第十七話 港街ブレゼス
──俺達三人は山小屋を後にして、港街『ブレゼス』を目指していた。
「ところでユナ、サキ。ブレゼスってどんな街なんだ?」
「えっと、私は行ったことないんだけど、大きな川の河口にあって、稲作と漁業が盛んな街……って聞いてるよ」
「アタシは何度か行ったことがあるが、新鮮な魚料理がたくさんある印象だな。特に、名物の魚は『ザバ』……って言ったかな? 美味かったぞ」
「そうか。それは楽しみだな」
「うふふ。僧侶様、嬉しそう。お料理大好きだもんね」
「あとは、ブレゼスの海には『聖白の守り神』って呼ばれている真っ白で首が長い竜みたいな生き物がいるらしいぞ」
「ええっ? そんな生き物がいるの!?」
「何だ? ユナは知らないのか? 伝説みたいな感じで王国中の人間が知ってると思っていたぞ」
「守り神様なら、ぜひ一度拝んでみたいな」
「うん、私も会ってみたい!」
──俺達は正午前にブレゼスの街に到着した。街の入口には大きな銛がモニュメントとして飾られている。
「見て見てっ! 大きな銛が飾られてるよ。さすが港町だねっ」
「大きな街だな。……まずは街の代表者に会いに行こう。俺達が訪れることは、フリル大臣が事前に連絡してくれているからな。何かと便宜を図ってくれるそうだ」
「へぇ、さすが、空からやってきた伝説の僧侶だな。大臣が世話をしてくれるなんて、テルアキはVIPなんだな」
「まぁ、そう言うな。未だに『伝説の存在!』とか言われてもピンと来ないし、あくまで俺は俺だよ」
「そうだよ、サキちゃん! 僧侶様は、……心は一般庶民なんだからっ!」
(……いや、そう言われると急に特別感がなくなったような気がっ!)
──俺達は住民に街の代表者の所在を確認した。代表者は『クルベット』と言い、街の端にある港の辺りに住んでいるらしい。俺達は街の中を歩いて進んだ。
「うーん、潮風の香りに、魚屋さんが並ぶこの雰囲気! いかにも漁師町! ……って感じだね!」
「でも、アタシが前に来た時はもっと活気があったような気がするが……」
「確かに、街の雰囲気がちょっと寂しい気もするな……」
「ねぇ、僧侶様? もうお昼だし、私、お腹空いたよぉ」
「そうだな。代表に会う前に昼食をとろう。ちょうど目の前に食事屋もあるし」
「やったぁ! 私、名物のザバを食べてみたい!」
店の扉を開け、入店する。
「いらっしゃい。お客さん、三人? どこでも空いてる席でいいよ」
対応してくれたのは、頭にバンダナを巻いた、十五歳くらいの少女だった。愛嬌はなく、さっぱりとした印象だ。
「いらっしゃい。何にする?」
「俺達、ロティールから来たんです。オススメ料理は何かありますか?」
「なら、街の名物ザバにしなよ。焼きザバ定食三つでいいかい?」
「俺はそれでお願いします」
「私もっ! わーい、名物のお魚食べられるっ!」
「アタシもそれで」
「はいよ、用意するね」
しばらくして少女が料理を運んできた。こんがりと焼けた魚から香ばしい香りが漂う。
「んふっ! これ、美味しい!」
「これは美味しいな。脂も乗ってて身も柔らかくて。添えられた大根おろしと一緒に食べるとあっさりするから、いくらでも食べられるな」
「そりゃどうも、ありがとう。でも、近頃は海に魔物が現れて……、漁がまともにできない状況だからね。このままじゃ、街も寂れる一方だよ」
「そうなんですね。ところで店員さん、俺達はこの街の代表クルベットさんに会いたいのですが、どこにいるか分かりますか?」
「……えっ? クルベットさんならココから少し歩いたところの大きな家にいると思うよ。私の親、漁師長の『カルマール』と一緒にいるだろうから、食べ終わったら案内するよ」
「ありがとうございます。漁師長のお嬢さんだったんですね。俺はテルアキ、こっちがユナ、サキです」
「私はユイトル。呼び捨てでいいよ。敬語もいらないから、気軽によろしく」
食事を終え、ユイトルの案内でクルベットの家を訪ねた。家の中では数名の男女が集まり難しい顔で話をしていた。
「クルベットさん、お父さん、お客さんだよ」
「初めまして。ロティールから来ました、僧侶のテルアキです。こちらはユナ、サキです」
最初に挨拶をしてくれたのは、白髪混じりの背の高い男性だった。この街の代表、クルベットだ。
「よろしく。私がクルベットだ。大臣からの知らせで聞いているよ。君が伝説の僧侶様だね。ブレゼスの街へようこそ」
