04-02: 占い師の噂
宿で二時間ほど休憩した後、俺たちは一階にある食堂で遅い昼食を食べた。交通の要所でもあるケルグレスは、様々な物資が集まっていた。結果として食堂のメニューもそれなりに豪勢になっていた。
「食える時には食っておけ」
ヤミはそう言って、王国銀貨を二枚、テーブルの上に置いた。そんなに食べたっけと思ってカウンターの上に掲示されているメニュー表を見たところ、全体的に値段が高めだった。
「それでさっき見たっていう夢なんだけどさ、レア」
「え、はい」
俺は例の夢の件も、ヤミに伝えていた。
「外道師ハルベーデラが、そのソレティアを挑発していたというのは間違いないんだね」
「はい」
「……妙だな」
ヤミは顎に手をやって考え込んだ。それを見たベスが、「こいつの夢なんて真面目に考える意味あるんですか」と不満げに言った。
「前も言っただろ、レアが覚えている夢はただの夢じゃない」
ヤミの断言に、ベスは面白くなさそうに下唇を突き出してから尋ねた。
「魔法術的な匂いがするっていう話でしたっけ」
「ああ、そうさ。ヒューケイアの血の力かもしれないな」
俺は一瞬考え、「ヒューケイアの血……」と、反芻した。
「ああ、そうさ。仮にも勇者様の子孫なんだ、あんたは。おかしな力があったって不思議はないさ」
「そんなものでしょうか」
「それを今議論する意味はないさ。時が来れば、知るべきことは嫌でも突きつけられる」
ヤミはそう言って立ち上がった。俺たちも後に続いた。
一呼吸おいて、ヤミは言った。
「例の占い師とやらを探す。まずは情報収集だ。噂の収集くらいなら、バラバラでやっても問題ないだろう。あんたたちを狙う勢力も、こんな街で白昼堂々やらかすとは考えにくい」
「王室魔法術師が見ているから、ですか?」
俺の問いに、ヤミは確信をもって頷いた。
「ヴァレスがアタシたちに接触したのには気付いているはずだ。迂闊に手は出せまいよ」
「となると――」
ベスが頬に手をやって視線を天井に向けた。
「私たちに接触してくる可能性があるのは、つまり、例の占い師、ハルベーなんとかですか」
「レアが夢に見たくらいだからな、おそらく何らかの影響は出るだろう」
それから俺たちは、旅の荷物を宿に置いて(もちろん主人には荷物の安全保障のために銀貨をいくらか握らせて)情報収集のために外に出た。
ケルグレスは広く、とても混み入っていた。所狭しと並ぶ露店、行き交う馬車たち、ぞろぞろと移動する人々――どれも初めて目にする光景だった。
その中で俺は占い師の噂を聞きまわった。正確には、黙っていても情報が入ってきた。
ケルグレスにおいて、ハルベーデラは相当手広く商売をやっているようだった。そして「今のケルグレスの発展は占い師様のおかげだ」というものさえ聞こえてきた。
「あの、すみません」
俺はその言葉の発信源たる太った露店商に話しかけた。露店商はそれまで話していた客から金を受け取ると、銀製と思しきアクセサリを手渡した。
「うん、何の用だい?」
「俺、今日この町に着いたんですけど、あちこちで占い師の話を聞くんです。どこでやってますか?」
「お、坊主も未来を見て欲しいのかい」
「未来を?」
「占い師だからね、未来を見るのが仕事だろうよ」
露店商はガハハと声を上げて笑い、陳列台から身を乗り出してきて囁いた。
「だけど、その占い師、どこにいるかはわからねぇんだわ」
「どういうことですか? 商売しているのでは」
「こっから先は眉唾なんだがよ、どうもその占い師、困っている人の所に現れるらしいぜ」
弱みに付け込む――ということか。俺は夢で聞いたハルベーデラの性格を思い出しながら腕を組んだ。
「それに、占ってもらった奴らはみんな成功してるって話だ。この町が急激に賑わい始めたのも、このあたりの領主、ハイザルク男爵の所に占い師が現れてからって話だ。あれは王家襲撃事件の頃だから、確か、三年くらい前だ」
行方不明者が出ている件も訊いてみると、露店商の顔が明らかに曇った。
「男爵の騎士が捜査はしてるみたいだが、なんも、だ。この一か月、俺の知ってるだけでも五人は消えてるぜ」
「情報通なんですね」
俺は簡単に思わぬ情報源を得られたので、少し上機嫌に言った。露店商は「まぁな」と二度頷いた。
「ありがとう、参考になりました。その占い師に、俺も会ってみたいなぁ」
「よほど困ってたら助けてくれるさ」
「ところで、その占い師の名前って」
俺は知らないふりをして尋ねる。露店商はしばらく考えてから「そうだ」と手を打った。
「ハルベーデラ。この辺じゃ珍しい名前だ。最初は名無しの占い師だったんだが、最近になって名前を明かしたんだ」
「なるほど……」
十分に知名度を得た後で、ハルベーデラという名前を明かした。
「ありがとう、おじさん。その銀のブレスレット、買います」
「センスいいな、坊主。魔除けの銀に、災厄除けの模様が刻まれたもんだ。ま、おまじないみたいなもんだがね」
「十分です」
俺は銅貨を三十枚ほど支払って、それを受け取った。必要経費だろう。これをベスにプレゼントしてやれば、彼女も少しは心を開いてくれるかもしれない。
しかし、俺の目論見はこの数時間後には崩れ去る――。




