眼鏡屋は、鳴かぬ蛍の夢をみる 1
小さなモノが目の前を横ぎる、それを追う様に視線を向けると電信柱の影に首輪をつけていない子猫を見つけた。小さく震える子猫は、俺に警戒しながらもその場を動こうとはしない。
「腹が減ってるのか?」
手に持ったコンビニの袋が音をたてると、子猫はそれに視線をうつす。
「お前、目ざといな」
笑みを漏らし、袋の中からおかかのおにぎりを取りだすと、半分を子猫の前に差し出した。
「ほら、俺の昼飯分けるんだから、ありがたく食えよ」
こちらの様子を伺いつつも、子猫は目の前に置かれたおにぎりに歩み寄りペロリと一舐めする。それを見て余った半分を口に放り込み、子猫の頭を撫で俺は学校へと向かった。
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「そろそろ。卒業式だね。僕こっそり観に行ったら駄目かな?」
可愛らしく小首を傾げる保さんに「ダメです!」と返事をすると、ケチと頬を膨らませ座っていた椅子をクルクルと回した。
「理くんが、泣く姿みたかったな・・・」
「俺は泣きませんよ。ほら、どうぞ」
いつもの通り、お客のこない眼鏡屋。
客の相手ではなく、保さんのお茶淹れが俺のバイトといっても過言ではない。
「あ~、理くんの淹れるお茶って美味しいんだよね」
保さんは両手で湯呑を持ち、一口流し込むとホッと息を漏らす姿をみるとそれも悪くないと思う自分もいる。「それは、よかったです」と返し、俺も椅子に腰をかけた。
岡田眼鏡店でのバイトは高校卒業までという約束だったが、地元の大学へ進学が決まり保さんの希望で空いている時間はバイトに入る事になった。
「卒業式、第二ボタン誰にあげるの?」
「誰にもあげませんよ」
「ふ~ん。じゃ、可愛い子に”ボタンください”って言われるかもしれないよ」
「いませんよ、そんな物好き」
「そうかな・・・?理くん、モテてるのにね」
「モテませんよ。なんで言い切るんですか」
「梓ちゃんとか」
「それ、カウントしませんから」
「うわ・・・酷い」
ワザとらしく口を手で覆い、俺に抗議する保さんに聞こえるようにため息をつく。
「モテるかどうかは、本人に分からないことだってあるよ。
恋に焦がれて鳴く蝉ばかりじゃないからね」
「鳴かぬ蛍が身を焦がす・・・・ってやつですか?」
「正解!!」
そう嬉しそうに人差し指をたて、子供みたいに椅子を回す。
危ないですよと注意する俺に、保さんは
「理くんの方が、危ないかもしれないよ。鳴かぬ蛍に気を付けておいてね」と笑みを浮かべた。




