素材と魔力を馴染ませてラグを作り始めたので、私はサンプル作りの時よりも注意深くテオ様の魔力の動きを観察する。
テオ様は「雰囲気を楽しんで何となく見学しているといい」と言っていたけれど、師匠であるテオ様がいつもと変わった魔術を披露してくれているのだ。
いずれ私も魔術具を作れようになる日が来るだろうし、その技術は魔術生物を——私の相棒となる使い魔を作る時にも役に立つはずだ。
今の私にはテオ様の魔術を盗むなんてできないし、そもそも訳がわからない。だとしても、わからないなりにちゃんと観察したい。
テオ様はそんな私の気持ちもわかってくれているみたい。一つ一つの工程を丁寧に行って、私が観察しやすいようにしてくれている。
「わぁ……っ!」
金色と黒色を帯びたテオ様の魔力は本当に綺麗で、気品があって格好いいっ。テオ様自身への憧れもあってより強く惹かれてしまう。
もちろん蜂蜜色でキラキラした自分の魔力も気に入っているけれどねっ。
「よし」
私がテオ様の魔力に見惚れている間に、テオ様はラグを完成させた。
結局テオ様の魔術を理解するどころか魔術式の構成すら読み解けなかったけれど、素晴らしい体験と時間を過ごしたという不思議な満足感がある。何だか嬉しいっ。
「ふふっ、シアが喜んでくれたようで何よりだ」
私の様子を見たテオ様もどこか嬉しそうだ。いつものように自然と頭を撫でられると心がくすぐったい。
子供扱いは悔しいけれど、やっぱり頭を撫でられるのは好きだなぁ……。
「さぁシア、仕上げを確認しようか」
「仕上げの確認?」
おどけた口調のテオ様に私はキョトンとする。ラグは完璧に完成したようにしか見えないけれど……?
テオ様は訝しがる私とセーブルを連れてリビングへと戻ると、作りたてのラグを床にフワッと敷いた。
これまでもリビングには季節に合わせてお花を飾ったりしてきたけれど、ラグを変えたことでググッと雰囲気が一気に変わって晴れやかな気分になる。
「シア、試しに寝転がってごらん?」
「は、はいっ!」
ワクワクした様子のテオ様に促された私は汚さないように靴を脱いでから四つん這いでラグへと上がった。両手に伝わるフワッとしたラグの感触がすでに気持ちいいっ。
ラグの中央付近でごろんと寝転がってみる。
ふわふわなのにサラサラで背中が蒸れないし、それどころかひんやり感が伝わってくる。体重が掛かる部分も痛くないし、寝心地がいい……っ。
「テオ様……っ、これは凄いです……っ!」
感動してゴクッと唾を飲みながら感想を伝えると、テオ様は嬉しそうに笑ってくれた。
「あははっ! 喜んでくれてよかった。どれどれ……」
テオ様も私と同じく靴を脱いでラグに乗って、そのまま私の隣にズルズルとうつ伏せで寝転がった。
「あぁ……、確かにいい感じだなぁ。我ながら上手くできたもんだ。セブ、お前も寝てごらん」
セーブルはラグの隅の匂いを嗅いでいたけれど、テオ様に誘われてラグにのそっと上がってきた。そして私達の頭側をぐるぐると歩き回って場所をチェックすると、トテンと横倒しで寝転がる。
顔を上げてセーブルを見ると、セーブルは気持ちよさそうに目を閉じてマズルをラグに擦り付けている。可愛い……。
「セブも気に入ったようだな。よかった」
「はいっ。私も一日中こうしていたいくらいに凄く気に入りましたっ」
「おう、是非ともそうしなさい。シアはもっと怠けた方がいい」
「お昼寝するならテオ様と一緒がいいです」
「そこは安心しろ。俺は間違いなくシアよりも先にここで昼寝をしているだろうからなぁ」
私の方へ体を向けて横向きに寝転がっているテオ様がニヤリと笑っている。何だか自慢げなテオ様が可笑しくて私もクスクスと笑ってしまった。
テオ様は自称ものぐさだし、実際に面倒くさがりでだらけている時も多い。けれども実際はアルドリールの魔術公のお役目として、常にキラン大森林を監視するために魔術を使い続けている状態だ。
だから疲れてだらけてしまうのかな、と勘繰って心配になってしまうけれど、テオ様自身はそれを負担と思っていないみたい。きっと監視魔術を効率化して消費魔力を抑えているんだと思う。
「今日は早速このまま昼寝をしようか」
「ラグを作ってお疲れですか?」
「ん? 大したことはないが、疲れたと言えばシアが一緒に昼寝をしてくれるだろう? なら、疲れた。もう動けないから寝るぞー」
うつ伏せになったテオ様は開き直った様子でぐてーっと両手足を伸ばした。リラックスした表情で目を閉じていて本当に眠ってしまいそうだ。
私も同じくラグに全身を預ける。……気持ちいいなぁ……。
そういえば庭仕事をした後だから体が疲れているんだった。これなら気持ちよく昼寝ができそう。
「おやすみなさい、テオ様」
うつらうつらしながらおやすみの挨拶をすると、テオ様がクスッと笑ってソファの背もたれに掛けたままのタオルケットを魔術で転移させて私にふわりと掛けてくれた。
うっすらと目を開けると、テオ様も私と同じタオルケットを一緒に掛けて微笑んでいるのが見えた。
ああ……、テオ様の傍は本当に落ち着く……。
「おやすみ、シア」
眠ってしまう直前にテオ様の優しい声が聞こえた気がして、私はふにゃふにゃと微笑みながら頷いた。
後日——。
ラグの心地よさに味を占めたセーブルとリンクスが昼寝をする姿がよく見られるようになったり、お風呂上がりで暑くなったテオ様がだらしない姿でラグで涼む光景にギョッとしてしまったりするのが日常の光景となったけれど……、それはまた、別のお話だ。




