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伝説の勇者様!? ……いえ、補助職の僧侶です  作者: 田山照巳
第五章 修行僧の街グラチネ 編

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第三十五話 セドラとサキ

──俺達が魔物との戦いを終えると長老とセザムがやってきた。


「セドラよ、見ておったぞ。見事な戦いぶりであったな」

「長老!? あ、ありがとうございます! あと、セザム寺長、上級僧認定試験を途中で投げ出してしまい申し訳ありません」


「セドラ、何を言うんだ? これほどの魔物の気配に気づかず試験を続けていたら、最初からやり直させていたぞ」

「そうじゃよ、セドラ。試験を中断する判断も含め、お主は上級僧の要件を満たしておる。本日をもって、お主を上級僧に認定しよう」


「ほ、本当ですかっ? 長老!?」

「よかったな! セドラ!」


「テルアキさん、ありがとうございます!」

「よかったね、セドりん! ほら、サキちゃんもセドりんにお祝いの言葉をかけてあげなよっ」

「いや、アタシは別に……」


 ユナは、照れのせいで素直に祝いの言葉をかけられないサキの背中を押し、魔法を唱える。


「ムーヴ!」

「どわっ! ユナ!? 何するんだ!?」


 ユナはサキにムーヴをかけ、強制的にセドラに抱きつかせた。


「わわわっ!? サ、サキさん!?」

「ち、違うんだセドラっ! これはユナが!?」


 照れながらもセドラとサキは間近で見つめ合う……。


「……セドラ、よかったな。おめでとう」

「サキさん……、ありがとうございます」

「ほっほっ。結構結構。若いというのは素晴らしいのう」

「わわっ!」


 長老の一言で我に返り、セドラとサキはすぐに離れた。


「それにしても、テルアキさん、魔法の力は凄いのですね。先ほどの魔法を交えたサキさんとの連携技に名前などはあるのですか?」

「うん? 技の名前か? そうだな、考えないといけないな」


 俺の台詞にすぐさまサキが反応する。


(……なっ!? テルアキとユナに名前なんか考えさせたらとんでもないことになるっ! 何とか阻止しないとっ!!)


「……な、なぁ、テルアキ? セドラにとっては初めての連携技だしここはセドラに名前を付けてもらうのがいいんじゃないか?」

「それもそうだな。セドラ、サキとの記念すべき連携技だ。カッコイイ名前を付けてくれよ」

「ええっ!? 私が名付けていいのですか!?」


(よしっ! うまくいったぞ。セドラのネーミングセンスは不明だが、テルアキとユナよりはマシだろう……)


 サキはホッと安堵の表情を見せる。その隣で独り言を言いながらセドラが考え込む。


「私とサキさんの思い出の技だし……、二人の熱い想いが詰まった感じがいいですよね……、ブツブツ……。よしっ! 皆さん、技の名前が決まりましたよ!」

「おぉ! 決まったか!? どんな名前だ?」


 穏やかな期待の表情でサキが問う。


「私とサキさんの記念すべき初めての連携技の名前は……」

「技の名前はっ!?」


「技の名前は……


『ふたりのエクスタシー』!!


 ですっ!!」


(注:『エクスタシー』 → 快感が最高潮に達して無我夢中の状態になること)


(……なっ!?)


 サキは目を点にして硬直した。そして数秒後、セドラを大声で問いただす。


「……待て待て待てっ! おいっ! セドラ! どんだけ恥ずかしい名前付けてんだよっ!! ……そのっ! 何て言うか! アレみたいになってるだろっ!? ……それっ!! 叫ぶのかっ!? 真剣な戦闘中にっ! その名前を叫ぶのかっ!?」


 サキはセドラの首元を掴みブンブンと振り回している。


「いやんっ! セドりん! そんな名前! 私、ゾクゾクしちゃうっ!」

「ユナ! お前は黙ってろ!」


「セドラ、お前らしい情熱的な名前だな。いいと思うぞ!」

「テルアキ! お前も黙ってろ!」


「ユナさん、テルアキさん、ありがとうございます。サキさん! 皆さんに喜んでもらえる名付けができてよかったです!!」


 セドラは嬉しそうな笑顔でサキを見つめる。その笑顔にサキは何も言えなくなった。


(……セドラ! お前もかっ!? ……お前もなのかっ!?)


 そして、サキは地面にしゃがみこみ、頭を抱えながら叫んだ。


「ああっ! もうっ! お前ら、最悪だーーっ!!」


──こうしてセドラとサキの連携技に情熱的な名前が付いたのであった……。その日の夜、俺とユナはいつもどおり竹林の小高い丘で魔法の熟練度上げをしていた。すると、セドラがやってきた。


