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伝説の勇者様!? ……いえ、補助職の僧侶です  作者: 田山照巳
第五章 修行僧の街グラチネ 編

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第三十三話 小娘よりも

──ミエルとランティーユ、大人二人のグラチネ観光体験が始まった。


 一日の予定は、午前中に本堂での読経見学、体操体験、街と竹林の散策を行い、その後「汲み上げ湯葉」の昼食をとる。午後は修行僧の格闘訓練を見学し、温泉に入った後、夕食を取りながら感想を聞く……という流れだ。


 まず、本堂で荘厳な雰囲気の中、読経を見学する。ミエルは静かに瞑想を始め、気持ち良さそうな表情をしている。すると、集中するミエルの体から冷気の渦が出はじめた……。


「ちょっ!? ミエルさん! ダメッ!」

「あら、ユナちゃん、ごめんなさい。ついうっかりして……」


(いやっ! ついうっかりで、辺り一帯が氷漬けになるところだったぞ!?)


 また、ランティーユも穏やかに瞑想していたが、見学が終わり、立ち上がろうとした時に足が痺れてよろめいた。咄嗟にセドラがランティーユの体を受け止めたが、美人の体に触れる姿を見た周囲の修行僧から殺気じみた視線がセドラに集まった。


(皆!? 今のは不可抗力ですから! そんな目で見ないでくださいっ!)


 続いて太極拳のような体操体験は、ランティーユが持ち前の身体能力で美しくこなす姿に、周囲の修行僧達が全員見とれていた。今度はミエルが体操中によろめいた。セドラがすかさず体を支えると、またしても修行僧達から矢のような視線が突き刺さった。


(……なっ!? 私はよろめく女性を手助けしているだけなのに、何だか今日は私の敵が増えているような気がしますっ!)


 街と竹林の散策はいい雰囲気で問題なく終わった。昼食の『汲み上げ湯葉』はミエル、ランティーユともに大いに感激してくれた。俺は食事をしながら、二人に意見を聞く。


「ミエルさん、ランティーユさん、お疲れ様でした。午前中の体験は如何でしたか?」

「テルアキ君、とっても楽しい体験をさせてもらっているわ」


「テルアキ殿、各体験も街の様子も、そしてこの料理も魅力的です」

「そう言ってもらえると嬉しいです」


 続いて午後の日程が始まる。格闘訓練場ではセザム寺長が訓練を指導していた。すると、ランティーユは見学しながら体を小刻みに動かし始めた。その様子を見てミエルが声をかける。


「うふふ、ランちゃん、我慢できないみたいね。ちょっと訓練に混ぜてもらったら?」

「ミ、ミエりん……、私は別に……」


 その会話を聞いてセドラが動く。


「ランティーユ殿、貴方が武芸に精通していることは分かります。セザム寺長に許可を貰いますので、どうぞご参加ください」

「いいのかっ? セドラ殿!? では、お言葉に甘えます」

「うふふ。ランちゃん、嬉しそうね」


 セドラがセザム寺長の元に駆け寄り、OKの合図をした。ランティーユがゆっくりと訓練場に進む。一般観光客の雰囲気から鋭い騎士の雰囲気に変わり、見ているこちらにも緊張が走る……。


 まず、セザム寺長が一人の中級僧を選び、ランティーユと組み手をさせた。


『はぁーーっ!』

「たぁーっ!!」


 ランティーユは中級僧の先手をかわし、二手目、三手目も鮮やかに受け流し、そして隙を見て有効打を叩き込んだ。


……バシッ!!


『ぐわっ!!』

「そこまで!」


 中級僧が倒れるとセザムが制止に入った。


『おぉぉー!』


 周囲の修行僧達から歓声が上がる。


「さすがは騎士団長殿。見事な体さばきですね。では、上級僧クラスの相手もお願いします。セドラ、お前はあと一回の試験合格で上級僧であったな。上級僧に相当する実力者として、ランティーユ殿のお相手をしなさい」


「わ、分かりました。ランティーユ殿、いや、騎士団長殿、お手合わせ願います」

「では僭越ながら、よろしくお願いします」


 先ほどの中級僧とは異なり、周囲が重く張り詰めた雰囲気に包まれる。そして激しい攻防が始まった。どちらも引けを取らず、見事な攻防を繰り広げる。


……バババッ!!


『おおぉーーっ!!』


 周囲から大きな歓声が上がる。激しい二人の組手を見ていたサキは思わず声を上げる。


「あの騎士団長! 武器も持たずにあんなに戦えるのか!? それに……、セドラも凄い動きだっ!」


(あの二人に比べたらアタシの攻撃力なんてまだまだだな。もっと強くならないと……)


 ランティーユとセドラは組み手を終え、互いに健闘を讃え合った。周囲からは大きな歓声と拍手が起こった。


 続いて温泉に向かう。男性用、女性用、家族貸切用に分かれた温泉だ。俺とセドラは男性用、ミエルとランティーユは女性用、サキとユナは家族貸切用の温泉に別れて入った。三つの温泉は距離が近く、静かにしていれば隣の温泉から聞こえる声も届く。


 俺がセドラと湯に浸かっていると、親子パンダが緩やかな川の流れを渡って温泉の方にやってきた。


「アネット! タン!」


 セドラが声をかけるが、親子パンダは三つの温泉をキョロキョロと眺めた後、俺達を無視して女性用の温泉の方に向かった。


(あの二頭めっ! とことん可愛げのない奴らだなっ! いや、むしろ好都合か? ランティーユさんやミエルさんにイタズラして、返り討ちに遭ってしまえ!)


