↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
解願師〜人の願いは呪いへと。最強の能力者に拾われた俺、同じ境遇の少女と世界のカラクリをぶち壊す~  作者: 一式鍵
第12章:悪人

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/109

12-06. 悪人

 夢……なのに、全身がバラバラになってしまいそうなほどの激痛が走っていた。


 そう、ここは夢だ。ということは、俺は気絶したのか。


 クラッドノウトがどうなったのか、今は知る(すべ)はない。だけど、俺が奴を倒せてないとすれば、ベスも、ヤミも危ない目に()う。早く戻らなくてはと思うのに……。


 薄暗い部屋の中に俺はいた。温度は感じないが、きっと蒸し暑い。小屋は隙間だらけで、そこから差し込む光が鮮烈に白かった。真夏の陽光と言っていいに違いない。


 ――意識が夢の中に移っていくにつれ、身体の痛みは消えていった。


 その狭い部屋の中に、少年が一人座らされていた。部屋の中央にある柱に、麻縄で縛り付けられていた。顔は()れ上がり、裸の上半身も背中も胸も、殴打の痕跡があった。


 これは、誰だ?


 俺は少年を観察しようと数歩近付いた。少年は譫言(うわごと)のように「殺してやる」と呟いていたが、その目はカッと見開かれ、部屋のドアを焼き切ろうとするかのように(にら)みつけていた。


 その時、ぼろぼろの木の扉が乱暴に開けられた。入ってきたのは三人の屈強な男たちだ。


「飯だ、ありがたく食え」


 男の一人が、スープの入った皿を少年の頭にぶちまけた。具なんて何も入っていない、ただのお湯……と言った方が良いのかもしれない。


「なんだぁ、その反抗的な目はよぉ。せっかく買い付けてやったのに、仕事はできねぇ、態度は悪い。ぶっ殺してもいいところをこうして生かしてやってる。飯まで食わせてよ」

「ぶっ殺してやる……」

「はぁ? もう一度言ってみろ!」

「ぶっ殺してやるっつってんだよ!」


 その瞬間、少年の左の頬に男の拳が入った。頬骨が砕ける鈍い音がした。


「おいおい、殺したらめんどくさいぜ」

「殺しやしねぇよ、これは教育だよ、教育」


 言うなり、その男は拳で思い切り少年の鳩尾を殴った。身をよじらせて苦悶する少年を見て、男たちが笑う。


「誰がご主人様か、いい加減覚えたらどうだ」

「ぶっ殺してやる」

「そのありさまで俺たちを殺せると思ってんのか、馬鹿野郎」


 男は少年の濡れた髪を掴みあげ、顔を近付ける。


 その時だった。男の後頭部が破裂した。


 残った二人は何が起こったかわからない様子だったが、俺にはわかった。少年は折れた歯を凶器にしたのだ。男の顔面に超高速で歯をぶつけ、衝撃で頭部を粉砕してみせた。


 だが、そんなことは常人にはできない。嫌がらせにしかならない。


「こ、この人殺し!」


 一人が立てかけてあった角材を手に取った。だが、そこまでだった。角材は一瞬で砂となった。そして、男も。


「うわ、た、助けて」


 情けない声を上げて、男がドアを開ける。


「ぶっ殺すって言ってんだろうが!」


 少年は立ち上がっていた。彼を拘束していた縄も、今や小さな砂山に変わっていた。少年はその砂山を思い切り踏みつけた。


 クラッドノウト……。


 誰がこの夢を俺に見せているんだ。奴に同情させるためか。


 そこから先は凄惨(せいさん)だった。ドアの向こうには村の広場があり、そこには少なくない数の人間が集まっていた。


 遠くには城壁が見え、ここが城塞都市なのだということがわかる。それも小さくない。見慣れない植物が生える、乾いた砂っぽい土地だった。ディーレニアの南部都市だろうか。魔導大戦の記録に、南の方は砂に飲まれた……という記載があった気がする。


 少年――クラッドノウトは、小屋から出るなり、まず逃げた男を惨殺した。およそ人間の尊厳というものを無視した殺し方だった。方々から悲鳴が上がったが、クラッドノウトは悲鳴を上げた順に殺した。たちまち広場は血の海となり、建物は次々に砂の山と化した。


「はぁ、はぁ」


 クラッドノウトは痛みを(こら)えているようだった。奥歯を噛みしめ、拳を握りしめ、しかしそれでも遠巻きに見ている人間、武器を持って迫ってくる兵士たちを(にら)んでいた。クラッドノウトはこの世の全ての人間を憎んでいる――俺にはそう映った。


「ぶっ殺してやる!」


 クラッドノウトの咆哮。それと共に迫ってきていた兵士の一隊が砂と化した。ゴウと風が吹く。その風が通り過ぎた後には砂が残った。人も建物も動物もない。皆、等しく金色の砂となった。


