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未完の大魔導士――俺の近くでは何も完成しない――  作者: 勇者ヨシ君
第11章「大陸巡行――帰れない勇者」

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第194話「剣を流して撃つ」

 ガルヴァドの次弾は、塔の砲口からではなく、本人の足元から始まった。4つの魔力炉が順番に点灯し、巨体を前へ押す。黒鉄色の足が石段を砕き、約30メートルあった距離を3歩で半分まで詰めた。

 塔の砲撃で後衛を固定し、自分が直接守護線を壊すつもりだった。


「第1極、斧。守護盾を破断」

「来るぞ!」


 アルドは盾を構え直す。しかし、左腕の震えは既に約2センチメートル。ノアが決めた後退条件まで余裕がない。


「アルド、斧は直接受けるな! 右へ流して下がれ!」


 レイルが叫ぶ。


「後ろに封鎖柱があるんだ!」

「セレネが動かす!」

「移動可能ですよ!」


 セレネが地質層を起動し、封鎖柱を約1.5メートル後方へ滑らせる。アルドは守護線を捨てたのではなく、線そのものを後ろへ移し、盾を斜めにして斧を外へ落とした。斧刃が石床へめり込み、ガルヴァドの右上腕が一瞬止まる。


 残る3本が動き、槍はラガン、砲杖はノア、鎖剣はフィア。カインとリィナが左右から入る。リィナは借り物の片刃剣で槍の柄を押し、カインは鎖の節へ長剣を差し込んだ。


 完全には止められず、軌道を数10センチメートルずらし、後衛へ届く時刻を遅らせる。レイルは環刃短杖を左手に展開した。短剣に似た黒銀の杖骨。

 片側へ約25センチメートルの刃、鍔には三日月形の盾環。七環導杖(セプテムロッド)の杖頭とは細い接続線でつながり、左掌中央から通した魔力を短刃と砲身へ分ける。右腕は使わず、左足を前へ出し、ガルヴァドの砲杖とノアの間へ入る。


「魔導士が殺されに、のこのこ前へ来たか」

「後衛だとおもってなめるなよ?」

「武器が短い、そんなもので我の攻撃を防げるとでも思っているのか?愚かな劣等種よ」

「ハ、長さで受けるつもりはないがな」


 砲杖の側面が横薙ぎに振られる。魔法ではなく、3メートルの巨体が振るう金属杖だけで、まともに受ければ肋骨ごと砕かれそうだ。レイルは短刃を砲杖へ正面から当てず、刃元をわずかに傾けた。

 接触点を三日月盾へ滑らせる。金属同士が擦れ、左腕へ衝撃が走り、盾環の外側が砲杖を受け、そのまま腕の外へ逃がす。足裏へ小さな風圧を噴かし、自分の身体を半回転。

 砲杖はレイルの外套をかすめ、背後の石段へ打ち込まれた。


『偏流角、許容! 破断板、無事!』


 ニアの声。防御の終了姿勢で、環刃短杖の切っ先はガルヴァドの胸部へ向いている。レイルは左掌へ1つ目の【風弾(エア・ショット)】を無詠唱形成し、結着直前の魔法塊を【未完(ノット・コンプ)】へと保持した。

 2つ目を杖頭。3つ目を視界左下。4つ目を三日月環。

 昨日まで安定再現できた4件である。右腕を使わず、左半身と装備の位置だけで分ける。


4件保持(フォース・キープ)


 フィアが読み上げる。


「右腕の経路反応なし。左掌負荷、上昇中......」

「そのまま維持です。ノア、5番。セレネ、6番を同型で」


 ノアは既に形成を始めていた。


「命令される前から作っています。昨日と同じ受け渡しは行いません。今回は環刃短杖の排圧翼へ固定します」

「6番は杖頭外周へ置きます。レイルが受け取るのは発射直前です」


 セレネも答え、ガルヴァドは斧を石床から抜き、4本の腕を近距離用へ組み替えた。右上の斧を高く、左上の槍を低く。砲杖は引き、鎖剣をレイルの足元へ這わせる。


「止める術者。4極を一度に見ているな」

「見えているだけだ。全部は止められない」

「ならば、止める順を誤ってしまえ」


 槍が先に来た。胸を狙う直線。レイルは環刃短杖で触れず、右へ半歩ずれる。

 そこへ鎖剣が足首を狙う。左足を上げれば、斧が頭上から落ち、(避ける順を作られている。槍を右へ避け、鎖を跳び、斧を盾環で流す――その標準手順を読まれている)レイルは最初の槍へ近づいた。