 俺の期待をよそに、親子パンダは女性用の温泉の前で立ち止まりアピールするように可愛く鳴いた……。


「グゥー」

「ムゥー」


「見て、ランちゃん! 可愛い親子パンダよ!」

「本当だな、ミエりん。ほらっ! こっちにくるか? 一緒に入ろう」


 誘うランティーユに戸惑う様子を見せた親子パンダは照れたように、そそくさと家族貸切用温泉に向かって行った。


「あっ、行っちゃったね、ランちゃん。この街の名物、パンダと一緒に温泉入れるかと思ったのに」


 次に親子パンダの存在に気づいたのはサキとユナだ。


「ああっ! あの二匹! 現れたなっ!!」

「うん、また変なことしたら! 今度は魔法撃っちゃうよ!」


 親子パンダは入浴するサキとユナの姿を確認し、身振り手振りを交えて何かを相談しているようだ。ユナがそのやり取りを想像で翻訳する。


「うん? ユナ? あいつらのやり取りが分かるのか?」

「何となくだけどね。えっと? なになに……?


『こっちの色気がない小娘二人よりも、あっちの美人な二人の方が胸が大きくてスタイルいいから、一緒に温泉入るならあっちにしよう!』


……って言ってる!?」


 親子パンダはユナが翻訳した内容にコクコク……と頷きながら、サキとユナに向かって挑発的、かつ、ふざけたポーズを取っている。


「なっ!? 美人じゃなくて悪かったなっ! 上等だ、コノヤロー! 今度こそとっちめてやる! 表に出ろっ!」

「サキちゃん! ココ、ほとんど外だよっ! ……それにしても! 色気がない小娘って言った!? つくづく頭にくるパンダちゃん達!!」


 怒る二人を尻目に、親子パンダはミエルとランティーユが入っている女性用温泉へ戻っていった。


「グゥー」

「ムゥー」


「あら、戻って来たのね。一緒に入る?」


 両手を広げて迎えようとするミエルに、子パンダのタンが近寄る。ミエルの胸に抱かれ、甘えるような可愛い声をあげる。


「ムゥー、ムゥー……」

「あら、そこはダメよ。くすぐったいっ」


 次に、ランティーユが親パンダのアネットを近くに誘う。


「そちらの大きな方、こっちにくるか?」

「グゥー……」


 アネットはランティーユの側に近寄り、ランティーユの腰回りから胸にかけて自分の体を擦り寄せた。


「ふふ、くすぐったいぞ。お主、女性が好きなのか? はははっ」

「グゥー、グゥー……」


 アネットが精一杯甘えた声を出す。女性用の温泉から聞こえるミエルとランティーユの声を、俺は男性用温泉から、サキとユナは家族貸切用温泉から聞いていた。俺、ユナ、サキは同じことを考える……。


(あのエロパンダどもっ! 絶対ワザとなついたフリしてるっ!!)


 温泉を出て、夕食の時間となる。夕食は長老も同席した。ミエルとランティーユは今日の感想を伝えた。二人とも大いに満足したようだった。休憩所や甘味処を増やしてほしい点や、観光客向けに飲酒できる店が欲しい点など、いくつか有意義な提案も得られた。


 また、ランティーユはこの街の綺麗な風景や温泉で心身ともにリラックスできる環境に満足し、ロティール王国騎士団員の保養場所として定期的に利用すると言ってくれた。王国騎士団の魔法隊が『ムーヴタウン』で送迎すれば移動距離の問題もなくなるため、ロティールとグラチネ間の往来は増えることになりそうだ。


──こうしてミエルとランティーユの観光体験は無事に終わった。


「皆さん、今日はお疲れ様でした」


 セドラは皆を見送り、帰宅しようとすると同僚や身内の修行僧に取り囲まれた。


「あれ? 皆、どうしたのですか?」

『おい、セドラ! お前だけあんな美人達の体に触れるなんてズルいぞ! 』


『セドラさん! あの時……、わざと女性の体をたくさん触ってましたよね!?』

『僕も見ましたよ! セドラさんは自分の肘を、ワザと女性の胸に押し当てるようにしてました!』


「……なっ!? いやっ、誤解ですよ! そんなことするはずがないでしょうっ!?」

『問答無用だ! こっちに来い!』


『そうですよ! セドラさんばっかり、ズルいですっ!』

「誤解です! 私は無実です!!」


……シュタッ!


 セドラは修行僧達の包囲を飛び越え逃走した。


『あ! 待てーーっ!!』

「ひぃぃーーっ!」


──こうしてこの夜、セドラは修行僧達による嫉妬の包囲網に深夜まで狙われたのであった。

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