 完全に魔法術の暴走――。


「違いますよ」

「キケレアーナ!?」


 突如現れた一つ目の異形に、俺は腰を抜かすほど驚いた。


「あれは魔法術ではありません。呪術です」

「でも、対価は……?」


 クラッドノウトは支払えるものを何も持っていない。


(ねん)、です。彼の場合は。(えん)(こん)と呼ばれることもある、禁忌(きんき)の呪法です。己の憎しみの、すなわち呪いの感情だけを(かて)にして、ゲドルタから分不相応の魔力を借り受ける」

「虐待の積み重ねで、彼がそれをできるようになったって……?」

「彼にはもともと呪術師としての才能があったのです。彼は誰から教えられることもなく、その能力を開花させた。これは今から十六年前の話。あなたが生まれた頃の出来事です、オルレアス」


 憎しみの感情だけで、彼はこの城塞都市を砂と化した。何千人分もの命と共に。


「これが世界で最も厄介な()()()が発生した瞬間です」

「それでも」

「同情はできない、ですか」

「無関係な人を殺したことは事実です」

「それで?」

「それでって……」


 キケレアーナの一つ目が俺を見下ろしていた。


「因果を辿れば、彼が恨むべきは彼を売り払った実の親でしょう」

「彼は日常的に暴力を受けていたんですよね」

「そう。町の人々のいくらかに」

「だったらやっぱりほかの無関係な人まで殺したのは間違えてます」


 俺は言うが、キケレアーナは「ふっ」と笑って砂漠に飲まれた都市を見()った。


「町の人々の多くは、このことを知っていましたよ。子供を買っては()()()使()()。彼らの文化はそんな文化です。ディーレニア領とはいえ、ラガンドーラ大帝国の影響を強く受けていますから。そんな都市があるから、こんなことが起きた。それを起こしたのはたまたまクラッドノウトだったに過ぎません」

「だからって、でも、何千人も殺していい理由にはならない」

「そうでしょうか。彼のおかげで不幸な子供は減ったかもしれません」


 キケレアーナはなおも反論してくる。


「では、オルレアス。あなたの正義はなんですか。彼はどうすればよかったのですか」

「それは……」

「暴行をはたらいた男たちだけを一人一人殺していけばよかった? それとも彼は黙ってこのまま死んでいればよかった?」

「俺は……でも」

「それでも無差別な殺戮は間違えている、ですか」

「ええ」

「そもそも――」


 キケレアーナは右手の人差し指を立てた。


「彼には何の罪もなかったのです。ただ親に売られ、この町の男に買われ、毎日暴行され、食事も満足に与えられず、抵抗も許されず、明日の希望を持つことすら許されず、ただひたすら怨恨(えんこん)を募らせていった。誰に罪があるのですか」


 それは……。


 俺は言い返せなかった。


「悪魔を作ったのは彼らです。この都市の文化が、伝統が、思考が。そしてそれを当然として、自然なものとして、いえ、ともすれば()()()()()だとして受容し続けたのは彼らです。少年に救いの手を差し伸べた者は誰一人いなかった。孤独の中でただ復讐の念だけを(かて)に生き抜いた少年は、果たして()()()などと言えるでしょうか」

「でも!」


 子どもまで殺していい理由にはならない。彼らには何の罪もなかったじゃないか。少年と同じだ。ただこの町で生まれただけだ。


 俺は必死に、キケレアーナの一つ目にそう訴えた。


「そうですね、あなたは()()()


 キケレアーナは頷いた。


「少年は悪人ではなかった。少年は自らを虐待した悪人たちを殺した。そして悪の都市を滅ぼした。しかし、それでも少年は元には戻れなかった。ただの誇り高き少年は、手の付けられない悪人となってしまった。これは悪人たちが、少年を悪人にしてしまった結果です」

「元がどうであっても! 犯した罪は(つぐな)うべきだと俺は思います」

「罪を犯させた者たちを、自ら裁いた結果だとしても?」

「……そ、それは、でも」

従容(しょうよう)として死を待てばよかったと言いますか?」


 それは、違う。俺は無言で首を振る。


「正義とは曖昧なものなのですよ、オルレアス」


 キケレアーナは諭すように、静かな口調で俺にそう告げた。


 俺は唇を噛んでから、(つと)めて感情を(おさ)えて(たず)ねる。


「俺にこの夢を見せているのは、あなたなんですか」

「いいえ」


 キケレアーナは即座に、(おだ)やかに、否定した。


「私はあなたの夢を(のぞ)いているに過ぎません。あなたにこの夢を与えているのは、おそらく……ゲドルタ」

「ゲドルタ……」


 俺の声はひどく(かす)れていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。