第四話 魔法を覚えよう
──魔法書店で出会ったユナ。現実世界で俺の恋人『結衣』と歳も見た目も全く同じ少女だ。
「こらこら、ユナちゃん? ちゃんと自己紹介なさい」
冗談を言うユナをミエルが諭す。
「はい、分かりました。初めまして。私は魔女見習いのユナです。試験に合格して魔女になるため、今はココで勉強しながら働いてます」
「俺はテルアキです。さっきはごめん……。あまりに知り合いに似ていたもので」
「いえ、構いませんよ? ところで、あなたが召喚されたって言う伝説の……えっと、僧侶様?」
「ふふっ……うん、まぁそんなところかな」
『伝説』なのに、ただの『僧侶』。何ともおかしな表現に、戸惑いながらも笑ってしまう。そんな俺をよそに、ミエルが魔法について話を始める。
「さて、魔法の説明を始める前にアリコ君? 終わった後に皆で食べるスイーツをこれで買ってきてもらえる? 説明は時間がかかると思うから」
アリコにおつかいの代金を渡す。スイーツに対する独特の嗅覚が働いたのか? ユナが目を輝かせる。
「はいっ! ドーナツ! 私っ! ドーナツがいいっ!!」
真っ直ぐ手を挙げ、とびっきりの笑顔ではしゃぐユナ。いちいち可愛いユナの仕草に戸惑ってしまう。
(スイーツ好きなところまで結衣に似ているなんて……)
「分かりました。ドーナツですね。行ってきます」
アリコが魔法書店を後にする。
「では、始めましょうか。せっかくの機会だから、ユナちゃんも復習でお聞きなさい」
「はーい、分かりました」
テーブルにつき、メモ用の手帳を広げる。
「ではまず、魔法の覚え方からよ。魔法は全て『魔法の書』を読むことで覚えられるわ」
「えっ? そうなんですか? 俺は初めから『ヒール』を覚えていたみたいですけど……?」
「そこが私も不思議なのよ。魔法の書を読まずに魔法が使えるなんて、言い伝えの伝説の勇者でしか聞いたことないわ。そういう意味ではテルアキ君はとっても特殊な存在なの」
(『特殊な存在』と言われ、少し気分が高揚する……)
「そうなんですね。で、その魔法の書はどうやって手に入れるのですか?」
「ええ、一般的な魔法の書は魔法書店で売っているわ。街によって売っている魔法の書は異なるから、魔法書店を見つけたら覗いてみるといいわよ。あと、魔法書店には出回らない貴重な魔法の書も存在するから、この先、それらを見つけることも必要になるかもしれないわね」
「……はい。魔法を覚えた後、魔法の書はどうなるのですか?」
「術者が魔法を覚えると、魔法の書は消えてしまうわ。でも、魔法を覚えた人は新たに魔法の書を著すこともできるの。それが私達、魔法書店員の仕事ね」
「はい、分かりました」
「続いて、魔法を使える職業と一般的な魔法の特徴についてよ」
──まとめると以下のようだ。
◎職業と種類
《僧侶》
・攻撃(属性/ 風)
・回復
・補助
《魔法使い》
・攻撃(属性/ 火・氷)
・補助
◎有効範囲
・単体:基本魔法 ※例 ファイア
上級魔法※例 マクスファイア
(Lv50~使用可能)
・広範囲:全体魔法 ※例 オールファイア
(Lv30~使用可能)
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「ふぅ、ちょっと長くなるけど、まだ続くわよ。ユナちゃん、ちゃんと聞いてる?」
……スヤァ、スヤァ。
(なっ!? 寝てる!? まだ十分も経ってないのに!?)
「うーん……ムニャムニャ……。もう食べられないよぉ……。このドーナツ、持って帰っていい?」
ユナは夢の中で幸せな世界に旅立っているようだ。
「もぅ、仕方のない子ねぇ……」
そう言いながらミエルは棚から小さな小瓶を手に取った。
「ミエルさん、それは?」
「これは、ハッカのエキスを精製した塗り薬で、家庭の常備薬よ。虫に刺された時によく塗るの。スーッとして気持ちが良くなる薬ね」
そう言いながら塗り薬を指先に乗せ、ユナの鼻元に塗り始めた。
……すると、次の瞬間!!
