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青年と少女コボルトの緩い自給自足生活  作者: 未羊


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第6話 居住拠点

 燃え盛る集落。聞こえてくる怒号と悲鳴。

 ワムは、突然襲った悲劇を前に、ただ立ち尽くしている。


(なに? 一体何が起きているの?)


 少し前まで普通に笑い声があふれていたはずなのに、その光景はあっという間に一変してしまった。


「ワム!」


「お父さん! お母さん!」


 立ち尽くすワムの前に、大きなコボルトが二人現れる。どうやらワムの両親のようだ。


「もうここはダメだ」


「お前だけでも、生き延びておくれ」


「嫌よ。お父さんとお母さんも一緒に!」


 両親の言葉に、ワムは大きな声で懇願する。だが、その願いは無情にも届かなかった。


「あっちで声がしたぞ!」


「探せ! 魔族は皆殺しだ!」


 なんということだろうか。ワムの叫び声が敵を呼び寄せてしまう。


「可愛いワムや」


「必ず、生き延びてくれ」


 ワムの両親は隠し階段にワムを押し込み、ワムは暗闇の中に一人取り残されてしまう。

 ドンドンと叩くワムだったが、やがて大きな声が響いたかと思うと、静かになってしまった。

 コボルトの直感で、両親が死んだことを悟ったワムは、階段を降りた先の隠し通路を通って必死に逃げていった。


 ―――


「お父さん、お母さん……。ごめんなさい。ごめんなさい……」


 眠っているワムは、涙を流しながら呟いている。寝言のようだが、消えてしまいそうな小さな声である上に、表情はとても辛そうである。


(やれやれ。このコボルトはずいぶんとつらい目に遭ってきたようだわね。森の外では、厄介な状況にあるというわけかしら……)


 ワムの寝言を聞いていたシスイは、心配そうにワムを見つめている。

 カインについてきていたことで仕方なく受け入れたシスイだったが、深刻な事情を抱えていそうなワムに、ちょっと情を移しそうになっていた。


 その頃のカインはというと、剣を持って森の中に立っている。

 精神を集中しているのか、目を閉じて呼吸を整えている。


「はあっ!」


 そうかと思えば、目を見開き、気合いの一声を放つ。

 同時に剣を振り向き、周りにある木を次々と切り倒していっている。

 ズズーンという大きな音を立てて、木は次々と地面へと転がっていく。


「ふぅ、これくらいあればどうにかできるかな」


 かなりの本数を切り倒したカインは、それを持って沼の近くの開けたところまで戻ってくる。

 カインが戻ってきたのを見ると、シスイはワムを膝枕に乗せたまま声をかける。


「カイン、戻ってきたわね。また、ずいぶんと木を切ってきたみたいだけど、家でも建てる気?」


「その通りだが?」


 ワムが寝ているので立てないシスイだが、カインに対して呆れたような反応を見せている。カインの方は何を言っているんだという感じで言葉を返している。


「どうせ俺たちは、外じゃお尋ね者なんだ。こういう場所でもないと、のんびり暮らせないだろう?」


「お尋ね者って……。あんたは何を……って、魔族狩りからこの子を助けたんだっけか。あたしの時といい、本当にお人好しね」


「そういうな。助けられる相手を放っておけないだけさ」


 シスイに言われたカインは、淡々と答えている。

 それにしても、人間相手に対してはあまりしゃべらなかったカインだが、ワムやシスイ相手にはかなり口数が多いようだ。カインは人間であるので、普通は逆だとは思われるのだが、一体どういうことなのだろうか。


「ワムはどうだ?」


 持ち帰ってきた木の加工を始めながら、カインはワムの状態を確認している。


「よく眠っているけれど、うなされているみたいね。聞き取れた分だけからするに、おそらくは魔族狩りに襲われた時のことを思い出しているんだわ」


「そうか」


 シスイから返ってきた内容に、カインはものすごく短く反応を示すだけだった。

 聞いてきたというのに、答えたら短い反応。普通ならば怒りそうなところだが、シスイはカインのことを分かっているのか、ただ黙って作業をする光景を眺めていた。


「う……ん……」


 やがて、気を失っていたワムが目を覚ます。


「よく眠れたかしら」


「ひゃうっ!」


 目を覚まして目を擦っていたワムは、突然声をかけられて全身を硬直させている。


「ははっ、驚かせちゃったかしら。あたしは水の精霊のシスイよ。ここまでやってきたことは覚えているかしら」


「あ……。そうでしたね」


 心配するような表情をして声をかけてくるシスイの姿を見て、ワムはすぐに自分の状況を思い出したようだ。思い出すと同時に、その表情がまた暗くなってしまう。


「何があったのかは想像でしかないけれど、ここでは何も心配することはないわよ。あたしとカインがいるんだし、場所が場所だから、他人は簡単にやってこれないわ」


「は、はい……。お世話に、なります」


 気持ちを落ち着かせようとして声をかけるシスイだが、ワムは暗い表情のまま、ぼそぼそと話すだけだった。やはり、先程まで見ていた夢が相当影響しているのだろう。

 どこにがさがさという音が響き渡る。

 全身を硬直させたワムは、毛を逆立たせながら音のした方向を見る。


「悪い、驚かせちまったみたいだな」


「か、カインさん」


 そこに立っていたのは、カインだった。よく見ると、その後ろには木造の小屋が見える。


「カインさん、あの小屋は?」


「ああ、ワムが寝ている間に建てたんだ。ここで暮らすんだから、雨風しのげるところがある方がいいと思ってな。安心してくれ、部屋はちゃんと分けてあるから」


 ワムが質問をすると、カインは真顔で答えている。あまりにも突拍子もないことに、ワムはどう反応していいのか困っているようだ。


「まったく、短時間で小屋を完成させちゃうから、ワムの理解が追いつかなくなっちゃってるじゃないのよ」


「俺、変なことしたっけかなぁ……」


「まったく、これだから無自覚は困るのよ」


 予想外の反応をされて、カインは戸惑っているようである。


 なんにしても、魔瘴の森の中に居住拠点ができた。

 今この時から、青年とコボルト、それと水の精霊の隠遁生活が始まったのだ。

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