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解願師〜人の願いは呪いへと。最強の能力者に拾われた俺、同じ境遇の少女と世界のカラクリをぶち壊す~  作者: 一式鍵
第8章:大いなる魔物

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09-02. ジェスガルディア要塞

 ジェスガルディア要塞に到着したのは、満月が煌々と照る真夜中だった。見渡す限り人の気配はなかった。その大要塞はひっそりと死んでいるかのようだった。


 虫すら死に絶えたかのように、何の音もしない。耳が痛くなるほどの静寂(しじま)が一面の暗黒の内に広がっていた。


「どういうこと?」


 ベスが(いぶか)しんだ。ヤミは鋭い表情のまま、氷の視線を周囲に飛ばしていた。俺と並んで歩くヤミが手にした角灯(ランタン)が、地上で唯一の光源だった。


「キケレアーナが待ってる」


 俺はすでに、ヤミとテスタロサに関わる部分を適当にぼかしながら、夢の内容を二人に話していた。


 不安げな声でベスが(つぶや)いた。


「男爵は無事かな……」

「どうだろう」


 夢ではハイザルク男爵に関する言及はなかったと思う。


 そしてこの辺りから人の手足が転がり始めていたはずだ。だが、要塞の門に通じる道は、見える範囲ではきちんと舗装されており、特に目立った汚れはない。


「夢と違う……」


 こんなことは今まではなかった。しかし、夢に関与してくることのできるキケレアーナがいる以上、こんなことは起きない方が不自然だった。だから、これからは夢が当てにならないということでもある。どう考えても呪術、あるいは魔法術においては、キケレアーナの方が上なのだから。


「メディオラ……いえ、キケレアーナ。預言者の二つ名の意味するところって、なんですか、師匠」

「文字通りさ。アタシも直接知るわけじゃないけど、聞いた話では、王国に迫る危機の全てを予言し、的中させていたらしい。レア、あんたの夢と同じような仕組みで、だろうね」

「俺の夢はそこまで未来は見えないみたいだけど……」

「キケレアーナは歴代最強の魔法術師さ。あんたより精度も感度も上だっただろうさ」


 確かに。競える相手ではない……のだが、まさにこれから対峙(たいじ)しなくてはならないのが、その歴代最強の魔法術師だ。


「門は閉まっているな」


 角灯(ランタン)を掲げながら、ヤミが言った。辺りはほとんど真っ暗闇だから、かなり近づかなければそうだとわからなかった。


 当然ながら、外側からその両開きの扉を開ける仕組みはない。


「どうしよう」


 門の間近まで歩み寄って、俺は二人を振り返る。影に落ちた門扉のあまりの暗黒の重さに押し(つぶ)されそうになった。


 その時、突如要塞の随所に明かりがついた。城壁の上で焚かれている篝火(かがりび)たちのものだ。ある程度の間隔ごとに、見渡す限りずらりと炎が揺れている。まるで人魂(ひとだま)のようだと俺は思った。死者が現世に現れる時、魂は揺れる炎のように見える――という説がある。


 そして重たい音を立てて、目の前の門が開き始める。キケレアーナが俺たちを招き入れているのだ。


「行こう」


 俺が言うと、二人は黙って頷いた。角灯(ランタン)の輝きが(かす)んでしまうほど、周囲は明るくなっていた。しかし、落ちる影は黒よりも暗い。


 ベスの緊張を(はら)んだ息遣(いきづか)いが聞こえてきた。ヤミはというと、気配がまるで感じられなかった。時々視界に入れておかないと、いつの間にかいなくなっていたとしても気が付かないところだ。


「ようこそ、ジェスガルディア要塞へ」


 門を通過した先にある巨大な広場に到着すると、彼女が、キケレアーナが姿を見せた。ベスが息を飲み、俺の背中に隠れたのがわかった。現実に目にすると、キケレアーナは一層不気味だった。細身にして異常な長身、顔にはたった一つの巨大な眼球、この夜闇の中でも、燦然たる金色の輝きを放つ紫の長髪、そして身体に張り付くような晦冥(かいめい)のドレス。


「お二人にはお初にお目にかかります。メディオラ、もとい、キケレアーナと申します」

「挨拶はいい。ハイザルク男爵はどこだ?」


 ヤミが不愛想に問う。キケレアーナは緩やかに腕を組み、俺たちを睥睨(へいげい)する。


「男爵には男爵の役割というものがございます。私は男爵に危害を加えるつもりはありません。今は安全な場所におりますよ。なにせ、この要塞は、もはや到底安全とは言えない場所と化していますから」

「キケレアーナ、ここにいたはずの兵士たちは……?」

「私と男爵が到着した時には(もぬけ)(から)……。いえ、正確には」


 キケレアーナは満ちた月と反対方向の空を指差した。ちょうど要塞の中央部あたりだ。


「……?」


 夜空の中に何かがいる。


「妖獣アストレルヴェイン」


 妖獣? アストレルヴェイン……?


「あなたたちが先ほど倒したのは魔獣ウーべレッカ。どちらも霊峰ダルフシュペントから現れました。いずれも強大な魔物です」

「それをアタシたちに退治しろとか、そういう話なのかい、キケレアーナ」

「お察しの通りです。これは通過儀礼だと思ってください」

「通過儀礼だって?」


 俺はゲミトルードに手をかける。だが、まだ抜く気はない。


 キケレアーナは鷹揚(おうよう)に頷いた。


「解願師ヤミ。率直に言って、私にとってあなたは邪魔なのです。いえ、正直に言えば、脅威でしかない。私の愛弟子、テスタロサの実の娘にして、継承者。()()()()()()()()()を持つ、異端中の異端。そして現代魔法術の祖である王族の血すら引く」

「現代魔法術の祖……?」


 ベスが俺に囁いてくる。俺は首を振った。初耳だった。


「あら、若い二人はご存知ありませんでしたか。王族は魔導大戦で語られる英雄たちの血筋ではありません。王族は()()()()()()()()()()()()()()なのですよ」

「……アタシもそんなことは知らない」


 ヤミの声には珍しく動揺があった。全知全能に思えるヤミにも知らないことがある――そこに俺は何故か少しだけ安心感を覚えた。


「作られたって……どういう?」


 ベスの疑問を背中で受けて、俺はそれを中継した。


 キケレアーナは()()()()。顔なんてないのに、何の筋肉も動いていないのに、俺にはなぜかそれがわかった。


「王族は魔導大戦にてこの世界に現れた、()()()()()()()()()、ジゼル・ディーレニアから始まっているのです」

「人間そっくりの魔物……」


 俺とベスの声が重なった。ヤミの吐息が夜に溶ける。


 そこでベスは思い出したように背負った荷物を下ろした。俺も荷物を下ろす。


 上に目をやれば、妖獣アストレルヴェインと呼ばれた巨大な影が、昏い空を背に、じっと俺たちを値踏みするように睥睨(へいげい)していた。


「あの魔物を見事倒してみせてください、オルレアス」


 どうしてそうなる!?


 俺は理解に苦しんだ。だが、状況的にはやってみせなくてはならない。


「先生、あいつは先生を真っ先に狙ってくる可能性があります。気を付けて」

「ああ、だるいねぇ」


 ヤミはそう言うと、腕組みを()いた。


 俺はゲミトルードを抜き放ち、ベスは槍を構えた。


 誰かが鋭く息を吸った――。


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