↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
解願師〜人の願いは呪いへと。最強の能力者に拾われた俺、同じ境遇の少女と世界のカラクリをぶち壊す~  作者: 一式鍵
第18章:王都にて

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

107/116

19-06. ファイヴァルレドの在処

 野営地の焚火の前で、ペルミナは座っていた。寝ていろと言ったが、「自分の限界は自分が知っている」と言って、頑として言うことを聞かなかった。


「私は、未だに、ヴァレスの魅了術に、かかっている」


 ベスを挟んで向こう側にいるペルミナがそんなことを言った。ちなみにヤミは異端審問官たちの輪の中に加わっている。昔馴染みの知り合いがいたのだとか。


 ペルミナはぼそぼそと続けた。


「本当は、怖い。死にたく、ない。ヴァレスのそばで、もっと、戦いたい。認められ、たい」

「それは私、魅了術じゃないと思うよ」


 ベスが少し笑いながら言った。その右手は俺の左手を握りっぱなしだ。そして今、ベスの左手はペルミナの右手に重ねられている。


「好きなんじゃない? ヴァレスのこと」

「好き?」

「あの人確かにイケメンだし、強いし、それに過去戦って破れてるんでしょう?」

「……確か、に、負けた」

「それは好きになっちゃう要素てんこ盛りだと思うなあ、私」

「……わからない。好きに、なると、どうなる?」

「ええとね」


 ベスは何やらペルミナに耳打ちした。


「確かに、ヴァレスの前に、いると、気分が、高揚することが、ある」

「ほかにもさ」


 また耳打ちする。蚊帳の外の俺だが、ベスに捕まっているのでこの場を離れることもできない。


「触れる、なんて、無理」

「簡単だよ。こうしてガッと掴んじゃえば、きっと逃げないから」

「……俺は逃げないけどさ」

「最初は私、逃げられるかなってドキドキしてたんだからね」

「そうなの?」


 最初がいつなのか、もう覚えていないけど。


「あんたって、時々腹が立つほど鈍(にぶ)いよね」

「……ごめん」


 とりあえず謝罪。こうしておけば波風は立ちにくい。


 寒風が吹き抜けていく。焚火があるとはいえ、この時期に野営なんてするもんじゃない。だが、幸いにして雪は積もらなさそうだった。


「死ぬ時は、手を握って、もらえるだろう、か」

「そういうこと考えないのよ、ペルミナ。あなたのことは私たちが助けてみせる」

「最適解、ではない。合理的、では、ない」

「最適で合理的な解答だけが正解だなんて、誰が決めたの?」


 ベスはどこまでも真摯に言葉を紡(つむ)ぐ。


「しかし、その結果、皆が危険に、晒される」

「今更でしょー」

「今更だね」


 ベスと俺の声が重なった。


「ずっと危険に晒されてきたんだ。それに俺たちが挑もうとしているのは、ジムレグやあるいはテスタロサ、そして大魔導たち、ゲドルタそのもの。危険じゃない事なんて一つもない」

