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伝説の勇者様!? ……いえ、補助職の僧侶です  作者: 田山照巳
第二章 ロティールの街 編

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第五話 森の仕事

──ミエルの魔法書店を後にし、馬車に揺られ約一時間。僧侶派遣の依頼元となる森林業の集落に到着した。


 ログハウスのような木造家屋が並ぶ集落。その一角には作業場らしき場所があり、伐採された木材や加工済みの板材等が整然と並んでいる。集落の奥には真っ直ぐ伸びた巨木が立ち並ぶ広大な林が広がっている。


 アリコが近くにいた男に声をかける。


「私は王国騎士団のアリコと申します。森林業長より派遣を依頼されていた僧侶殿をお連れしました。森林業長『クルガーヌ』殿はどちらでしょうか?」


『あぁ、クルガーヌさんなら、あそこで作業している人だよ。呼んであげよう。おーい! クルガーヌさーん!! ご依頼の僧侶様が到着されたそうだー!!』

「おぉー! そうかい!? 今行くわー!!」


 遠くからでもよく聞こえる大きな太い声。大柄の身体は筋肉で引き締まっており、いかにも親方といった雰囲気だ。


「よぉー! よく来てくれたなぁ。俺が森林業長クルガーヌだ。よろしくなっ!」

「はじめまして。テルアキと言います。よろしくお願いします」


 差し出された手を握る。大きな手に、力強い握り方……。少し痛かったが、そこに気さくさや男らしさを感じた。


「クルガーヌ殿、私は王国騎士団曹長アリコと申します。僧侶派遣の依頼を受け、こちらのテルアキ殿をお連れしました」


「ああ、騎士さん、ご苦労様。ウチで茶でも飲んでくといい。書類の手続きなんかもあるだろう?」

「ありがとうございます。では、お言葉に甘えさせていただきます」


 三人でクルガーヌの家に向かう。


「さあ、入りな。まずは俺の家族を紹介しよう。おーい、帰ったぞー」

「あんたー、おかえりぃー」

「パパー! おかえりなさーい!」


 家の中にいた母娘。


「まずは妻のスリーズ」


 優しい笑顔の少しふくよかな女性。気さくな感じがクルガーヌとの相性の良さをうかがわせる。


「こっちが娘のシクルだ」


 ツインテールの髪型で元気な女の子。年齢は五歳くらいだろうか? 小さくてとても可愛らしい。


「やぁ、よく来てくれたねぇ。どんなお爺さん僧侶様がやってくるかと思ったら……やだもぅ、とっても若い男前君じゃないの!」

「お兄ちゃん、こんにちはっ! 私、シクル! 四歳なの!」


「はじめまして。テルアキです。男前かどうか分かりませんが……よろしくお願いします。シクルちゃんもよろしくね」


 シクルの頭を軽く撫でると、キャッキャッ……と喜んでくれた。


「では仕事の話をしようか。テルアキ殿、騎士さん、こっちへ」


 労働条件や給金などが記された書類を確認し、クルガーヌさん、アリコ、俺の三人で、それぞれ了承のサインをする。


(こうして労働条件が文面化されて、書類で確認できるのは安心だな)


 新しい生活に対する不安が少し和らぎほっとする。


(でもこの作業場で、僧侶として一体どんな仕事があるのだろうか……?)


「さて、もうすぐ夕方だなっ。日が出ている内に、今日は作業場だけ案内しておこうか」

「はい、お願いします」


「では、クルガーヌ殿、私はそろそろ失礼します。テルアキ殿も、お達者で!」


 アリコが軽く会釈する。


「アリコ! 今までありがとう! 元気でな!!」


 アリコを見送り、クルガーヌと共に作業場に向かう。


「ところでクルガーヌさん? その『テルアキ殿』というのはちょっと堅苦しいのですが……。呼び捨てで構いませんよ?」


「おお!? そうかい? 実はこっちも呼ぶのに歯がゆくて困ってたんだよ! ハハハッ。なら次からテルアキなっ。まずは林の方に行こう。ココは伐採エリア。木を切り倒すところだ。あそこで何人か作業してるだろう? 今日最後の伐採をしているようだな。……で、こっちは加工場だ。切り倒した木の皮を剥いで、板材や加工用の木材に切ったりするところだな。ところで、テルアキは僧侶だから『ヒール』は使えるんだよな?」


「えぇ、使えます。今日使えるのは、あと三回ですかね。魔法を使うのに『MP』というのを消費するのですが、まだ俺自身のレベルが低くてMPも少ないので一日に最高六回しか使えないんです。ちなみに、消費したMPは、ひと晩寝たら回復します」


「そうか、今日はあと三回か。なら早速、偉大な僧侶様の出番がくるかもな」

「……えっ? 作業中に誰かが怪我をして、その人の傷を治す……とかですか?」


「ハハッ。馬鹿言っちゃいけねぇ。俺達は森林業のプロだぜ? 作業で怪我なんてしねーよ。まぁ、見てれば分かる。そろそろだな」


(……どういうことだ?)


