04-01: ソレティアの決意
また夢を見た。顔を傷つけられたあの女、ソレティアの夢だった。
俺は今、自分が夢の中にいるとはっきり認識していた。しかし、今の俺は何に対しても影響を与えることができない――いわばただの観測者だった。
ソレティアは傷口を隠そうともせずに、薄暗い寝室に横たわるジェイスの遺体に縋っていた。その顔からはいまだ血が滴っていた。
「あなたの仇は私が討ちます」
仇――ユティハのことではない。ユティハに雇われた呪術師、あるいは外道師のことだろう。
「あなたから頂いたこの指輪に誓って、私は必ず」
首からチェーンで下げられた銀の指輪に触れながら、ソレティアは視線を上げた。紫色の印象深い瞳には、何の感情もなかった。そして傷ついた左の眼は、白く濁っていた。
そこに風が吹いた。窓も開いていないのに、だ。
「……!?」
ソレティアは顔を上げ、素早く周囲を見回し、腰に下げたサーベルに手をかけた。
「何者だ!」
『傷も痛むだろうに、気丈な人ですね』
それは女の声だった。女性にしては低めのソレティアの声よりも、さらに一段階低かった。だが、不思議と艶のある滑らかな声だった。
「何者だと訊いている」
『私は外道師のハルベーデラと申します。お見知りおきを』
「外道師……まさか、貴様……!」
燭台の明かりが大きく揺らいだ。ソレティアの影が、床に、壁に、踊った。
部屋の隅はすっかり暗黒に満ちていて、何も見えない。ハルベーデラと名乗った女――外道師が、どこにいるのかわからない。
ソレティアはサーベルに手をかけたまま、油断なく周囲を見回していた。それを見ている俺は、そこはかとない居心地の悪さを覚え始めていた。他人のプライベートを覗き見しているようなものだからだ。
「貴様が殺ったのか。ジェイス様を、貴様が……!」
『あなたが余計なことをしてくれたおかげで、後払い分の報酬を受け取り損ねてしまいました』
「貴様……ッ!」
ソレティアはサーベルを抜いた。ユティハを刺殺した薄く輝く刃が、獲物を求めて彷徨い始める。
『私はユティハ様の願を叶えただけ。私はその対価に報酬を受け取った。ただそれだけの関係です』
「殺す……!」
『できるものならば。でも、あなたでは私を見つけることも困難でしょうね』
「どんな手段を使ってでも、私は貴様を殺す」
ソレティアはサーベルを幾度か振るった。風を切る音が仄暗い室内に響いた。
肩で息をしながら、ソレティアは眠るジェイスの顔を見た。
「優しいあなたは望まないでしょうけれど、私はあの外道を殺します。あなたの指輪に誓って」
ソレティア、何をする気なんだ――。
俺はソレティアの紫色の瞳の鋭利な輝きを目にして、確かに怖気を覚えた。