 環刃短杖の杖骨を槍の柄へ当て、前へ滑る。槍先を避けるのではなく、柄の内側へ入る。鎖剣は足元を通り過ぎ、斧は距離が近すぎて十分に振り下ろせない。

 ガルヴァドは右下の砲杖を短く持ち替え、柄頭をレイルの腹へ突き出した。レイルは三日月盾で受け流す。今度の衝撃は、試作二号の設計値を越えた。


『破断板、右側に亀裂! まだ開いてない!』


 レイルの左肩が痺れる。ガルヴァドの暗赤色の目が、僅かに動いた。


「剣士ではない」

「知っている」

「魔導士。なぜ剣を持つ」

「詠唱中に、敵が待つ保証はない」


 レイルは砲杖を盾環の外へ流し、ガルヴァドの右下腕へ切っ先を向けた。ノアの5番が排圧翼へ接続される。


「第5形成、受け渡し可能!」


 セレネの6番が杖頭外周へ重なる。


「第6形成、同型。完成率88%」

「受け取る!」


 レイルが左掌の魔力を環刃短杖へ流す。5番と6番の結着直前を、ほぼ同時に奪う。右掌、左掌という分け方はできず、4件の自作魔法と2件の他者形成を、左半身と武器の各部へ識別する。

 左掌、杖頭、視界、盾環、右排圧翼、杖頭外周。6つの風圧が、それぞれ別方向へ進みたがっていて、耳の奥へ低い音が戻った。


「6件保持。時間開始!」


 フィアの声。ガルヴァドは後退しない。胸部の4炉を強くし、零距離からの砲撃を受ける代わりに、残る3本の武器でレイルを止めようとする。

 槍が左脇から、斧が右肩から、鎖剣が背後から迫る。リィナが斧腕へ飛びついた。借り物の剣を斧の柄へ当て、刃を押すのではなく、自分の身体をガルヴァドの肩へ回り込ませる。


「レイル、撃つなら今!」

「リィナが近い!」

「腕だけ狙って!」


 カインが槍の柄へ長剣を入れ、ラガンが鉤縄で鎖剣を引く。3人が作った隙間は1秒も続かず、レイルは環刃短杖の切っ先を、ガルヴァドの右下腕と砲杖の接続部へ向けた。


「未完記録、第1番から第6番。完成順、前から」


 1番、2番。短い風圧が砲身の軸を整える。3番、4番が重なり、三日月盾が外側へ広がる。

 5番の完成で右側破断板が折れ、盾環が腕の外へ開いた。


『安全破断! 射線維持!』


 6番。排圧翼と杖頭が同時に開き、反動を足元と長杖側へ逃がす。


「【未完重層風砲アンフィニッシュド・エア・チャージ】――連環解放(コンボリリース)!」


 6層の風圧が、零距離から右下腕へ突き刺さった。腕を吹き飛ばすほどではない。だが、砲杖の照準軸と肘関節を同時に外側へねじり、塔の砲口へ送られていた同期線を切った。

 右下腕が不自然な方向へ曲がり、砲杖が地面へ落ちたが、それでもガルヴァドは痛みで叫ばない。折れた腕を見て、即座に判断する。


「第3極、損耗74%。継続不能」


 腰の刃を左下腕で抜き、自分の右下腕を肩の近くから切断した。赤黒い魔力膜が断面を覆い、全身へ逆流しかけた魔力が切り離される。落ちた腕と砲杖が石床を転がった。


「第3極、廃棄。残る3極へ出力を移す」


 再生を待たず、斧と槍と鎖剣が動き、リィナたちはすぐ離れたが、レイルは6層発射の反動で左足が滑り、退避が遅れた。ガルヴァドの鎖剣が環刃短杖へ巻きつく。


「武器を捨てろ!」


 ロッテの声が通信へ飛び、レイルは親指側へ移された緊急解放環を押した。固定帯が外れ、環刃短杖が七環導杖の接続線ごと左手から離れる。鎖剣は武器だけを引き、レイルの腕は残り、リィナが背後からレイルの外套を掴み、石段の下へ引く。


「約束、守ったじゃん!」

「武器を捨てただけだ」

「それが大事なの!当たり前で簡単だけどなかなかできないこと!」


 レイルは地面へ膝をつき、左手を開閉し、痺れはあるが、指は動く。右腕への逆流もない。環刃短杖はガルヴァドの鎖に絡み、戦場中央へ引きずられている。

 盾環は外側へ開いたまま、短刃と砲身は残っており、ロッテの設計どおりに壊れ、使用者だけを切り離した。


「封鎖進行、71%!」


 セレネの声。ガルヴァドは3本腕になっても、出力を落とさない。むしろ残る炉が明るくなり、塔の3方向射線と同期する。


「右下腕、再生まで84秒。残る3極でこと足りる」


 切断された腕の断面から、赤黒い骨格が伸び始めた。6層砲撃で1本を止めても、戦闘は終わらず。それでも、塔の4方向同期は3方向へ減った。封鎖完了まで、残り約3分。

 アルドはひびだらけの盾を前へ戻す。


「時間は作れた。次へ行くぞ」


 守護線の後ろで、ノアとフィアは既に次の止め方を組み始めていた。

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