 伐採作業を注視していると、倒そうとする木に集まっていた作業員達が周囲に散り、大きな声を上げた。


『気をつけろー! 倒れーるーぞーっ!!』


……バキッバキッバキッ!


 真っ直ぐそびえ立つ巨木がゆっくりと傾き始め、そして、勢いよく倒れた。


……ズドーンッ!!!


 周辺に鳴り響く大きな音と振動。


 チュン! チュンッ!


 大きな音に驚いた野鳥が数羽飛び立つ。


……しかし、次の瞬間!!


『よーし! みんなーっ! 武器を持てーーっ!!!』


(……えっ!? 今、何て言った?)


 作業員達の予想外の言葉に俺は目を丸くして驚いた。すると、林の奥からイノシシのような魔物と、小さな鬼のような魔物が数体現れた。どうやら大きな音と振動に驚いて林の奥からやって来たようだ。


(……えっと、これはつまり?)


 程なくして、斧やハンマーを持った男達と魔物達の戦闘が始まる。


『おりゃー!』

『このぉっ!!』

『ギギギィッ!』

『バフッ! バフッ!』

『ぐわっ!? やったな!? 』


 数分後、どうやら魔物達の退治に成功したようだ。しかし、戦闘中に二人ほど負傷したらしい。


「さぁ、テルアキ! 僧侶様の出番だ。来てくれっ!」


(……。あの、何て言うか……)


『あっ、クルガーヌさん!』

「おぅっ、みんな! 毎度ご苦労だな! 紹介しよう。待望の僧侶様、『テルアキ』だ!」


『おぉ! ついに僧侶様が来てくれたんですねっ!』

「さぁ、テルアキ! 来て早々ですまないが、怪我人を治してもらえるか?」


(……何かっ!! 思ってたのと違うっ!?)


 負傷した二人の作業員にヒールをかけ、傷を治す。


『おぉ、凄い! みるみる傷が治っていく!』

「へぇ、魔法ってのは凄いな! これからは経費で回復薬を購入せずに済みそうだ!」


……つまりこういうことのようだ。


 巨木を倒した音で驚いた魔物が現れ、その戦闘により怪我人が出る。また、回復薬の購入で経費がかかり森林業の利益が減ってしまう。そこで僧侶を雇って治癒魔法で怪我人を治し、かつ、経費削減も行おう……というわけだ。


──クルガーヌの家に戻る。


「さて、テルアキの部屋はこっちだ。荷物を置いたら降りてくるといい。すぐに夕飯にしよう」


 案内されたのは二階の部屋。ベッドに机、壁には小窓がある。この世界に来てからバタバタしていたが、「自分の部屋」という空間に安堵する。


(この部屋で、俺の生活が始まるんだな……)


 荷物を置き、階段を降りた。皆で食卓を囲み食事をとる。スリーズが作る料理は温かく、どこか懐かしい味がする。


「どうだい? テルアキ、口に合うかい?」

「えぇ、とっても美味しいです。なんだかほっとする味で、スリーズさんは料理上手なんですね」


 美味しい料理に自然に笑顔がこぼれる。


「あら、やだよぉ。そんな可愛い笑顔を見せてくれちゃって。遠慮せずいっぱい食べてね」

「ママー、美味しいー! スープおかわりー!」


 シクルもスリーズの料理はお気に入りのようだ。


「ねぇねぇ、お兄ちゃん。ご飯食べたらトランプしよー?」


(……この世界にもトランプがあるんだな)


「こらこらシクル。ワガママ言ったらいけませんよ。テルアキは来たばかりで疲れてるから、トランプは明日にしなさいね」


「えーっ、つまんないの。なら、お兄ちゃん! 明日の夜に勝負だからね!」

「うん、わかったよ。約束!」


 食事を終えて部屋に戻り、魔法書店でもらった六冊の魔法の書と向かい合う。


 ・エアー :風属性の攻撃

 ・キュア :状態異常の回復

 ・スピード :対象の速度アップ

 ・ムーヴ :物体の移動

 ・プロテクトウォール :物理防御の壁

 ・マジックウォール :魔法防御の壁


「読んで覚える」と言っても魔法の書はかなり分厚く、一つ覚えるのに二~三時間かかりそうだ。仕事をしながら読んで覚えるには、一日に一つが限度であろう。


(……さて、何から覚えるべきか?)


……夕方の出来事を思い出す。


(俺の役割は、戦闘で出た怪我人の治療。攻撃魔法のエアーで戦闘に参加したらいいのか? でも、まだ俺は魔法を十回も撃てない。エアーではすぐに弾切れになるのがオチだ。……そもそも怪我人が発生するきっかけを無くせないのか? 不具合発生後の対策より、発生源への対策の方が効率的だ)


……六冊の魔法の書を見つめる。


(ああっ、そうか! 最初に覚えるのは……コレだな!!)


 俺は魔法の書を一冊手に取り、一心不乱に読み始めた。

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