「ひゃぁっ!? むはぁっ!? は! 鼻がっ! 鼻がスースーするっ!?」
「あらあら、ユナちゃん? お目覚めかしら?」
ジタバタと悶えるユナの姿を楽しそうな笑顔で見つめるミエル。
(……こ、この人! 優しい顔でなんてことを!)
「では続けますよ。次に魔法の威力と『魔力』、『熟練度』の関係について。
キャラクターレベルを上げれば『魔力』が上がって、魔法の使用回数が増えれば『熟練度』が上がるわ。
『魔力』『熟練度』がそれぞれ上がるたびに魔法の威力が少しずつ強くなるの。修業や鍛錬次第で魔法は強くなるから頑張ってね」
「はい。キャラクターレベルを上げるための経験値や魔法の書を買うためのお金はどうやって手に入れますか?」
「経験値やお金は魔物を倒したり、様々な依頼をこなすことで得られるわ。あと、この世界ではどんな体験でも経験値になるの。例えば学習や就労等も対象よ。あなた自身が人として成長することの全てが経験値になるから覚えておいてね」
(……全ての体験が経験値になる。この世界では地道な努力や訓練を大切にする俺の性格が最大限に活かされそうだ)
「今日の説明はこんなところね。聞きたいことは色々出てくると思うから、またいつでもいらっしゃいな」
「ミエルさん、ありがとうございました」
「ただいま戻りましたー」
アリコが帰ってきた。
「わーい! ドーナツー! 私もう、お勉強でクタクタだよー」
(……なっ!? 半分近く寝てたお前がそれを言うのか!?)
ミエルの講義を終え、俺達は団欒のティータイムを過ごした。
「……ところでアリコ君? 大臣からの知らせの中にこんなことが書いてあったのだけど?」
「はい? 何でしょう? ミエルさん」
「ここよ。『テルアキ殿に僧侶用の魔法の書を提供くだされ』……って。まさかとは思うけど、無償での提供じゃないわよね?」
「えっ? と、言いますと?」
「私達は、魔法の書を売ったお金で生活しているのよ? 一般庶民から商品を無償で提供させるなんて、国家権力の横暴じゃないかしら? ……まさか大臣ともあろうお方が、そんなことしないわよね? アリコ君?」
ゴゴゴゴゴゴッ……
ミエルの優しい笑顔の背後は威圧に満ちた魔力で覆われている。
(……こっ! この人やっぱり怖い!?)
「……いや、あのミエルさん? その、お金のことは私に言われても分かりかねますっ」
「あら、そう……。ところで、テルアキ君。せっかくだから、私が得意な氷の魔法を実演で見せてあげましょう」
そう言いながら、ミエルはアリコの後ろに立ち、その肩に手を乗せて微笑んだ。
「はいっ、ブリザード♪」
「ミ! ミ! ミエルさんっ!? ちょっ! 足がっ! 私の足がっ! 指先からどんどん凍ってますけどっ!?」
「当たり前じゃないの? ……だってブリザードをかけてるんですもの。ほらほら、アリコ君? 魔法の書の代金をどうするの? 口が動くうちに答えなさい? 早くしないと喋れなくなっちゃうわよ?」
アリコの身体がゆっくりと足元から凍りついていく……。
「ひっ! ひぃぃっ!! でっ、では! そのっ! だ、大臣に請求書を送る……というのは如何でしょうかっ!?」
「あっ、なるほどー、さすがアリコ君。その手があったわ。そうしましょう」
ミエルがパンっと手を叩くと、アリコの体を覆った氷が消え去った。
(……こっ、この人! 怖すぎる!? てゆかこの国では、美人が背後に立つと不吉なことしか起きないのかっ!? )
……こうして俺は、アリコの凍傷と引き換えに
《魔法の書六冊》
キュア、エアー、スピード、ムーヴ、
プロテクトウォール、マジックウォール
を手に入れた。
「……テ、テルアキ殿、願わくば、私に……ヒールをっ!」
──涙目で訴えるアリコの身体を回復し、続いて、俺達は森林業長『クルガーヌ』の元に向かうのであった。




