第三十六話 城塞都市グリエール
──俺達は鉱物資源が豊富な火山の近くにある城塞都市『グリエール』を目指している。
道中、魔物に何度か遭遇したが、俺達は難なく退治できた。これまでの戦闘や様々な経験を通じて、俺達はキャラクターレベルが三十を超えるまでに成長していた。俺とユナは全体魔法を使えるようになり、魔物に囲まれても余裕を持って戦うことができた。また、サキの体技も上達しており、素早さを活かした有効な攻撃を繰り出していた。
「僧侶様? 私達もそこそこ強くなってきたよね」
「ああ、そうだな。全体魔法も使えるようになったし」
「これなら、魔王の幹部くらいだったら倒せちゃうかもねっ」
「ははっ。さすがにそれは難しくないか? それに上級魔法はまだ使えないんだぞ」
「なぁ、テルアキ。お前が伝説の僧侶様だってことは知ってるが、魔王を倒すには、伝説の勇者が必要なんだろ? そいつはいつ現れるんだ?」
(……なっ!? 伝説の勇者を『そいつ』って言った!?)
「えっと、ロティールを出る前にアリマン王に聞いたな。勇者召喚の儀式は約百三十日後だ」
「そっか。それまでに私達はもっと強くならないとだねっ」
「ああ、そうだな。勇者のパーティに入れるかどうか分からないが、しっかり修行しないとな」
そんな会話をしながら歩いていると、大きな城壁に囲まれた街が見えてきた。城塞都市グリエールだ。この街は海の向こう側にある魔王の住処『キュイール島』に最も近く、魔王討伐の拠点となる要所だ。また、鉱物資源の採掘や武器の製造、魔法の研究などが盛んな街でもある。
俺達は城門で身分の確認を受けると、この街の統括総督『グルナード』と面会を行うため、馬車で城まで送迎された。馬車から眺める街並みはロティールの明るい城下町とは異なり、重厚で重々しい雰囲気を漂わせていた。
「さすが城塞都市って感じの街だね。お店も鍛冶屋さんとかたくさんあるみたい」
「そうだな。後で魔法書店も探してみよう」
「うん、新しい魔法を覚えられるといいね」
──しばらくすると街の中央にある城に到着し、謁見の広間に案内された。広間の奥中央には、男性が立っていた。長身、短髪で軍服を着ており、胸にはいくつかの勲章を留めている。厳しい表情と胸に留められた勲章から、数々の武功を挙げてきた人物だと分かる。
「君が召喚の儀式で現れた伝説の僧侶、テルアキ殿だね。私はグルナード。この城塞都市の責任者で統括総督をしている」
「初めまして、テルアキです。こちらはユナ、サキです」
続いてグルナードの隣に立つ女性が挨拶をした。軍服を着た、眼鏡が似合う知的な雰囲気の女性だ。
「私は政務官のシブール。この街の政治・事務に関する責任者です。テルアキ君、よろしくね」
「はじめまして、シブールさん。よろしくお願いします」
「ところでテルアキ殿、ロティールのレギム大臣から『困り事があればテルアキ殿に相談されたし』……という書状を受け取っているのだが、これは本当かい?」
(……あぁ、またですか。これ、三回目だ)
「えぇ……、でも俺はただの僧侶ですから大したことはできませんが、俺にできることなら協力します」
「そうか。まず確認だが、君達はグラチネからここにくるまでの間、魔物達に襲われただろう? ……難無く退治できたかな?」
「はい。道中の魔物退治はさほど苦労しませんでした。俺とユナは全体魔法が使えますし、サキも短剣と弓で戦えます」
「なるほど。では頼んでみる価値はあるかな」
「……と、言いますと?」
「伝説の勇者を召喚する儀式は百三十二日後の予定だが、テルアキ殿は勇者の装備が四つあることを知っているかな? 剣、鎧、兜、そして盾だ」
(……えっと、ロティール城で俺を地面に叩きつけた、勇者だけが装備可能なあの武器と防具のことだよな)
「はい。ロティール城で俺が伝説の勇者かどうかを確認するために装備してみました。……あれ? でも今、盾と言いましたか? ロティール城には盾はなかったと思いますが?」
「ああ。勇者の装備はその四つがあるんだ。しかし、盾は魔物に奪われてしまってね。魔王ビアンドの幹部『ダンド』が北の森にある『ラグー遺跡』で盾を守っている。……その盾を奪還することが、我々の当面の目標なんだよ」
「魔王の幹部が勇者の盾をっ!?」
「我々も兵力を整えて奪還作戦を実行したのだが、失敗に終わってね。……そこで、伝説の存在であるテルアキ殿に頼みたい。勇者の盾を奪還してもらえないだろうか?」
