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解願師〜人の願いは呪いへと。最強の能力者に拾われた俺、同じ境遇の少女と世界のカラクリをぶち壊す~  作者: 一式鍵
第4章:ハルベーデラを討て

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04-10: 死闘と救済

 疾風(はやて)のような二連撃がソレティアを襲う。ソレティアは一撃目を弾き、二撃目はその衝撃を利用して跳んで()けた。魔法だ呪法だを抜きにしても、駆け出しの俺では太刀打ちできない技術だった。


「私はこの時のためだけに生きてきた。私からジェイスを奪ったその罪を償わせてくれる!」

『あら、それは異なこと。あなたは他の誰かの大切な娘たちを大勢連れ去り、利用し、殺してきたじゃありませんか。罪の重さだけならあなたの方が何倍も重い』

「お前がジェイスを殺さなければこんなことにはならなかった」

『それを責任転嫁というのですよ』


 二人は剣を打ち合わせながら舌戦を繰り広げていた。


 俺がヤミを見ると、視線が合った。ヤミは首を振る。


「ソレティアの(がん)(ほど)くには、ここで完全に敗れるか、あるいは悲願を成就するしかない」

「怨念ですね……」

「当たらずとも遠からず、だ。あそこまで膨れ上がり密度を増してしまった(がん)(ほど)くのは容易なことじゃないさ」

「しかし、ソレティアもまた罪人(つみびと)……」


 俺の言葉に、ヤミは一瞬つらそうな表情を見せた。


「もちろん、ソレティアはアタシが裁く」


 ハルベーデラの言う通り、この一件の罪の重さだけを見れば、ソレティアの方がずっと重たい。だから、彼女がこのまま大願成就を果たし、そのまま公的な裁きも受けずに消えることが正しいのか、俺には疑問だった。


「被害者の家族だって、あるいはソレティアのように憎しみを募らせるでしょう。彼らが悲しみと怒りをぶつける先が、勝手に安らかに死んでいた、なんて」

「レア、あんたの言うことはわかるさ」


 ヤミは戦いの趨勢(すうせい)を見守りながら呟いた。


「けど、死者は帰ってこない」

「でも、先生! 俺だって父さんや母さんを殺した相手がそんな風になっていたら! 何の謝罪もなく勝手に死なれていたら……!」


 俺の声は詰まり気味だった。謝罪なんかに意味はないかもしれない。真実なんかに慰めはないかもしれない。だけど、勝手に死という形で、簡単に解決されてはかなわない……!


 ヤミは一つ頷いた。


「アタシは解願師さ。憎しみという(がん)、悲しみという(がん)。そういうのを(ほど)いて消していく。それが解願師の力を得た人間のするべきことなんだよ、レア」

「じゃぁ、ハルベーデラは! こいつは……」

「ゆえに――外道!」


 ヤミは短く言い、腕を組んだ。そしてソレティアたちの方へと向き直ってしまった。俺からは肩越しの横顔しか見えない位置関係だった。


 地下室は未だハルベーデラの作り出した光で(まばゆ)く照らし出されていた。二人の戦いの状況がはっきりと見て取れた。ソレティアは息が上がりかけていた。ハルベーデラは髑髏だから、疲労の度合いを全く読み取ることができない。


『いい加減に諦めてはどうかしら。あなたのその強力な憎しみ。熱いほどの怒り。さぞ強力な魔力に変換できることでしょう』

「くっ!?」


 ハルベーデラの左手の剣がソレティアの右肩に深く食い込んだ。ソレティアの血染めの剣が床に転がる。


「がっ……!」


 ハルベーデラの右手の剣がソレティアの鳩尾に突き刺さった。


『あなたの(がん)(ほど)いて差し上げ……ど、どういうこと』

「ふふ、ふははっ、はははははっ」


 ソレティアは左腕をハルベーデラが突き出した右手に当てた。ハルベーデラは剣を引き抜こうとするが、抜けないようだ。


『何を……!?』

「私の本体は私に(あら)ず、ということだ、ハルベーデラ」

『まさか、その指輪が本体だとでも』

「私はとうに人を捨てた。人の身で犯すには、私の罪はあまりにも重すぎたからだ。私の願いも呪いも、全てこの指輪に移したというわけだ」


 ソレティアの指輪から赤い輝きが放たれる。それはハルベーデラを包み込み、髑髏を崩壊させていく。剣を離せば逃げられたかもしれなかったが、判断が遅れたようだった。


『馬鹿な、こんな馬鹿なことが……! ジムレグ様、どうか、お助けを』


 哀れだと思った。力ある存在だったことは確かかもしれないが、彼女は所詮、ジムレグという()を借りただけの(こま)だったのだ。


 ほどなくしてハルベーデラは痕跡も残さず消え、俺たち三人と、床に膝をついているソレティアだけが残った。室内は再び頼りない燭台の灯りによってのみ照らされることになった。


「あ……」


 俺の腕の中で、ベスが声を発した。譫言(うわごと)とは違う、はっきりした声だった。


「私……」

「ベス、大丈夫か」

「……なんであんたに抱かれてるの?」


 やや朦朧とした声で問いかけつつ、ベスは自分の足で立った。


「そうか、夢じゃなかったのか」


 ベスは血に(まみ)れた室内の惨状とソレティアの様子を見て、そして、吐いた。俺はその背をさすってやったが、何も言うことができなかった。


「ソレティア」


 ヤミが刀を抜いて、ソレティアに切っ先を向けた。


「アタシには、あんたを裁く権利も許す権利もない。ただ、その指輪はもう要らないだろ」

「復讐は果たされた。もう何も要らない。何も望まない」

「あんたのその純粋さと潔さを()(にじ)った運命というやつに、アタシは本当に腹が立っている」

「だけどね、解願師。私の、罪は……罪。それもとびきりの大罪だ。私は私の憎しみで復讐を実現するために、私と同じような人間を何十人と生み出してしまった。言い訳などできない」


 ジェイス……私にはこんなことしかできなかったのよ――ソレティアは小さく呟いた。


 ソレティアの苦し気な声を受けて、ベスが口元を拭いながら立ち上がった。そして俺の持ってきた荷物から、応急処置用の布切れを数枚引っ張り出した。


「やめろ、娘。私に治療される価値などない。それにこの身体は……」

()()死なせないから」


 ベスは厳しい表情でそう言うと、その布切れをソレティアの傷口にあてがい、ソレティアのマントを裂いて作った即席の包帯でぐるぐると巻いた。しかし出血はひどいし、どう考えても致命傷だったから、気休めにしかならないだろう。


 ベスは次いで右肩も止血を試みた。しかしこっちも傷が深く、あっという間に布地は赤黒く染まっていった。


「この身体は……人の裁きを受けるために生きているの」


 ベスはそう呟いた。


 俺たちはそのまま、地上までソレティアを連行した――。

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