04-11: 区切り――
夢、か。また、夢だ。
しかしこれは過去の夢だ。夢の中で、現実にこの光景を見ていた時のことを追体験させられている――。
あの後、俺たちは地上にソレティアを連れ帰り、事の顛末を役人方に報告した。ソレティアは傷の状態を鑑み、翌日に火刑に処せられることとなった。もちろん公開処刑だ。
連行されるソレティアにいくつもの石礫が当たる。腫れ上がった顔はもはや彼女の原型を留めていなかった。顔の左側に奔る深い裂傷痕がなければ、ソレティアだと判別することはできなかっただろう。
薪に火が付く。極力煙が出ないように加工された薪だ。この薪はこの地域では処刑木と呼ばれているのだと後から知った。熱で少しずつ焼いていき、長く苦しんだ末に絶命するような仕掛けらしい。趣味が悪いと思った。だけど、そうでなければ遺族たちの怒りや悲しみが、ほんの僅かも鎮まらないということは理解できた。
「こんなことしても、人は帰ってこない」
ベスが唇を噛みながら言った。ヤミがそんなベスの肩を叩く。
「遺された者はね、区切りをつけたいんだよ、ベス」
「区切り、ですか」
「あんたもわかるはずだよ。誰が一族を殺したのか、奪われた槍はどうなったのか。それを知ることで区切りを付けようとしているんだろ。レアだってそうだ」
「でも」
「長い時間をかけて区切りをいくつもいくつも付けて、ようやく傷ってのは癒えるんだ。その時に絶対に必要になるのが、その悲しみの元凶の顔や言葉、あるいはこうして十分な報いを受けるさまを見ることなんだ」
ヤミは処刑人たちが薪を投げ入れ始めたのを、険しい表情で見つめていた。
ソレティアは一度も声を上げなかった。ただ毅然として前を見ていた。取り巻く群衆、野次と怒号。それらをたった一人で粛々と受け止めて、足を焦がす熱に耐えていた。
まるでそれが贖罪だとでも言うかのように。俺はポケットから指輪を取り出した。何の変哲もない銀の指輪だ。だけどここには一人の人間のあらゆる負の感情が込められている。
「呪いと願いが表裏一体であるように、憎しみや悲しみも深い愛があればこそ生まれるものだよ、レア」
「それじゃまるで深い愛を持っていたら……」
「誰もが知っていることじゃないか。愛する人が傷付けられたら。愛する人を失ったら」
ヤミは饒舌に応える。
「その時の苦しみが想像できるから、人は愛する人を守ろうとする。愛する人が無事であるようにと願うのさ。だからアタシは負の願い――呪いも憎まない。人間が人間らしく生きていれば、誰もが一つや二つ、呪いを抱えることになるからね」
俺は上がった火力の中で、ついに焼け崩れていくソレティアを見つめた。髪や皮膚の焦げる臭いに、人々は熱狂していた。誰かが石を投げ始めた。それに呼応して、周囲の人間たちも石や薪をぶつける競技に興じ始めた。
「どっちが罪人かわからないわ」
ベスが眉を顰めている。俺も同意だ。
「人間の中心はおしなべて狂ってるのさ。それは常に顔を出す機会を窺っている。特に、正義という名前を借りた時に、その狂気は堂々と姿を見せるんだ」
どよめきが起きた。
誰かの投げた石が、ソレティアの頭部に命中したのだ。焼けて脆くなっていた首が折れ、頭部は炎の中に消えた。周囲は口笛や拍手、歓声に飲まれた。
「行くよ、二人とも。狂気にあてられていいことなんて一つもない」
「師匠、こいつらのこの歪んだアレをアレできないんですか」
それはベスなりの婉曲表現だったのだろう。
「やってやる義理はないさ。アタシだって解願には対価を払うんだ。タダ働きしてやる理由はないよ」
「それもそうですね、師匠。行きましょう」
大きな荷物を背負って、ベスが歩き始める。
「ベス、その、もう大丈夫なの?」
「ん? ああ、あれね。大丈夫なわけないでしょ、ばかじゃない?」
振り返ったベスの目が三角形だった。
「いや、そこまで言われる意味が」
「じゃぁ、そうね。あーん、こわかったよぉ、レアさまぁ」
「!?」
「……とか言えばよかったの? ばっかじゃない?」
俺、今回はこの子を助けたはずなんだけど。
俺は現実にこの光景を見ていた時のことを思い出しつつ、「やっぱり理不尽だよな」と思っていた。
そんな俺たちを見て、ヤミは喉の奥で笑っている。
「あー、レア様とか言ったら鳥肌立ってきた」
「だからそれは俺のせいなの?」
「あったりまえでしょ」
ベスは隣に並んだ俺を睨む。
「でも、そうね。助けてもらったのは二度目だからね。お礼は言っとく。ありがと」
「あ、うん」
「でもこれで帳消しだからね」
「ああ、う、うん」
いささか不満が残るが――今回はいいことにしよう。
ケルグレスから出て見上げた空は、すっかり夏の色だった。
この話をもって、第一部「ハルベーデラ編」の完結です。
第五章以降は、第二部「ジェスガルディア要塞編」となります。
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