第二十三話 サメ退治(後編)
──俺は巨大サメを作戦どおり退治したが、その後に現れた新たな大サメと戦っている。
「オリオル! 頼みがある! 協力してくれるか!?」
「クゥーー!」
「よしっ! まずスピードの魔法を使ってお前の素早さを上げるぞ。次に俺が魔法の壁で大サメを受け止める。その隙にお前は大サメを下から海上へ突き飛ばしてくれないか?」
「……クゥッ、クゥッ??」
(ちょっとややこしかったかな? さすがに分からないよな。でもとりあえず、スピードの魔法はかけてみるか……)
俺はオリオルにスピードの魔法をかけた。オリオルの白い身体が魔法の効果で輝きに包まれる。
「クゥーーッ!!!」
「ははっ、どうだ? 体が軽いだろ?」
俺は、スピードがかかった状態でもう一度オリオルに、下から大サメを突き飛ばしてくれるよう、身振り手振りも交えて伝えた。
「クゥッ! クゥッ!」
オリオルは首を縦に振り、嬉しそうに素早く海中に潜っていった。
(……伝わったのかな? まぁ、ダメなら皆が来るまで防御を続けるだけのことだ。それより、スピードとプロテクトウォールの同時撃ち、消耗に注意だな)
すると、大サメの背ビレが海上に現れ、また俺を目指して突進してくる。俺はオリオルにかけたスピードを維持しつつ、プロテクトウォールを唱える。
「何度来ても同じだ!」
……ゴゴゴッ!
物理防御の壁が大サメの牙を受け止め、その動きが止まる。
「オリオル! 今だ!!」
「クゥーーッ!!」
……ドーンッ!!
スピードの効果で素早さを増したオリオルは、猛スピードで海中から大サメに体当たりした。大サメの巨体が、海上十数メートルの高さまで突き飛ばされる。
一方、銛を防波堤に置いたユナは港を出た漁船の上に合流し、サキとその様子を見ていた。
「テルアキの奴! オリオルと何かしてるぞ!? あの白い光……、スピードをオリオルにかけたのか? でも、防御の壁も出してたぞ。魔法を二つ同時に撃てるのか?」
「うん、僧侶様が前に言ってた。魔法を二つ同時に撃つことは可能だよ。でも、消耗が激しいから、何度もやったらダメだって」
「あいつ!? そんな隠し玉を持ってたのか!? でも、何度もできない魔法の同時撃ちをやってるのなら、……それなりにヤバイってことだな」
(僧侶様、お願い! 無理しないでよっ!?)
続いて、俺は攻撃魔法を唱える時間を稼ぐため、空中の大サメに向かってムーヴを唱え、さらに上空へ飛ばし上げた。
……ブーンッ!
そして俺は、両手を空中の大サメに向けた。まずスピードを使って左手の上に青白く光る霧のような魔法効果の塊を作り、大サメに向けて右手で狙いを定める。
「さぁっ! 俺のとっておきを見せてやる! エアー!!」
……バシュッ!!
右手から放たれた空気の刃はスピードの魔法効果の塊を通過して数倍の速さになり、落下する大サメの尾部を捕らえた。
……スパーンッ!!
「ギギャァ!!」
大サメの尾部は切断され、そのまま海面に向けて落下してくる。
(よし! 狙いどおりだ! でも、思ったより鋭く切れたな……。消耗が激しくてキツイが、これなら胴体の中央にもう一発撃てば倒せる! ……あと一発だけ!)
漁船の上からその光景を見ていたスキーユ、クロビスが驚きの声を上げる。
「テルアキ君!? この状況でそんなことができるのっ!?」
「テルアキッ、お前はなんて奴だ!」
その言葉を聞き、ユナが不思議そうに尋ねる。
「スキーユさん、どういうことですか? 魔法で空に投げ飛ばして攻撃するのが凄いのはわかるけど?」
「ユナちゃん、サメっていうのはね……、泳ぐ時は尾ビレを動かして推進力を作るの。つまり、尾ビレを尾部ごと切り落としてしまえば、サメはほとんど泳げないわ。テルアキ君はきっとそれを知っていて、後で合流する私達が戦いやすいように尾ビレがある尾部を正確に狙ったのよ!」
(ええっ!? 僧侶様、凄いっ! この非常事態でもちゃんと考えて的確な攻撃をするなんてっ!)
尾部を切り落とされた大サメが落下してくる。俺は攻撃魔法を唱える時間を稼ぐため、もう一度、空中の大サメに向かってムーヴを唱え上空へ飛ばし上げた。
……ブーンッ!
(……ぐっ、消耗がっ! 体が重い!? ……でもっ、あと一回だけ!!)
