第二十二話 サメ退治(前編)
──作戦会議から五日が経過し、作戦実行の当日となった。皆は準備を終え、港に集合する。俺は作戦の段取りを皆と確認する。
「皆さん、いよいよ作戦決行です。よろしくお願いします! 念のため、作戦の段取りを確認します!」
「テルアキ君、こういう確認は大切だ。よろしく頼むよ」
「はい、クルベットさん。まずは、皆さんの待機場所を確認します。ユナは、街の象徴である大きな銛を防波堤の上まで運んで待機。三姉妹の皆さんも、サンダーを撃てるように防波堤の上で待機です。俺は小舟で、ここにある猛毒の餌を防波堤の出口まで運んで待機します」
「ええ、わかったわ、テルアキ君。いつでもサンダーを撃てるように構えておくわ」
「スキーユさん、よろしくお願いします。皆が待機場所に着いた後に俺は、これまで毎日続けてきた手順で、ムーヴを使って毒入りの餌を海へ投げ入れます。巨大サメが餌を飲み込んで麻痺状態になったのを確認した後、俺は巨大サメに近づいてムーヴで身体を海面上に浮かせます」
「その次は私だね、僧侶様」
「そうだ、ユナ。銛を巨大サメの身体から三十メートルの高さに垂直に浮かせて、魔法を解けば、あとは銛がズドンッ! ……と落ちて、串刺しのでき上がりだ」
「うん! 目印の縄と重りをしっかり確認して正確に浮かせるね!」
「巨大サメが銛で串刺しになったら、三姉妹の皆さんとユナは巨大サメが消滅するまでサンダーを撃ち続けてください」
「巨大サメの消滅が確認できたら、俺はムーヴで銛を回収します」
「……おおっ、テルアキ君、あの銛をちゃんと回収してくれるのだな。それはありがたいことだよ」
「勿論です、クルベットさん。あれは街の象徴であり、毎年お祭りで使う大切なものですから。使い捨てにはできませんよ」
「テルアキ君、ありがとう!」
「あと、クルベットさんとサキには双眼鏡で周りの見張りをお願いします。不測の事態が起きたら知らせてください。……では皆さん、よろしくお願いします!」
段取りの確認を終え、俺が小舟に乗り移ろうとすると、首長の海獣オリオルが姿を現した。
「クゥーー、クゥーー」
防波堤に向かう前に、オリオルに気づいたスキーユとユイトルが寄ってくる。
「オリオル、どうしたの?」
「クゥーー、クゥーー」
「ふーん、そういうことね。テルアキ君、オリオルが小舟を押してくれるみたいよ」
「えっ、そうなのか?」
「きっとオリオルも、大好きな海を守る戦いに協力したいのよ。毎日、銛を落とす練習と、巨大サメに餌を投げ与えるのを見ていたものね。自分も何かしたい! ……って、うずうずしてたんじゃないかしら?」
「……そっか。オリオル、ありがとなっ! よろしく頼むよ」
「クゥーーー!」
オリオルは美しい白い頬を嬉しそうに俺の顔にすりつけ、俺もそれに応えるようにオリオルの頭を撫でた。
──こうして各自が持ち場に移動した。俺は皆の準備が済んだことを確認し、作戦開始の合図をする。
「皆さん!! 準備はいいですね!? 始めますっ!!」
俺はまず、ムーヴを使って毒入りの餌を海に落とした。
「さぁっ! 食事の時間だぞ!!」
……ポチャンッ!
血と肉の臭いに誘われて巨大な影が近づいてきた。
……ザブーーンッ!!
巨大サメはいつものように大きな口を開け、毒入りの餌を丸呑みにした。
(よしっ! 飲み込んだな!?)
その数秒後、巨大サメはビクビクと痙攣し、海面近くでもがき始めた。
……グゴゴゴッ!
「今日の餌は猛毒『トルペ茸』入りの特製だ! ……シビれる味がたまらないだろっ!?」
巨大サメの痙攣が次第に弱まり、動きが止まり始めた。俺は頃合いを見計らってムーヴを使い、巨大サメの身体を海面上に浮かせた。そして、ユナの方を向いて手で合図を送る。
「オッケー、僧侶様! ……ムーヴ!」
ユナは、重さ二百キロを超える大きな銛を目印の縄と重りを確認しながら、巨大サメの真上三十メートルの位置まで正確に浮かせた。
「さぁ! 刺さりなさい!!」
ユナはムーヴを解くと、大きな銛は加速しながら勢いよく落下する。
……ズドンッ!!