「えっ!? でも、皆さんが兵力を整えて挑んでも作戦に失敗してしまったのに、俺達三人で可能でしょうか?」
「うむ。先ほど聞いたとおり、この街にくる道中では魔物を難無く退治できたのだろう? それならかなりの戦力だ。それに、テルアキ殿ならできるのではないか……と期待させる、不思議な力を感じるんだよ」
政務官のシブールはこの提案に難色を示す。
「グルナード総督、テルアキ君は伝説の存在とは言え、勇者ではなく僧侶ですよ? 我々が勝てなかった魔王の幹部に彼らだけで向かわせるなんて、危険ではありませんか?」
「シブールよ。私はテルアキ殿の不思議な力に賭けてみたいのだよ」
……俺はしばらく返答を考えた。
(サキとユナを危険にさらすわけにはいかない。でも、魔王を倒すことはこの世界にやってきた時からの最終目標だ。そのために勇者の盾は必要不可欠なアイテムであろう。でもこの依頼、判断するには情報が足りないな……)
「グルナード総督、相談があります」
「何かな?」
「その依頼を受けるかどうか判断するために、数日間の猶予をいただけますか? そのラグー遺跡にたどり着くまでの時間や消費する体力も分かりませんし、グリエール付近の魔物達の強さも不明です。その辺りの見当がついたら、まずは遺跡の探索に向かいたいと思います。ただ、現時点で勇者の盾奪還のお約束はできません」
「……なるほど。わかった。我々も準備でできることは協力しよう。是非よろしく頼みたい」
グルナードは俺達に向かって深々と頭を下げた。
「ご期待に添えるよう、頑張ります」
「では、この街に滞在する間の宿泊場所はこちらで用意しよう。今日はこれから鍛冶屋、魔法書店を訪ねるといいだろう。後ほど、街の地図を渡すよ」
「それは助かります。ありがとうございます」
続いてシブールが話す。
「テルアキ君、この街は魔法の研究も盛んだから、魔法研究の代表者でもあり教会の長でもある神官長『パタート』にも会ってみなさい。僧侶である君なら、何か役に立つこともあると思うわ」
「分かりました。シブールさん、ありがとうございます」
──統括総督グルナードとの謁見を終え、城を後にする。
「すごいねっ! 僧侶様。魔王の幹部から勇者の盾を奪還だって!」
「ユナ、喜ぶ前に依頼の難しさを考えるんだ。魔王の幹部を倒して勇者の盾を奪還! ……なんてかなり大変だぞ。まぁ、奪還作戦はともかく、とりあえず今日の行動を整理しよう」
──グルナードとシブールの話を整理すると、今日の予定は次の三つだ。
一、鍛冶屋に行く
二、魔法書店に行く
三、教会本部に行き神官長に会う
城で渡された街の地図を確認し、最初に推薦された鍛冶屋へ向かう。
「城塞都市の鍛冶屋か。そろそろ新しい短剣に買い替えたいし、いい短剣があるといいな。……なっ? テルアキ」
「ちょっと待て、サキ。何でそこで俺の名前を呼ぶんだよ?」
「……お前、グラチネの街で最後にアタシがどんな辱めを受けたか、忘れたとは言わせないぞ!」
「そうだよ、僧侶様。それで許してもらえるなら、サキちゃんに短剣くらい買ってあげなよ」
ユナはサキの後ろに立ち、笑顔で俺をチラ見している。
(……なっ!? ユナッ! お前だってセドラに告白するよう促してたのにっ! この裏切り者!)
──しばらく街を歩き、鍛冶屋に到着する。
「いらっしゃい!」
俺達に声をかける大柄の男性。太い腕、恰幅のいい体格、鍛冶屋というイメージがピッタリの男性だ。
「こんにちは」
「うん? 僧侶のお兄さんと魔女さんと、短剣の女性……? もしかして君達は、噂の空から現れた伝説の僧侶様ご一行かい?」
「えっと……、そうです。というか俺達、そんな噂の存在になってるんですね」
「お会いできて光栄なことだよ! 俺はこの鍛冶屋の店主『カルバス』だ。おーい! 『フィーグ』! ちょっとこっちに来ーい!」
「何ー!? お父さーん!」
店の奥にある工房から、帽子を後ろ向きにかぶった十五歳くらいの少女が現れた。作業着姿で、職人らしいサバサバとした印象の女性だ。
「あら、お客さん? いらっしゃい」
「フィーグ、こちらは噂の僧侶様ご一行だ」
「えぇ!? あの空から現れた伝説の勇者様! ……かと思ったら僧侶だったっていう噂のっ!?」
(いや……、事実だからいいんだけど、そう言われると何だか切なくなるっ!)
「……ええ、テルアキです。こちらはユナとサキ。よろしくお願いします」
こうして俺達はグリエール鍛冶屋の親子、カルバスとフィーグに出会うのであった。




