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解願師〜人の願いは呪いへと。最強の能力者に拾われた俺、同じ境遇の少女と世界のカラクリをぶち壊す~  作者: 一式鍵
第6章:クラッドノウトの影

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06-02: ヤミの出自

 飛び起きた。


 宿場町、ハルケンブローラの安宿の一室だ。部屋の反対側にはヤミとベスの寝台がある。安全を考えて男女同室にしたのだ。他意はない。


「大丈夫かい、レア」


 ヤミは窓辺にいた。窓枠に肘をつき、低く大きな金色の月を眺めている。風に(なび)くヤミの白髪は、まるで輝いているかのようだった。


「え、ええ」

「夢かい」

「はい」


 俺は素直に認めた。ヤミを相手に隠し事ができるなど、(はな)から思ってはいない。


「何の夢を見たのか、教えてくれるかい」

「眠たくはないのですか、先生は」

「少し寝たから」


 ヤミはそう言って、水袋から水を飲んだ。


「あんたが眠いなら朝でもいいけど」


 ヤミはぐっすりと眠っているベスに視線を送りながら言った。俺もベスを見て、首を振る。ベスにも関係する嫌な話があったからだ。


「わかりました」


 そして俺は、夢で見たことを事細かに話して聞かせた。


 話が終わると、ヤミは髪の毛を二度掻きまわして、呟いた。


「夢なのに、そこまで詳細に覚えているもんなんだねぇ」

「こういう夢だけは、異常にはっきりと記憶しているんです」


 そう、普段の何気ない夢なんて目覚めてすぐに忘れてしまうのだ。


「全部ヤツの、ジムレグの手の平の上だったか。(シャク)だねぇ」

「それもそうなんですが、ベス、大丈夫でしょうか」

「それを何とかするのがアタシたちの仕事だろ、レア。ジムレグの狙いが、ベスと霊槍ファイヴァルレドであるってことがわかっただけでも収穫だね」


 そうなんだろうか。


 俺はヤミと並んで月を眺めながら考え込む。


 視界の端に揺れるヤミの白髪が入り込んでくる。


「クラッドノウトは仕掛けてくるでしょうか」

「間違いなく。そしてジムレグがあんたの能力に気付いたら、あんたもまたターゲットだ」


 ヤミは達観したように言った。達観されても困るのだが、俺は何も言わないでおいた。


「先生はいったいどうしてこんな……その、放浪(ながれ)の解願師に?」

「バルーサを追放されたからさ。ただ、いろいろあって情状酌量があってね。外道師扱いにはならなかった。特例中の特例みたいなもんさ」

「そのいろいろっていうのは……」

「ん?」


 妙に圧のある一音が飛んでくる。が、俺はそれに負けずにヤミを見た。ヤミも俺を見つめていた――窓枠に頬杖をつきながら。


 俺たちはしばしば無言で見つめ合った、と言いたいところだったが、実際のところはバチバチと睨み合っていた。ヤミは俺の心を探ろうとしているかのように、(えぐ)るような氷の視線を突き刺して来ていて、俺はそれにひたすらに耐えていた。


 長い時間の(こん)(くら)べの末――俺は持ちこたえた。


「負けたよ」


 ヤミが敗北を認めたからだ。


「アタシは……普通の出自じゃない。王家の血を、引いている」

「お、王家……!?」

「声が大きい」

「すみません」


 ヤミが王家の……。いったいどういう事だろう。


「アタシの母さんの名前は、テスタロサ」


 テスタロサ……俺はその名を頭の中で反芻し、硬直した。瞼を閉じることすら忘れるほどの衝撃に、目の渇きを覚えてようやく我に返る。


「テスタロサって、先々代の王室魔法術師長……爆炎の魔女?」


 テスタロサは俺が生まれる前の偉人だ。が、父さんや母さんから何度もその武勇伝を聞かされた。ハーワール帝国が持ち出してきた新兵器をたった一人で攻略したとか、ベルヌード大帝国の刺客たちから前国王を守り抜いたとか、大貴族の反乱を無血で鎮圧したりとか……。


「そうさ、爆炎の魔女」


 その功績について思い出していた俺に対して、ヤミはあっさりと肯定した。そして「これは絶対に口外するな」と念を押してから言った。


「爆炎の魔女は、前国王の愛人でもあった」

「!」


 刺激の強い話に俺は面食らう。


「そして前国王はアタシの父さ。そして現女王ジェミニアは、アタシの腹違いの妹。もっとも、爆炎の魔女はそのことを頑として認めなかったから、アタシに王位継承権はない」

「でも、公然の秘密だった?」

「一部には、そうさ。そして母さんはただの人間じゃなかった。王国最強の魔法術師だった。隠し通せるわけもない。第一に前国王――父がそれを公にしようとしたくらいだ」


 政治的な都合で結局それは立ち消えたらしいけどと、ヤミは呟いた。その表情に感情はない。ただひたすら()いでいた。


「母さんが死んだのは今から二十年前。アタシが五歳の時さ」


 二十年前――。俺の背中を冷たい汗が伝い落ちた。


「王室魔法術師ゼーレン。奴の違法な研究を突き止めた母さんは、前国王よりゼーレン討伐の任を与えられた。そこで起きたのが……ジェイルムド魔導攻防戦だ」

「ジェイルムド魔導攻防戦……?」

「公式には記録はないさ。あれは秘密作戦だったからね。ゼーレンというのがジムレグで、どうやらゼーレンの方が偽名だったらしい」


 俺はベスの寝息が聞こえるくらいに、感覚を研ぎ澄ませていた。両手に(したた)るほどの汗をかいているのを知覚していた。それほどヤミの言葉は重かった。


「そしてジムレグは母さんによって()らえられ、古城牢に幽閉されることになった。けど、その代償は重たかった。相討ちを覚悟した母さんは、最後の最後に、遠く離れた王都にいたアタシに自分の全魔力を送り込んだ。当時のアタシは何が起きたかわからずパニックになったらしいよ」

「――だけど、もし爆炎の魔女が、最後まで魔力を手放さなかったとしたら……」

「そうだね。ジムレグは死に、母さんは生き残ったかもしれない。けど、実際は逆だ」

「なんでそんなことを」

「母さんは()()()()()()()()()……そう前国王から聞いたことがある」

「ゲドルタ……」


 頭痛すら覚えてきた。ヤミは言う。


「運命を見ていた、と、言い換えてもいいんじゃないかねぇ」

「俺の父さんや母さんのように?」

「そう、かもしれないねぇ」


 ヤミは髪を()き上げてから、ゆるゆると首を振った。


「アタシには未来は見えない。ゲドルタへの直接接触だなんて絵空事だと思っていた。妄想だとも。だけど、あんたには見えている。ゲドルタは確かに存在し、確かにアタシたちに作用しているんだ」

「爆炎の魔女ともなれば、そのくらいありそうな気はしてきますね」

「そう、だねぇ。母さんは肝心なことは何も教えてくれなかったし、(のこ)してもくれなかった」


 ヤミの声のトーンが一段下がる。


「だけどいいのさ。どうあろうと、アタシに不都合な運命がやってくるなら、全部ぶった斬ってやる。それだけさ」


 ヤミにならできると俺は思う。


「そのためにあんた、アタシに力を貸しなよ」

「もちろんです、先生」

「ふっ……それならいい」


 ヤミは窓枠に寄り掛かる。夏にしてはやけに冷たい空気が、俺たちを包み込んでいた。

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