長さ三メートルほどの大きな銛は、半分以上が巨大サメの身体に突き刺さった。
「うまい具合に刺さったわね! クロビス、ユイトル、ユナちゃん、やるわよ!」
「ええ! スキーユお姉ちゃん!」
『サンダー!』『サンダー!』
『サンダー!』『サンダー!』
四人から同時に放たれた魔法の電撃が宙に浮いた串刺しの巨大サメを襲う。激しい閃光が巨大な身体を包み、深く突き刺さった銛を通して電撃が効果的に体内へ送り込まれる。
……ブオォォッッ!!
巨大サメが激しいうなり声をあげる。
「効いてるわ!」
「ええっ! このまま撃ち続けるわよ!」
『サンダー!』『サンダー!』
『サンダー!』『サンダー!』
四人はそのままサンダーを撃ち続けた。各自が四、五回撃った頃だっただろうか? 巨大サメは命が尽き、その身体は消滅した。
「やったぁ!!」
「おおぉっーー!!」
防波堤の四人と、港で待機していた皆から歓声が上がる。これまで見張りを続けていたクルベット、サキもこの時ばかりは歓喜に酔いしれ、見張りを怠っていた……。
「よしっ、巨大サメが消滅した! あとは、落下し始めた銛を回収しないとっ! ムーヴ!」
喜びも束の間、俺は落下し始めた大きな銛にムーヴをかけ、ユナ達がいる防波堤に向けて移動させる。
「あとは銛を運んで終わりだな。怪我人も出なかったし、怖いくらい順調に成功したな……」
俺は海に背を向け、防波堤に銛を置こうとそちらを見ていた。この時、気の緩みもあった俺は背後から近づく気配に全く気づいていなかった。
……ザバーンッ!!
(……えっ!?)
俺の背後から不意を突いて襲ってきたのは全長五メートルを超える大サメだ。海面からジャンプし、鋭い牙が俺に向かって飛びかかってくる。
(……しまった! 反応できないっ!?)
「うわぁぁっ!!」
大サメの鋭い牙が俺の上半身を捕らえようとしたその瞬間! 大サメの真横から大きな白い身体が飛びかかった。
……ドーンッ!!
「クゥーーッ!!」
「オリオルッ!?」
俺に向かって飛びかかる大サメを、オリオルは真横から体当たりで突き飛ばし、大サメとオリオルは揉み合いながら海中に消えた。二体はそのまま海中で揉み合った後、オリオルは海面に上がって俺の側に戻り、大サメは海中に姿を潜めた。
「オリオルッ! 今のは危なかった! 助けてくれてありがとなっ!!」
「クゥーー! クゥーー!」
(……はっ!? そういえば銛はどうなった? ムーヴは解いてしまったぞ!?)
防波堤の上からユナの声が聞こえる。
「僧侶様っ!! 大丈夫!? 銛のことは安心して! 私が防波堤まで運ぶから!」
防波堤の方を確認すると、ユナがムーヴを使って大きな銛を浮かせている。俺とオリオルの異変に気づき、銛の回収を続けてくれていたようだ。
「ユナ! ありがとなっ! そのまま銛を頼む! 俺はさっきのサメを何とかする!」
「えぇっ!? 何とかするって! 僧侶様! 一人で大丈夫なのっ!? 無理しないでよっ!?」
防波堤にいたクロビスも俺に叫ぶ。
「テルアキッ! さっきのサメ程度なら、私達が使える弓や銛の攻撃で退治できる! 漁船を出してそっちに行くから、それまで無理するなっ!」
「クロビスさん、分かりました! 警戒しながら様子を見ます!」
「スキーユ姉ちゃん、ユイトル! 二人も私と一緒に来てくれ!」
「勿論行くわ! テルアキッ! 無茶しないでよっ!? 発案者のアンタがやられたらっ!せっかく巨大サメを退治しても皆喜べないんだからねっ!?」
「ユイトル! わかったよ、ありがとな!」
「私も! 銛を防波堤に置いたらムーヴで漁船に飛び移ります!」
(様子を見るとは言ったものの、果たしてあの凶暴な大サメが大人しく俺を見逃してくれるだろうか?)
しばらく周囲を警戒していたが、案の定、サメの背ビレが海上に現れ、真っ直ぐ俺に近づいてくる。
「くそっ! そんなに俺を食べたいのかよっ!? だが、次はさっきみたいにいかないぞ。プロテクトウォール!」
……バーンッ!!
物理防御の壁が大サメの鋭い牙を受け止める。そして攻撃を防がれた大サメは、方向を変え、また海中に潜んだ。
「クゥーー!」
オリオルが心配そうに俺に寄り添う。
(あの大サメは、オリオルは襲わないんだな……。食べたいのは俺だけってことか。……そうだ! なら、試しにやってみるか!?)
俺はある作戦を思いつき、オリオルに言葉をかける。
「オリオルっ、頼みがある! 協力してくれるか!?」
「クゥーー!」
──俺はオリオルの協力を得て大サメを退治する方法を思いつき、試そうとするのであった。