俺は歯を食いしばり、もう一度両手を空中の大サメに向けた。先ほどと同様、スピードを使って左手の上に青白く光る霧のような魔法効果の塊を作り、大サメの胴体中央に向けて右手で狙いを定める。
「これで終わりだ! エアー!!」
……バシュッ!!
スピードの魔法効果で威力を増した空気の刃が大サメの胴体を貫通し、大サメは消滅した。
「はぁ、はぁ……やったな。だが、さすがにちょっと無理したかな」
俺は小舟の上で膝と両手をついてかがんだ。その様子を心配したのか、オリオルが俺の顔に頬をすり寄せた。
「クゥーー、クゥーー……」
「はは、オリオル、心配してくれるのか? ありがとな。でも大丈夫だ」
俺はオリオルの頭を撫でながら礼を言った……が、オリオルの首に傷があるのを発見した。大サメと揉み合った時に怪我をしたようだ。
「オリオルッ!? お前、怪我してるじゃないか!? すぐ治してやるからなっ。ヒール!」
オリオルの傷を優しい光が包み込み、傷は癒えた。
「クゥーーッ! クゥーーッ!」
治療の礼を言うように、オリオルがさらに顔を擦り寄せる。
「はは、やめろって! あっ! お前、背中にも傷があるぞ。待ってろ、そっちも治してやるから……」
俺は立ち上がり、手を掲げてオリオルの背中にヒールをかけようとした。……が、しかしその時。
「……いくぞ。……ヒール」
(……あれ? ……何だこれ? あ、体に力が入らない……。視界も暗くなって……えっ……?)
俺は全身の力が抜け、意識を失ってしまい、そのまま海に落ちた。
……ザバーンッ!!
「クゥーーッ!!」
オリオルが海に落ちた俺をすくい上げ、背中に乗せる。
「皆っ! 大変っ!! 僧侶様が海に落ちたよ! なんか、気を失ったみたいだった!!」
驚くユナの声に気づいたオリオルは、俺を背中に乗せたまま、近くに来たクロビス達の漁船へと泳いでいった。
「クゥ-ーッ! クゥーーッ!」
「テルアキッ! 大丈夫かっ!?」
「僧侶様! 今、こっちに乗せるから! ムーヴ!」
ユナは慌ててムーヴを唱え、俺をオリオルの背中から漁船の上に移動させた。横たわる俺の隣で、ユナが大きな声で叫ぶ。
「僧侶様っ! 僧侶様っ! 起きてよ!! 嫌ぁーーっ!!」
取り乱すユナを横目に、ユイトルとクロビスは冷静な行動をとる。
「取り乱すんじゃないわよ、ユナ。そこをどきなさい。クロビスお姉ちゃんは胸と腕をお願い。私は口を確認するわ」
……そう言うと、ユイトルとクロビスは手慣れた様子で、呼吸や心拍、脈拍の確認を始めた。
「ユイトル、こっちは大丈夫だ。脈も心臓の鼓動も正常だ」
「呼吸の方も問題ないわ。ただ気を失っているだけみたいね」
「ユイトルちゃん、僧侶様は、大丈夫なの?」
「……ええ。これなら人工呼吸も心臓マッサージも必要ないわ。しばらく安静にしていれば大丈夫よ」
(……人工呼吸!? そういえば、ユイトルちゃん、真っ先に僧侶様の頭側に!?)
ユナの戸惑った顔に気づき、ユイトルはため息混じりに言った。
「……はぁ、全くっ! ユナ? あんたは何を発情してるのよ。人工呼吸も心臓マッサージも真面目で大切な救命行為よ。漁をしている私達は、少なからず経験しているわ」
「ユ、ユイトルちゃん!? べ、別に私はっ……」
「まぁ、いいわ。テルアキは気を失ってるだけみたいだから、このまま部屋に運んで休ませるわよ」
「うん、ユイトルちゃん……、ありがとう」
港に戻り漁船を岸につけると、皆の歓声が漁船を迎える。長い間この街を悩ませてきた巨大サメを退治できた喜びに皆が盛り上がっていた。クルベットは俺が気を失って倒れていることを心配して看病の指示を出す。
「カルマール、ユイトル、テルアキ君の看病を頼むぞっ! 彼に何かあっては、祝杯も上げられないからなっ」
「分かりました! クルベットさん」
クルベットも俺に付き添おうとしたが、興奮気味に喜ぶ街の皆に連れられて俺の側を離れていった。カルマール、ユイトル、ユナ、サキは俺を部屋に運び、ベッドに寝かせた。
──こうして俺は、目を覚ますまで皆の看病を受けるのであった。