続いて挨拶をしてくれたのは、四十歳くらいの男性だった。がっしりとした体つきの漁師長、カルマールだ。
「初めまして。俺が漁師長のカルマールだ。娘の店で食事をしてたのかい? この街で採れた魚はどうだったかな?」
「ええ、名物のザバをとても美味しく頂きました」
「それはよかった。さて、私の娘三人も紹介しておこう。長女の『スキーユ』、 次女の『クロビス』、三女の『ユイトル』だ。」
長女は、長く綺麗な髪を後ろで束ねた、穏やかで優しそうな女性だ。
「スキーユです。漁全体の計画や経理等の事務仕事をしています。皆さん、よろしくね」
次女は短い髪に日焼けした肌で、元気で明るい印象の女性だ。
「私はクロビス。漁船に乗って漁をやってるよ。よろしくっ」
そして三女、食事屋から案内をしてくれた少女だ。
「改めて、ユイトルよ。私はお姉ちゃん達が採ってきた魚で食事屋をやってるわ」
「皆さん、よろしくお願いします。三姉妹の皆さんは、漁をするのはクロビスさんだけなんですね」
「いいえ、漁は全員できるわ。漁の技能はみんな一人前よ。でも普段は得意分野に分かれて仕事をしているの。私は事務仕事、ユイトルは料理ね」
自己紹介を終え、街の代表クルベットが話をする。
「テルアキ君、大臣からの手紙に『テルアキ殿は召喚の儀式で現れた伝説の存在。街で困ったことがあれば、彼の経験にもなるので何でも相談してみてくだされ』……とあるのだけど、これは本当かい?」
「……えっ!?」
(……いやいや、大臣! 連絡にそんなことを書いてたのかっ!?)
「俺にできることならやりますが……、でも俺はただの僧侶ですから大したことはできませんよ?」
「……なるほど。では、結論から伝えよう。近頃、海に現れるようになった街の漁を妨げる魔物……、巨大サメの退治をしてもらえないか?」
「えぇっ!? いきなり巨大サメの退治と言われても!」
「勿論、我々も協力する。まずは港で現状を見て欲しい。答えはその後で構わないから」
俺達は港に向かった。港から巨大サメを確認できるようだ。話をしながら歩いていく。
「ところでクルベットさん、この街に魔法書店はありますか?」
「あるにはあるのだが……、商品はロティールの魔法書店と同じみたいだよ」
「そうですか。では新しい魔法を覚えるのは次の街にお預けですね」
「ちぇっ、残念だね、僧侶様」
俺とユナはこの街で新しい魔法が覚えられることを期待していたが、どうやらそれは叶わないようだ。
「……さて、この辺でいいかな」
──港に到着する。防波堤の内側に漁船が多く停泊している。
「でも、巨大ザメの現状って、どうやって確認するんですか?」
「巨大サメは血と肉の匂いが好きで、エサを防波堤外側の海に落とせばすぐに現れるんだ。ちょうどあの辺……、海鳥が飛んでいるな。スキーユ、頼んでいいか?」
(頼むって? 海鳥を弓矢とかで撃ち落として、餌にする……のかな?)
「お父さん。私は今日、ずっと事務仕事をしてて疲れていますから……クロビス、次女のあなたがやりなさい」
「えぇっ? 私だって疲れてるのに! ユイトル! 妹のあんたがやりなよ」
「何でよっ? クロビスお姉ちゃんは漁に出てないんだから疲れてないでしょ!? 私は食事屋の仕事してたのよっ!?」
「はぁっ? 妹のクセに生意気だぞ!」
「何よっ!? そんな面倒臭がりだからいつまでたっても恋人のひとりもできないんでしょっ!?」
「それは関係ないだろっ!」
「二人ともやめなさい!」
「元はと言えばスキーユお姉ちゃんが悪いんでしょっ! お姉ちゃんこそ、いつまで独り身でいるつもりなのよ! 早くお父さんを安心させてあげたらっ!?」
「ちょっとユイトル! あんたっ! ……涼しい顔して痛いところをえぐるんじゃないわよっ!」
(何か、変な喧嘩が始まったぞ……?)
「三人とも止めろ! スキーユ! 父の命令だ。お前がやりなさい!!」
父の一喝で姉妹喧嘩は収まった。
「……仕方ないわね」
そう言うと、スキーユは前に出て両手を海鳥に向け、意識を集中し始めた。
……そして次の瞬間!!
俺とユナは目の前で起きた光景に驚愕した。
「行くわよっ! ……『サンダー』!!」
(……えぇっ!? ……ええぇぇぇっー!?)
──こうしてスキーユは海上を飛ぶ海鳥に向けて電撃魔法『サンダー』を撃つのであった。