「確か、に、そう、だ」


 ペルミナは笑ったようだった。声も表情もなかったが、何となくそんな気がした。


「エリザベス、ファイヴァルレドは、ヴィレオリア公爵が、持っている」

「え、どうしてわかるの?」

「ザルメラ女侯爵は、シロだ。五年前、ティラール家が、襲撃された時、ザルメラの魔法術師部隊、白鷲(しろわし)騎士団、に、動きは、なかった」

「……消去法か。でも、ヴィレオリア公爵の方は?」

「公爵のそばに、ガティアスという、魔法術師が、いた、だろう?」


 いた。ジェミニア女王防衛に助力してもらった男だ。


「事件の前後の、ガティアスの、動向が、追え、なかった」

「まさか……じゃぁ、うちを襲ったのはヴィレオリア公爵の刺客(しかく)だったっていうの!?」

「声が大きいよ、ベス」


 俺が窘(たしな)めると、ベスは肩を縮めて小さくなった。俺は確認するように言う。


「ファイヴァルレドを奪い、ティラール家を根絶やしにすれば、ゲドルタへ至る方法はなくなる、そう考えた可能性があると」

「そう、だ。可能性の、一つ、と、言っておくが」

「んー、若いの三人で何を話してるのさ」


 ヤミが少し赤い顔をして戻ってきた。


「異端審問官がお酒持ってたんですか?」

「お、レア、鋭い!」


 焚火を挟んで向かい側に腰を下ろし、ヤミが分けてもらったと思しき小さな革の水袋に口を付ける。


「この時期から野営を伴う場合は、酒を携行してもいいってことになったんだってさ」

「寒いからですか」

「そういうこと。おかげで久しぶりに飲んだわぁ」


 グリード局長ってのは本当に実利主義者なんだろうなぁ、などと思ったりする。


「で、あれだろ。ファイヴァルレドがどこにあるかって話だろ」

「そうです、先生。聞いてたんですか?」

「ベスの表情見てたらすぐ想像できたよ」


 ヤミはまた酒を飲んで口元を拭(ぬぐ)った。


「実はアタシもずっとそうは思っていた。ただいくらあの狸親父と言っても、いきなりそんなことを言ったらアタシも首が飛びかねない。王家すら凌(しの)ぐ力の持ち主だし、悪人ってわけでもない。むしろ今の王国にはなければならない人物だ。力技でどうのこうのするのは、それこそ国家に対する逆賊になりかねない」

「じゃぁ……」

「そこでザルメラ女侯爵の出番さ。王家の紹介があれば会うことは難しくないさ」


 ヤミは事も無(な)げに言った。


「ジムレグはどうします、先生」

「奴はファイヴァルレドが現れたら、自(おの)ずから出てくるさ」


 そう言ってヤミはベスを見た。


「短気は起こすんじゃないよ、ベス」

「わ、わ、わ、わかってます、師匠」


 明らかにわかってない様子のベスの右手を、俺は両手で包んでポンポンと叩いた。


「必ず俺たちの望んだ未来になる。そうなるために俺たち頑張ってるだろ」

「でも、私の願いはファイヴァルレドを手に入れることじゃない」


 ベスは首を振った。


「お前の、願いは――」


 ペルミナが少し胸のあたりを気にしながら言った。


「仇(かたき)討(う)ちなのか?」

「……うん」


 その理由を俺は責められない。俺だってジルフィムを慈悲なく討った。俺に許されてベスがダメというのは道理が合わない。


「だが、ヴィレオリア、公爵を、殺すわけには、いかない」

「……わかってる」


 わかってない。


 ――それが俺にはわかる。


「最後は君が決めることだよ、ベス。誰が何と言おうと、自分の想いに、自分の願いに従うんだ。どうせ俺たちにはそれしかできないんだから」

「それが呪いであったとしても?」

「それが人だ」


 俺は焚火の向こうのヤミをちらりと見る。ヤミは目を細めて俺を見ていた。口角を上げながら。だから俺は、俺の言葉が間違えてはいないと確信を持てた。


「呪いだの願いだの、そこに善悪はもしかしたらあるかもしれない。けれど、呪いも願いも、人の心から生まれるものだ。そこには正しさも誤りもない。誰かの願いとぶつかるか、誰かの呪いとぶつかるか。それだけだと俺は思うんだ」

「私が仇討ちを成し遂げてしまったら、王国全体が呪いに包まれるでしょうね」

「だからと言って、君が願いを飲み下す理由にはならなくない?」


 俺がそう言うと、ベスは黙り込んだ。


「俺は父さんと母さん、領地の人々の仇(かたき)を討った」

「でも、レアの場合は大悪人だったじゃない。大勢の人々を殺して、死体すら辱(はずかし)めた!」

「君がどう考えたとしても――」


 俺は薪(たきぎ)を火に放り込んだ。すぐにパチパチと音を立てて爆(は)ぜる。


「俺は君と一緒にいるよ」

「ばっ、ばばば、ばっ」


 ベスは勢いよく手を離した。


「ばかっ、恥ずかしいこと言わないでよね!」

「いーまーさーらー!」


 ヤミが手を打って茶化してくる。


「あんたたちいっつも手繋いでんじゃないのさ」

「そ、そそ、そ、それは」

「二人は、恋人、なのか?」


 ペルミナまで乗ってきた。


 恋人かどうかはともかく――俺は再びベスの右手を捕まえた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。