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青年と少女コボルトの緩い自給自足生活  作者: 未羊


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第8話 それぞれの謎と秘密

「今更だけど、本当にここで住むつもりなの?」


 ミアズマディアーの肉を頬張っていると、シスイがカインに改めて確認の質問をしている。

 カインは口の中で肉をかみながら、こくりと頷いている。


「あの、やっぱりここは住むには適してないということなのでしょうか」


「そりゃね。魔瘴の森という名称からして、普通の連中は遠慮するものよ」


 ワムが心配そうにしている。それに対して、シスイは何を言っているんだという感じで答えている。


 それにしても、ワムはコボルトとはいえど、ずいぶんと難しい言葉も知っているようだ。

 世間一般のコボルトのイメージといえば、犬が二足歩行しているだけの野蛮な種族というものである。

 ところが、初めて見た頃から、ワムというのは世間一般のイメージとはずいぶん違うような感じである。さらにいえば、名前を持っているということも引っかかる。

 魔族たちは、普通は種族名で呼ばれるものだ。名持ちというのは、その実力を認められた特殊な個体にしか見られないものである。だというのに、ワムはどう見ても貧弱で秀でた力など持っていないように感じる個体だ。このギャップに、カインは何か引っかかりを持っているのである。


「カインさん、どうかなさったのですか?」


「いや、なんでもない」


 黙り込むカインの姿を見て、ワムは心配そうに声をかける。

 考えごとをしていたカインは、ちょっと反応が遅れてしまう。


「とりあえずは、ここで住むのは決定事項だ。魔族狩りがうろついている以上、ワムは住む場所が外にはないからな」


「ふーん。魔族狩りの話を聞いただけじゃわからなかったけれど、外の世界って思った以上に厄介なことになってるのね……」


 カインが事情を話すと、シスイはあぐらをかきながらカインにジト目を向けている。


「なんといっても、魔王が倒されたからな。だから、魔族に恨みを持つ人間たちが、魔族を無差別に殺し始めたんだよ」


「ばっかみたい……」


 シスイは愚痴をこぼすと、ミアズマディアーの肉を一気に食いちぎっている。

 ワムよりもちょっと大きいくらいの姿のシスイだが、これまた水の精霊のイメージとはかけ離れた、がさつで豪快な性格なのである。


「まあ、この沼の周囲はあたしの力が及ぶから安全よ。それが証拠に、この辺りは瘴気が薄いでしょう?」


「あっ、確かにそうですね。これって、シスイさんの力のおかげだったんですね」


 ワムは今はじめて気が付いたような反応をしている。

 たき火が照らし出す風景の中には、どす黒い瘴気のようなものがほとんど見えないのである。

 これは、水の精霊であるシスイが自身の力を作用させて瘴気を遠ざけているおかげだ。

 瘴気というのは心と体に大きく影響を及ぼす。長く吸い込み続ければ、心を病み、やがては力を暴走させてしまう。その瘴気が濃く漂っているからこそ、この森は魔瘴の森と呼ばれるのである。


「生活をする上で必要なことがあったら声をかけてよね。あたしの力で解決できそうなことなら、なんだってやってあげるから」


「ああ、頼りにしているよ、シスイ」


 最後はあぐらをかいたまま、両手を腰に当てて胸を張るシスイ。そのあまりにも自信たっぷりな態度に、カインもつい笑いながら話してしまうくらいである。

 さすがに笑われたのは嫌ではあるが、頼られることは悪く思わないために、その時のシスイはへんてこな表情をしていたのはいうまでもない。


 食事を終えると、早速ミアズマディアーの毛皮にくるまりながら、ワムは小屋の中ですやすやと眠っている。

 一時的に気を失っていたが、やはり心身ともに疲労がたまっていたのだろう。とても気持ちよさそうに眠っている。


「まったく、魔族の子を助けるとは、あんたもずいぶんとお人好しなことをしたものね。勇者のお仲間さん?」


「その呼び方はやめろ。今の俺はもう、勇者の仲間でも何でもない。ただのお尋ね者さ」


 シスイが意地悪そうにカインの顔を覗きながら言い放つと、カインの方はそっと目を閉じて顔を逸らしている。


「魔王を討伐したというのに、ずいぶんと扱いが悪そうね。何があったのよ」


「話せば長くなるんだが、いいか?」


「あたしはカインに助けてもらったからね。愚痴くらい聞いてあげるわよ」


「……そっか」


 シスイの態度に笑みをこぼしたカインだったが、そこから語った内容は、とても笑顔で話せるようなものではなかった。

 愚痴を聞くといっていたシスイが本気でドン引きするくらいの酷い内容だったのだから。


「うぇっ……。そんなのありなわけ?」


「悪いが、これが事実なんだよ。だから、今の俺はこんな風に身をやつしているってわけだ。どこにも所属できず、元々持っていた冒険者の身分で放浪しまくるしかない。……ワムを助けたことでお尋ね者になったことで、どちらかといえば清々した気分だ」


「……苦労してるのね。それだったら、なおさらここで住むべきだわね。誰も来ないんだから」


「ああ、世話になるよ、シスイ」


 この言葉を最後に、カインもシスイもそのまま黙り込んでしまう。

 二人の目の前では、明かりと暖を取るためのたき火が、ゆらゆらと揺れながら燃えている。


「さて、俺もそろそろ眠るよ。それじゃ、おやすみ」


「ええ、おやすみなさい。眠って、面倒なこと全部忘れちゃいなさいよ」


「ああ、そうできれば最高だな」


 立ち上がったカインは、右手を上げながら小屋の方へと歩いていく。

 カインの姿を見送ったシスイは、頬杖をつきながら目の前のたき火をしんみりとした表情で見つめ続けていた。

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