「あ、セドりん。今日は試験お疲れ様」

「ありがとうございます。お二人も魔法の練習、精が出ますね」


「これは強くなるための日課だからな。ところでセドラ、観光客を迎える準備も一通り済んだし俺達は明日、この街を発つことにしたんだ」

「そうなのですね。それは寂しくなります。そして……、サキさんも行かれてしまうのですよね」


「ああ。でもセドラ、このままサキと離れ離れになっていいのか?」

「テ、テルアキさんっ!?」


「あまり横恋慕をする気はないが、伝えたい気持ちがあるならちゃんと伝えた方がいいと思うぞ」

「私もそう思うよ。サキちゃん、セドりんの素直な気持ち、聞きたがってると思うなぁ」


「そ、そうでしょうか?」

「ああ。明日には街を出てしまうのだから、お前の真っ直ぐな気持ちを伝えてみろよ」


「うん。私も応援してるよ」

「わ、分かりました。……頑張ってみます」


 こうして俺とユナはセドラを残し、竹林の丘を後にした。


「僧侶様っ! 明日のセドりん、楽しみだねっ!」

「何だか嬉しそうだな。でも興奮して二人の邪魔するなよ」

「分かってるよぉ」


──出発の朝を迎える。街を出る俺とユナ、サキを皆が見送りに来てくれた。長老、セザム寺長、セドラ、そしてセドラの同僚達数名だ。


「テルアキよ、世話になったな。この街のために諸々考案してくれたこと、感謝しておるぞ」

「テルアキ君、ユナ、サキ。皆、元気でな。体が疲れたらいつでも温泉に入りにくるといい」

「長老、セザム寺長、お世話になりました」


 俺達が別れの挨拶をしていると、セドラが複雑な面持ちで前に出てきた。


(……来たっ! セドりん!!)


 ユナは両頬に手を当てて興奮を抑えられないでいる。セドラは深呼吸し、サキに声をかける。


「サ、サキさんっ!!」

「わわっ! びっくりするだろ。……いきなり大きな声を出すなよ」


「サキさん! あのっ、お伝えしたいことがあります!!」

「えっ? ……な、何だよ……」


 サキはセドラの様子で物事を察し、照れながらセドラと向き合った。その様子を周囲の全員が静かに見守る。


「サキさんっ! 私はっ、私はっ!」

「な、何だよ? はっきり言えよ」


(セドりん! 頑張れっ!!)


 ユナを含め、皆がセドラを応援する。そして、セドラは一瞬間を置いた後、耳を疑う信じられない告白をした。


「私はっ! あなたとっ……! ○○○(アノ行為)をしたいですっ!!」


(……なっ! 何っ!? セドラ! なんてことをっ!!)


 俺とユナは時が止まったかのように硬直したが、セドラの同僚達の反応は対照的だった。


『おぉ! セドラッ! よく言った!!』

『セドラ先輩! カッコイイですっ!』


(ええっ!? 同僚の修行僧達は称賛して喝采してるっ!?)


 俺とユナ、長老とセザムはセドラの告白に凍りついていたが、同僚の修行僧達はセドラの告白をやんややんや……とはやし立てていた。セドラもその喝采に、手を振り応えている。一方、サキは顔から火が出るほど真っ赤になり、下を向いた。両手を強く握り締め、プルプルと震えている……。


「おい、セドラ……。これはアタシに対する嫌がらせか? それとも何かの罰ゲームか?」

「えぇっ!? 嫌がらせだなんて、とんでもない!」


「……じゃあ、今のは一体何なんだ?」

「それは……、サキさんが旅立つ前に私の真っ直ぐな気持ちを伝えた方がいい! ……って、昨夜テルアキさんがっ!」


「ちょちょ! ちょっと待て! セドラ! 何でそこで俺の名前が出るんだよっ!?」

「だってテルアキさん! 昨夜、私にアドバイスをくれましたよね!? サキさんに真っ直ぐな気持ちを伝えるべきだって!」


 サキが恐ろしい顔つきで俺を睨みつける……。


「ほぅ……。つまりこうなったのは全てテルアキのせいなんだな」

「……ちょ、ちょっと待て! サキ、違うぞ! 今、お前はきっと、……何か壮大な誤解をしている!!」

「あぁっ!? 何が誤解なんだよっ!?」


 サキの怒りに満ちた表情に、俺はたまらず走って逃げ出した。


「あっ! 逃げるなっ! 待てコラーーッ!!」


 走って逃げ始めた俺に、サキは狙いすまして矢を放つ。


「わっ! バカッ! 本気で狙うな! お前の弓矢は当たるんだぞ!」


 サキの矢が、俺をめがけて的確に何本も飛んでくる。俺は矢を避けられず、とっさに防御の壁を出した。


「プ、プロテクトウォール!」


……バチーンッ!


 防御の壁で、狙いすまされたサキの矢が弾かれる。


「当たり前だろっ! 本気で狙ってるんだよ! 逃げるな! 待てーっ! バカヤローッ!!」

「あっ! 二人とも待ってー! 皆さーん! お世話になりました! お元気でーっ!!」


 ユナが街の皆に手を振りながら俺とサキを追いかける。セドラは走ってゆく三人の姿をしばらく眺めていた。


(サキさん! どうかお元気で!)


 そして、セドラの告白から一部始終を見ていた長老とセザムは、小声で話し合っていた……。


「長老、先ほどのセドラの告白と賞賛する修行僧達の反応……、ご覧になりましたか?」

「……うむ」


「もしかして……、この街から若い女性がいなくなったのは、彼らの異性に対するアプローチ方法に問題があったのでは?」

「……うむ。セザムよ。見習い僧の修行内容に『異性との接し方』という項目を追加する必要がありそうじゃの……」


──こうして長老とセザムはこの街が抱える「嫁不足問題」の本質を垣間見たのであった。そして俺達はグラチネの街を発ち、鉱物資源が豊富な火山近くの城塞都市『グリエール』へ向かってゆく。

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